2015年 06月 26日
取次第4位の栗田出版販売が本日(2015年6月26日)に民事再生法の適用を申請したとの報道が出ています。25日〆の翌日、しかも金曜日夕方にマスコミへ発表だなんて、ずいぶん周到じゃないですか。本社では今日通常通り業務されていましたよね、ほとんどの版元や書店にはむろん何も伝えてない。 【21時追記:申請が15時、保全命令が16:50に出たということで、そのあと栗田や大阪屋では来社していた版元に説明を始めたようです。また、来週からの出荷の納品先や伝票の書き方については栗田や大阪屋からFAXで取引先に案内が順次開始されるだろうと耳にしました。】 【21時半追記:ついに栗田からFAXが届きました。全17枚、うち2枚は大阪屋名義です。不鮮明なので読みにくそうですが、これから読みます(溜息)。】 【23時追記:仕事を挟みながらA4サイズ17枚をようやく読み終わりました。疲れた・・・。当エントリーに書いたいくつかの疑問への自答は近々書きこむつもりです。】 「文化通信」6月26日記事「栗田出版販売が民事再生を申請、大阪屋との経営統合目指す」によれば、「栗田出版販売は6月26日、東京地方裁判所に民事再生手続き開始を申し立てた。今後、大阪屋との経営統合による再生を目指すが、当面は大阪屋が仕入・返品業務を代行するほか、再生計画の認可後、経営統合までの期…」(以下の購読は有料登録が必要です)。 「帝国データバンク」大型倒産速報6月26日付「準大手・出版取次業者、出版取次では過去最大の倒産。栗田出版販売株式会社、民事再生法の適用を申請、負債134億9600万円」によれば、「〔・・・〕当社は、1918年(大正7年)6月創業、48年(昭和23年)6月に法人改組した業界準大手の雑誌・書籍取次販売業者。〔・・・〕約1800店内外の全国の書店に販売していた。他の大手業者とは異なり、中小・零細規模書店との関係構築に傾注し、〔・・・〕91年10月期には約701億7900万円を計上していた。 /しかし、近年は〔・・・〕減収基調が続き財務面も悪化。同業者との業務提携やグループ内での経営効率化などを進めていたものの、2014年9月期(97年に決算期変更)の年売上高は約329億3100万円に減少し、債務超過に転落していた。書籍の扱い部数の減少に歯止めがかからず、人員整理や営業所の統合を行うなどの合理化策も奏功せず、支え切れなくなり今回の措置となった。 /負債は2014年9月期末時点で約134億9600万円。 /なお、出版取次業者の倒産では過去最大の負債額となる」。 帝国データバンクの同記事はYahoo!ニュースBUSINESSやY!ファイナンスにも掲載中で、同記事を元にした「ITmedia eBook User」2015年06月26日17時15分更新の西尾泰三さんによる記事「栗田出版販売が民事再生申し立て 出版取次業者では過去最大の負債額――負債は2014年9月期末時点で約134億9600万円」も配信されました。同様の記事は「ITmediaビジネスONLINE」でも掲載されていますし、「ITmediaニュース」でも「取次準大手・栗田出版販売が民事再生申し立て 負債135億円」という簡潔な記事が出ました。「東京商工リサーチ」6月26日付記事「出版不況のあおりを受け、大手書籍取次で業界第4位の栗田出版販売(株)が民事再生法申請」でも報じられています。 【参照記事追加:「日経新聞」6月26日20:16更新「栗田出版販売が民事再生法申請 取次4位 」、「The Huffington Post」2015年06月26日19時51分JST投稿「栗田出版販売が民事再生法を申請 負債135億円、取次では過去最大の倒産」、「朝日新聞」2015年6月26日19時44分「出版取次の業界4位、栗田出版販売が再生法適用を申請」】 「新文化」6月26日付記事「栗田、民事再生手続き申請」によれば、「栗田出版販売は6月26日、東京地裁に対して民事再生手続き開始の申し立てを行い、同日午後4時50分ごろ同地裁が受理した」云々。業界人が詳報を期待して殺到しているらしくなかなか繋がりません。 +++ 業界人として気になるのは次のようなあたりです。 ・取次第3位の大阪屋との統合によって栗田帳合の書店は順次、大阪屋帳合になるのかどうか。