この記事では私が留学中にお世話になったIntern先のNPOを紹介します。私はNew York市にいる貧困層と移民に法的なサービスを提供するNPOでInternshipを行いました。InternshipでNPOを体験してまず思ったのが、日本の大企業とは何もかもが違うなということです。働き方が違う、働く時間が違う、働く人々が常に入れ替わるといつも変化しています。小さな組織は大きな組織とのManagementがぜんぜん違うのです。そこでは大企業では出会えない人達が働いていました。
中でも最も驚いたことは多くの人々が「無給」で働いていたということです。Intern先では組織の代表ともう一人時間給で働く人だけが「有給」でした。その他の職員は無給で働いていました。NPOは基本的にお金が無いので、代表はいつもFundraising(寄付金集め)で頭を悩ませていました。だから有給の職員を雇う余裕がなかったのです。
プロボノ(Pro bono)という制度をその時に知りました。プロボノ(Pro bono)は、弁護士など法律に携わる職業の人々が無報酬で行う、ボランティアの公益事業あるいは公益の法律家活動を言います。普段は別の仕事をしているが、週に1日だけ、もしくは一年間のある期間だけ、普段所属している組織とは別の組織、例えば公共性の高いNPOで弁護士が働く。そんな働き方を認めてくれるのが「プロボノ(Pro bono)」という制度です。
また事務所では、求職活動中の弁護士も働いていました。これは働いていない期間を有意義に使うことで、次の就職先を確保するためだと思います。そして、この弁護士は私のIntern期間中に目出度く新たな就職先が決まり、NYから去っていきました。他にも、求職活動中の経営コンサルタントも事務所にいました。事務所内の業務改善を行い、それらを資料にまとめて新たな新たな顧客獲得のための実績として活用していたのです。そして、先の弁護士と同様に業務改善を行った証拠となる分厚い資料を活用して、新たな就職先を決めました。求職活動中の期間、職歴に空白を空けないようにする。そのためにNPOにて「無給」で働く。これはNPOと求職者の双方に利益のある関係だなと思いました。転職が当たり前の米国社会の一面を私は事務所で目の当たりにしました。
次にパラリーガルparalegal、これはまだ弁護士の資格を持っていない法科大学院の学生達の事です。社会の貧困層や移民たちのための法律事務所だったので、女性の法曹関係者が多く働いていました。そして、彼らも法律事務所での実務経験を積むために「無給」で、各種法律業務を手伝っていました。NPOで経験を積むことで、後の就職活動でその実績を活かすためです。米国社会では新卒採用という制度が存在しないため、新卒者も転職者も同一に競わなければならないのです。そこでは日本のように「コミュニケーション能力」という意味不明な能力ではなく、「実務能力」というより具体的な能力・実績を示さなければならないのです。色々な意見はあるとは思いますが、実務能力を問われない日本の新卒採用制度は米国社会に比べると、ずいぶんと学生にとっては優しい制度(生ぬるい制度)だなと思います。ただし採用時点での労働者の能力を比較すると、米国社会が圧倒的に優っています。
弁護士、コンサルタント、法科大学院の学生達、これら専門家達がNPOで「無給」で働くのです。NPOにとっては良い話だとは思いますが、私には米国の競争社会の厳しさを感じられる体験でした。また、これはいわば「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」に書かれている考え方をInternet上ではなく、現実世界で実行した事例ですね。そして、NPOでInternしている大学生の一人と話した際に、「New Yorkは大都会で何でも簡単にできる。でも、お金を稼ぐことだけは簡単ではない」と言っていました。大学生の内から実務能力を身に付けなければならないので、米国は日本に比べると厳しいと思います。特に実務に直結しない専攻の学生達はIntern先で苦労していました。具体的な学部の例を挙げると、一般教養・社会学・哲学などの学部の学生たちです。
