Don’t think. FEEL! (考えるな、感じろ!)
ブルース=リーの名作『燃えよドラゴン』で有名なこのセリフ。
たまに高い専門性を要求される分野で何の訓練も受けてない人が言ってるのを見かけることがあって以前から気になっていました。
「ゴチャゴチャ考えるより直感が大事」ということは確かにあるんだけど、だからといって基礎を学ばなくて良い理由にはならないと思うのです。
そこで元のシーンを見直してみたところ、やっぱ「バカは永遠に強くなれない」って意味にしか読み取れなかったのでメモしておきます。
Don’t think. FEEL! (考えるな、感じろ)
問題となる「考えるな、感じろ」のシーンは、リーが弟子に手合わせを誘うところから始まります。「Kick me.」と自分に蹴りを入れるようにけしかけるのです。
リー: 蹴ってみろ。
(弟子が状況を飲み込めないまま蹴り込んでくる)
リー: 何だそれは見世物か?大切なのは情動だ。やり直し。
(弟子、感情をむき出しにして蹴る)
リー: いま『情動』だと言ったはずだ。怒りとは違う。もう一度!俺に!
(弟子、無心になって鋭い蹴込みを放つ)
リー: そうだ!何か感じたか?
弟子: えーっと…
リー:(弟子の頭をひっぱたきながら)考えるな、感じろ!Lee: Kick me.
Lee: What was that? An Exhibition? We need emotional content. Try again.
Lee: I said “emotional content”. Not anger! Now try again! WITH ME!
Lee: That’s it! How did it feel?
Stu.: Let me think…
Lee: Don’t think. FEEL!
せっかく内なる衝動を捉えたのに、また理由を考え始めたので怒ったのですね。
「emotional content」とは
ここで「感じる」の核となる概念「emotional content」について考えます。一般的な邦訳では「五感を研ぎ澄ます」となってるようですが、それだと文脈が繋がらない気がして本稿では『情動』としました。
確かに組手のとき「五感を研ぎ澄ます」必要はあるけど、打ち込みの瞬間は本能的な『ここだ』という感情に突き動かされているはずです。
「emotional content」を「五感」と訳してしまうと、途中で弟子が闘争心むき出しになる説明もつきません。弟子は「emotion」を「直感」ではなく「感情」と解釈したはずです。だとすると、「直感」と「感情」どちらとも取れる訳語を当てたほうが自然でしょう。
細かい部分ではありますが、武道経験者はこの違いを明確に区別すると思います。思想を理解する上で大事な流れだと思うのでちょっと気になりました。
なぜ「考えてはいけない」のか
「考える」ことと「悩み、立ち止まること」はほとんど同義だと思っています。極限状態で決断を迫られるとどうしても判断が一瞬遅くなる。
それに脳は体の中でも突出して酸素を大量に消費する器官です。競技経験者はこれを実感として知ってるでしょう。
運動中に考えると体のパフォーマンスが落ちる
私、学生時代は陸上で400mやってたんですけど「スタート失敗した」とか余計なこと考え始めると本当ろくな記録が出ませんでした。普通に走ってても途中で完全に酸素の供給が追いつかなくなる競技なので、酸欠ポイントが前倒しになるとハンパなくきついです。
体のパフォーマンスを上げたかったら確かに頭を空っぽにした方が良いと思う。
直感は経験によって裏付けされた最適解
一方、同じスポーツでも球技や格闘技の場合は臨機応変な対応が求められます。しかしその都度考えていると機を逃すので直感に任せることになるでしょう。
ただ、この直感とは経験によって裏打ちされたその人なりの最適解です。あらゆる想定を事前に叩き込んでいるから自然と体が動くのであって、その仕込みがなければ絶対に体は動きません。
考えちゃいけないんじゃなくて「クリティカルな場面で初めての状況に追い込まれたらダメ」と考えた方がしっくり来ます。
そういう意味ではデスクワークだって同じですし、機械だって「よく使うルーチンをメモリに置いとけばいちいちロードしないで済むから速い」ですし一般性は高そうです。
「考えるな、感じろ」の後に続くシーン
話を『燃えよドラゴン』に戻しましょう。
「考えるな、感じろ」のシーンには続きがあります。弟子を諫めた直後のリーは次のように語り出すのです。
「これは月を示す指と似ている。指に気を取られていると栄光を見失うぞ。」
Lee: It’s like a finger pointing away to the moon.Do not concentrate on the finger or you will miss all of the heavenly glory!
突き立てた指先にばかり目を向けていたら、その先にある輝かしい月の存在に気付くことはないだろう、という寓話です。
「蹴ってみろ」と言われるままに体を動かしているだけでは、永遠に相手を倒せません。二回目の叱咤で「with me」と強調してるのが、まさにこの部分なのだと思います。
まず目的意識を持てと言っている。その上で「Don’t think」を目指せという。私には「取捨選択を怠らずに研鑚を積め」と言ってるようにしか聞こえませんでした。
基礎を十分固めた上で勝敗を分かつのが直感であって、努力することを放棄したらいつまで経っても先に進めない。「まずはどうしたいのか考えろ、話はそれからだ。」私はそのように受け止めました。
このセリフを訓練しないことの言い訳に使うのは、絶望的にダメだと思うの。
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