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メディアの退蔵益-この半年でいちばんショックを受けたテレビの話

 週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。

メディアの退蔵益-この半年でいちばんショックを受けたテレビの話

メディアの退蔵益-この半年でいちばんショックを受けたテレビの話

 ここ1年半ほどテレビに関する調査データをもとにコンサルや政府の研究会などの仕事をさせていただいたが……なにもわかっちゃいなかったのか?

退蔵益をユーザーに還元するアイデア テレビの退蔵益を最大化するアイデア

●電源を入れるだけでお金がもらえるテレビ
●消せないテレビ

●1日ぶんのテレビを自動で巻き戻して超スピードでお薦め部分だけ見せてくれるスーパー・テレビダイジェスト・コントローラー
●消したつもりでも勝手に電源が入るテレビ(味の素の入れ物の振り出し口の穴を大きくする的発想)
●CMをスキップしてないとレコーダーが認識してマイクロペイメントでポイントが支払われる。 ●家のなかのあらゆるところに画面があってどうしても見てしまうテレビ(これはふつうに街なかでもやればいいと思う)
●気分にあわせてチャンネルやオンデマンドを自動で切り替えてくれるスーパー・アンビエントテレビ ●Google Glass(つまりARメガネで視野の右上)にずっとテレビが映っている
●テレビのない状態(ないのでメディアの退蔵益も関係なくなる) ●テレビ番組表のないテレビ(突然素晴らしい番組を流すのでつけておくしかない)

↑テレビという20世紀最大のメディアを最大限生かすには、この退蔵益を最大化するのか還元するのかにヒントがあるんじゃないか? 単純に、本を買っておいて読まない(積ん読)とかとはちょっと違う次元の可能性があると思うのだが。

 あるテレビの勉強会でお話をさせてもらって、終わったあとにキー局の経営に関わる方に声をかけられた。「あなたの話はわかったけどちょっとだけ違うんですよ、テレビ局というのは」と言われた。私の論旨は、「ネットとデジタルの時代にテレビが生き残るには、テレビのファンを作るしかない」というものだった。「そのためにデジタルが活用できるのに、それをメーカーとテレビ局が組んでやっていない」とも言ったと思う。

 人は立場によってモノの見方が変わるという本当にいい例だと思う。その人は、「テレビ局にとっては“真剣には見ていないとき”がテレビの理想なんですよ」と言ってのけたのだ。テレビに見入っているときはCMが邪魔になる。好きな番組は録画してCMスキップされてしまう。「甲子園球場名物のカレー屋では阪神が頑張るとカレーが売れない」というような構造のお話。その点、誰もまじめに見ていないときのテレビは、家庭の真ん中にドンとかまえた巨大な広告塔、いまの言葉で言えばデジタルサイネージ。最近のテレビは大きいから、渋谷駅前の交差点に座って生活している感じになってくる。

 そこで繰り返し流されるトヨタや花王のコマーシャル(広告量が多いので例としてあげさせてもらいました)によって、商品名を覚えて、イメージが作り上げられて消費につながる。広告代理店も、広告主も、テレビ局も、日本経済も大ハッピーとなる。まさにビジネスモデルの視点だけから言えば理想のテレビではないか。

 ところで、これを先週ある新聞社の方にしたら「新聞もそうですよ」とあっさり言われてしまった。日本の新聞は宅配なので下手に真剣に読まれるよりなんとなく届いていて、なんとなく読まれたりするのがよいのだそうな。いちばんいいのは、奥さんがチラシ広告だけ床に広げてシッカリ読み込んでいるような状態。これって、要するにメディアに対価は支払っているけど消費はされていない、いわば“メディアの退蔵益”とでもいうべきものだろう(退蔵益というのは、商品やサービスを買ったものの利用せずに返金もしなかったときに生ずる利益のことである)。

 買ったけど消費しなかったモノたちの記憶、みんな心当たりあるでしょう。私の奥さんが秋葉原の電話店でiPhoneを買ったときに、マクドナルドのコーヒー券を45枚ほどもらったのを思い出した(結局1回も行かなかったのだ)。私は海外旅行好きだが欧米人のように昼間ホテルで過ごす時間を楽しんだりしないので、まったくその部分を消費していない。テレビの退蔵益は、そういうなかではテレビ局・メーカー・広告主・出演者・視聴者とステークホルダーが多いので、話がちょっと見えにくかっただけなのだ。ちなみに、個人的にいちばん無駄になっていると思うのは、ヤフオク!のために毎月払っているお金。1年間に1回くらいしか使わないのに月額294円と書こうとしたら、ひとしれず2回も値上げして399円になっているじゃないか。

【お知らせ
2013年9月27日に、角川アスキー総合研究所で第一回のシンポジウムを開催します。登壇者は、伊藤穰一氏(MITメディアラボ所長)、川上量生氏(ドワンゴ代表取締役会長)、まつもとゆきひろ氏(Rubyアソシエーション理事長)という顔ぶれです。角川アスキー総研の主席研究員でもある方々のプレゼンと座談会(司会は遠藤諭)。ご興味のある方は、以下のサイトをご覧ください。
http://www.lab-kadokawa.com/event201309/

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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