そしてこのNPOで人々は「無給」で働いているので、来る時間が違う、来ない日が多いと人によって事務所にいる時間が全然違います。私は最初人々が「無給」で働いていると分からなかったので、なんでみなこんなにも違うのだろうなと随分と混乱しました。事務所に朝の10時に行ったら、誰もいなくて来客対応を全て自分でしなければいけないという事態もしょっちゅうありました。
また「無給」なので、NPO代表が頭ごなしに命令することはできません。もしそれをしたら次の日から来なくなります。実際、喧嘩別れして事務所を去ったスタッフを何人も知っています。「無給」で働く人々には「やりがい」を与えなければならないのです。正直、これはとても難しい組織運営です。ただ、大学生達の場合は「推薦状」という就職活動の際に有利になる書類の発行をチラつかせることで多少引き止めが聞きます。通常「推薦状」はある一定期間・一定時間働いた場合に発行されます。とは言っても、この「推薦状」も絶対ではないので、やりがいがなければ彼らは事務所を去ってしまいます。
もう一つ別の観点から事務所の運営を紹介すると、私のIntern先のNPOは他のNPOよりは運営を上手くやっていたとは思います。そこでは複数のNPOが同じ事務所を借りて、経理・総務・ITなどの間接業務を共同して行っていたのです。ですから独自のMail Systemもありました。零細NPOだとこういうMail Systemはなくて、G-mailを活用していたりします。他にも事務所の立地という観点から言うと、資金力に乏しいNPOにも関わらず、Wall Streetに近いLower Manhattanに事務所を構えることが出来ていました。他の多くのNPOはもっと立地条件の悪い場所、例えばManhattanの外れにある教会の片隅を間借りして事務所を運営していたりします。
立ち上がったばかりの小さなベンチャー企業が一つの事務所を共同で借りて経費を削減する。いわば、このようなincubation(保育器)の試みをNPOでも実践していたのです。また、立ち上がったばかりのベンチャー企業やNPOは共通した問題に接することが多いので、ご近所同士で相談して経験を共有できる、こういった観点からも共同事務所というのは良い発想だと思います。
国が変われば、組織の規模が変わればManagementも大きく異なる。それをInternship先のNPOで強く実感させられました。Internship先のNPOの運営については以上で紹介終わりです。次の記事、米国の「無給」Internshipの問題~無給で働くということ~にて「無給」 Internshipの問題点を詳細に書いているので、この記事に引き続き読み進めて下さい。
- この記事の続編 米国の「無給」Internshipの問題~無給で働くということ~
追記
米国社会では新卒採用という制度が存在しないため、新卒者も転職者も同一に競わなければならないのです。そこでは日本のように「コミュニケーション能力」という意味不明な能力ではなく、「実務能力」というより具体的な能力・実績を示さなければならないのです。
このblog記事の下書きをTwitter上で書いている際に、上記の赤字箇所にたくさんのReplyをもらいました。そのReplyを一通り読みましたが、各人十人十色の「コミュニケーション能力」の「定義」を持っているようです。こんな曖昧模糊とした能力を最も重要な能力として掲げているなんて、やっぱりおかしいし、これじゃ日本企業は、より具体的な実務能力を重視する米国企業と比べて競争力を失うはずだと思いました。また、このような「コミュニケーション能力」を重視していて果たして、「日本人の微妙な常識が通じない他国の優秀な学生」を採用出来るのだろうかと疑問に思いました。
この「コミュニケーション能力」についてさらに知りたい方のための資料紹介
- 就活に「コミュニケーション力」は本当に必要なのか
- エンゼルバンクの7巻と8巻で新卒採用を含めた日本の人事制度について書かれています。
- このエンゼルバンクの元ネタになった書籍
ピンバック: 米国の「無給」Internshipの問題~無給で働くということ~ « The Wisdom of Crowds – JP
はじめまして。
自転車について検索しているうちにたどり着き、
いつも楽しく拝読させてもらっています。
本日、NHKのクローズアップ現代が
プロボノを扱ってまして、この記事を思い出しコメントしました。
と思ったら、ツイッターで紹介されていますね。
失礼しました。