戸田書店や書原はトーハンとの付き合いもあるので、大阪屋以外の取次に帳合変更をすることがありえるのかどうか。 ・戸田書店や書原のような中堅チェーン以外の独立系の帳合書店の経営にはどのような影響があるのか。神保町の岩波ブックセンター信山社や、千駄木の往来堂、西国分寺のBOOKS隆文堂などなど、個性派書店が多い。 ・栗田から何らかの通知がなければ、版元は来週明け29日以降、出荷を一時的に停止せざるをえない。取引先出版社や書店に案内が届くのはいつになるのか。 ・特に影響が大きいのはTRCのストックブックスを太洋社から栗田に変更した版元であり、図書館への供給が一時的に止まる可能性がある。ストックブックスを日販帳合で出荷している版元には無関係だが、栗田扱いの版元はストックブックスをいずれ大阪屋に帳合変更することになるのか。 ・OKCの共同設立など、協業には実績がある栗田と大阪屋だが、果たして本当に統合できるのか。ひと足早く危機を迎えた取次第5位の太洋社の場合は返品を出版共同流通、新刊納品を日販に委託している(注文納品は太洋社戸田センターで扱い、狭山の「在庫センター」は戸田センターに統合)。版元にとっては栗田も同様のイメージで、返品を今まで通り出版共同流通で扱い、新刊は太洋社同様に日販王子が扱うのかとも想像していた。大阪屋に統合の余力はあるのか(もっと正確に言えば、大阪屋の株主たちは今後も大阪屋を本気で支え続ける気がどこまであるのか)。 ・民事再生の成功や大阪屋との統合がうまくいかないと(何としてもやり遂げるのでしょうが)、書店や版元の連鎖倒産につながりかねない。例えばベストセラー『絶歌』の支払いは、版元に全額補償されるのだろうか。嫌な話、この機会を「廃業の絶好のタイミング」とする取引先が出てこないとも限らない。 +++ その後ようやく繋がった「新文化」の記事「栗田、民事再生手続き申請」の続きを以下に引きつつコメントを添えます。 1)現在、日販などが出資する出版共同流通が再生期間におけるスポンサー企業として候補に挙がっている。今後は再生へ向けて大阪屋との統合を目指す考え。 →大阪屋との統合ということで間違いないようですが、そうなると出版共同流通という「日販=大阪屋=栗田=太洋社」(そこには日教販、講談社、小学館、集英社も関係しています)のいわば「紐帯」は今後どのような位置付けになるのか。綱引きのあとに最終的にはすべて「日販」傘下に統合されていくのか。 2)同26日以降、栗田は当面の間、大阪屋に信用補完と物流代行の支援を受け、出版共同流通、OKC、KBCと連携して物流を行う。出版社における「新刊・注文分」の取引主体は大阪屋。「栗田分」としてOKCに搬入する。返品主体も大阪屋で、出版共同流通を経由して行う。出版社の請求先は栗田の条件で大阪屋に変更する。書店はこれまで通りの取引で実務作業に変更はない。 →昨日6月25日〆の請求計算書は出版社はどこに送ればいいのか。栗田でいいのでしょうけれど、26日付の納品分はすでに栗田宛の伝票でOKCに納品済みです。29日からは大阪屋宛の伝票で納品する、ということなのかしら。 →帳合書店の実務作業に変更はないとのことですが、書店さんにも色々言い分はあることでしょう。 3)今後、7月6日ごろに債務者説明会を開催する予定。約3カ月後に再生計画案を提出、債権者集会はその2カ月後になると思われる。 →2001年12月の鈴木書店倒産以来の大きな説明会と集会になる、という版元が多いことでしょう。鈴木の時のように紛糾しないといいですが。 4)首都圏栗田会の奥村弘志会長(南天堂書房)は、早くも「栗田支援」を表明。大阪屋の株主6社も支援する方針を固めているようだ。 →大阪屋の株主6社というのは、昨秋の大阪屋再建で出資した楽天、大日本印刷、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館の6社かと思われます。大阪屋ウェブサイトの会社概要によると主要株主は、楽天、大日本印刷、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、OSSで、取引銀行は三菱東京UFJ銀行、池田泉州銀行、但馬銀行、関西アーバン銀行、など。