ロンドン地下鉄の「フォント」が変更される理由

1916年に制作され、以来人々に愛されてきたロンドン地下鉄の書体「ジョンストン」のデザインが改訂された。時刻表はスマートフォンでチェックするのが当たり前となった、現在のデジタル時代にふさわしい書体として生まれ変わった。
ロンドン地下鉄の「フォント」が変更される理由
IMAGE COURTESY OF MONOTYPE

ロンドン交通局(TfL)は2016年7月、1916年以来London Underground (ロンドン地下鉄)を飾ってきた書体「ジョンストン」のデザインを変更する。

「ジョンストン」という書体は、エドワード・ジョンストンが1916年にデザインしたサンセリフ書体だ。ロンドン地下鉄の赤い丸のサインとともに、人々に長年愛されてきた。

書体ジョンストンは、親しみやすくてセンスのいいサンセリフで、時代を完全に先取りしていた。エドワード・ジョンストンはカリグラファーでもあったが、彼がつくった地下鉄向けの書体はカリグラフのように装飾的ではない。100年にわたって採用されてきた理由はそこにあるのだろう。整然としてバランスがとれたこの書体は、地下鉄のような慌ただしい環境で使用される書体としては理想的だったのだ。

今回の改訂は、1979年に活版から写真植字への移行期に合わせてリデザインされた改訂以来、初のアップデートとなる(79年に生まれた書体は「New Johnston」と呼ばれ、日本人デザイナーの河野英一がデザインを手がけた)。


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今年生まれる新書体の名前は「ジョンストン100」。フォントデザインを手がけるMonotype(モノタイプ)がデザインしたものだ。

ジョンストン100は、インターネット時代に合わせ画面上でも見やすいようにデザインされている。書体デザインに関して先見の明があったエドワード・ジョンストンもさすがに、未来の旅行者がスマートフォンのアプリを使って電車の時刻表を確認することは予測できなかっただろう。

書体を新しくしたのには、(1)画面上でも読みやすくする、(2)1916年に考案されたオリジナルデザインの「魂」や「クセ」を取り戻す、という2つのねらいがある。例えば小文字「g」の斜めの湾曲部分や、普通よりも幅の広い「U」は、以前の改訂でなくなっていたがジョンストン100で復活している。

また、ジョンストン100には「@」や「#」といったネット時代に使われる文字も追加された。モノタイプは、ほかの文字になじむように、慎重にそれらのデザインを見直したのだ。

書体の現代化においてもうひとつ重要になったのは、ジョンストン100がもつ5種類のウェイト(フォントの太さ)だ。従来のジョンストンのウェイトは、太すぎてスマートフォンの画面で読みづらい場合があったが、新たに登場した「Thin」や「Hairline」の細さではそんなことはない。

今回の改訂は、ユーザーにとって不可欠だといえるだろう。ジョンストンが誕生してから100年が経ったいま、ロンドン地下鉄(のサーヴィス)は街だけでなく、デスクトップのブラウザーやタッチスクリーン、旅行者のポケットの中にも存在するのだから。

IMAGE COURTESY OF MONOTYPE

TEXT BY MARGARET RHODES

TRANSLATION BY MINORI YAGURA, HIROKO GOHARA/GALILEO