OSSというのは昨秋設立された大阪屋の持株会社である株式会社OSS(Osakaya Stock Society)のことで、「新文化」2014年10月9日付記事「大阪屋、6社による出資額は総額37億円に」によれば、「大阪屋の既存株主563人が所有する株式1394万株をOSSに移転して持株会社OSSを設立」と。古い情報ですが、wikipediaによれば大阪屋の主要株主には、講談社や小学館のほかに、新潮社や文藝春秋も挙がっていました。 +++ 大阪屋が「栗田出版販売㈱ 民事再生申立にともなう表明」というPDFを6月26日付で公開しています。長文なので途中で区切りながらコメントと注釈を付します。 「本日6月26 日(金)15 時、栗田出版販売(株)が東京地方裁判所に民事再生手続き開始を申立て、即日同裁判所より保全命令が出されました。ご承知の通り、当社と栗田出版販売(株)とは、2009 年の包括的業務提携以来、2010 年に共同出資による(株)OKC を設立し、以降、新刊の出荷を中心に物流協業を行ってまいりました。/同社の今回の申立てにあたっては、当社出資先でもある出版共同流通(株)から、同社への再生期間における支援、並びに(株)OKC に対しての協業の意向表明をいただいており、当社は、そのような支援体制も含め、出版業界の混乱を避けるとともに、物流協業の立場から、出版共同流通(株)とともに同社の再生支援の一翼を担っていくことといたしました。/再生期における物流面では、出版共同流通(株)の支援をいただけることから、当社は商流面での支援のため「仕入代行機能」を担い、安定した商品供給をサポートしてまいります。また、同社再生期における出版共同流通(株)の支援期間を経た後の当社との更なる協業範囲の拡大・将来の統合の実現に向けた協議を進めてまいる所存です」。 →大阪屋の「仕入代行機能」というのは、版元の新刊見本も大阪屋の仕入窓口に持っていく、ということなのか、太洋社への新刊を日販王子に搬入するというのと同じく、仕入窓口は栗田で搬入は大阪屋ということなのか、よく分かりません。 「長期にわたる出版売上の低迷により、その規模はピーク時の3分の2まで縮小し、現在もその傾向に歯止めをかけることが出来ておりません。当社もこのような業量縮小傾向を見据えたなかで、経営基盤の強化に向け鋭意取り組みを進めているところです。/このような市場環境のもと、栗田出版販売(株)とは取引先書店のエリア性や特性、企業規模や文化といった観点からの親和性も高く、両社の個性や持ち味をいかしたかたちでの協業・統合効果を双方が享受できるものと考えております。また、協業・統合による取扱い規模の拡大は、当社が現在進めている注文物流機能の拡充や最新POSシステム構築といったサービスの活用効率、今後のオムニチャネルやO2Oビジネス展開といった面からの期待効果も大きいものと考えております」。 →「オムニチャンネル」とは、「IT用語辞典バイナリ」によれば「実店舗やオンラインストアをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合すること、および、そうした統合販売チャネルの構築によってどのような販売チャネルからも同じように商品を購入できる環境を実現することである。/オムニチャネルでは、実店舗、オンラインモールなどの通販サイト、自社サイト、テレビ通販、カタログ通販、ダイレクトメール、ソーシャルメディアなど、あらゆる顧客接点から同質の利便性で商品を注文・購入できるという点、および、ウェブ上で注文して店舗で受け取ったり店舗で在庫がなかった商品を即座にオンラインでの問い合わせで補ったりできるよう販路を融合する点、といった要素が含まれる」。 →また、「O2O(オーツーオー;Online to Offline)」とはこれまた上記バイナリによれば「主にEコマースの分野で用いられる用語で、オンラインとオフラインの購買活動が連携し合うこと、または、オンラインでの活動が実店舗などでの購買に影響を及ぼすこと、などの意味の語である。/O2Oの例としては、オンラインで商品価格や仕様を調べた上で店舗に赴き店頭で商品を購入する、オンラインで配布されるクーポンを実店舗で使用する、店頭に用意された情報源からオンラインに接続して商品やサービスの詳細情報にアクセスする、位置情報と連動させて近場の店舗の情報を発信する、といった行動を挙げることができる」。 「書店数の減少が続く中、当社や栗田出版販売(株)といった出版取次が経営基盤を安定させ存在感を持ち続けることが、出版マーケットの下支えに不可欠な出版流通の多様性(書店・出版社の取引の多様性)にもつながり、またそれが大きな意味で出版の多様性を担保することにもなるものと信じております。/栗田出版販売(株) 再生までの間、出版共同流通(株)、並びに当社出資元の出版社とも連携し同社再生を支援してまいります。〔・・・〕今後とも、皆様のご協力のもと様々なタイプの個性を持った街ナカ書店の活性化と、新たな「本のある空間」づくりに取り組み、心を育み、創造力を育てる「本の力」に多くの地域の皆様が触れていただける場を広げていけるよう努めてまいります」。 →「個性を持った街ナカ書店の活性化と、新たな「本のある空間」づくりに取り組み」というくだりに注目したいです。前者は独立系の個性豊かな小零細書店を引き続き応援する、という表明でしょうし、後者はリーディングスタイルが展開しているような外へ打って出る戦略をさらに進めるということなのでしょう。リーディングスタイルのほかにも、大阪屋ではMUJIキャナルシティ博多店で展開している「MUJI BOOKS」の企画・選書・運営を、かの松岡正剛さん率いる編集工学研究所に任せています。丸善丸の内本店の「松丸本舗」の閉店以後、このお店が成功すれば、リーディングスタイルに続く、「個性的な複合書店」の強力な推進力を大阪屋さんは得ることになるのでしょう。 +++ 今日は栗田帳合以外の書店さんにとっても大きなニュースがありました。「日経新聞」6月26日付記事「出版6社、発売後一定期間で値下げ アマゾンと組む」で報じられた、本日26日から開始となる「夏の読書推進お買い得キャンペーン」の件です。これは、ダイヤモンド社・インプレス・主婦の友社・翔泳社・サンクチュアリ出版・廣済堂の6社の、発売から一定期間たった書籍約110点が、アマゾンで2割引きで販売されるキャンペーン。日経新聞は「低価格で集客したいアマゾンと、返品を減らしたい出版社の思惑が一致した」と報じています。 同様の記事には「ITmediaニュース」6月26日12時00分更新の「Amazon、発売後一定期間経った書籍を値下げ販売 「もしドラ」など110冊を期間限定で2割引き」があります。再販制度の破壊か、と激怒した書店さんがおられたということなのか、主婦の友はすぐにウェブサイトで「時限再販契約は結んでいない」と否定しました。「日本経済新聞6月26日付報道について」ではごく簡潔に「本日、日本経済新聞に掲載されました「アマゾンで2割値下げ」に関する記事について、全く事実と異なる部分についてご説明いたします。/主婦の友社はアマゾンと「時限再販契約」など一切結んでおりません。/詳細につきましては、下記のデータをご確認くださいませ」と書いて、PDFを公開しています。PDFには取締役販売担当の矢﨑謙三さんのお名前で、「本日、日本経済新聞に掲載されました「アマゾンで 2 割値下げ」に関する記事について、全く事実と異なる部分についてご説明いたします。主婦の友社はアマゾンと「時限再販契約」など一切結んでおりません。さも契約をしたかのような記事が掲載されたことに対し、アマゾン側、また報道した日本経済新聞社にも猛烈に抗議をいたし、アマゾンからは未契約の確認を取っております。この報道記事にて、大変ご不快な思いや混乱を招きましたことにつきまして、深くお詫び申しあげます」とのことです。 本件につきましては「ITmediaニュース」6月26日15時18分更新の「主婦の友社、日経報道に「猛烈に抗議」 Amazonの書籍値下げ販売めぐり」や、「新文化」6月26日付記事「主婦の友社、アマゾンとの時限再販契約を否定」もご参照ください。言うべきことは色々とありますが、アマゾンが値引き販売するなら、店頭の同商品も値引きするぞ、書店の損失分※は最終的に版元が補てんせよ、等々の抗議が書店さんの現場で起こりうるのは必至な気がします。 【※=27日12時注釈追記:定価販売で得られるはずだった売上を値引販売によって削られるということ。もともと書店の取り分は大きくないのに、アマゾンに客を持っていかれては余計に厳しい、という意味。版元にしてみればあくまでも特定の小売店を対象にした一時的なセールであり、一律に他店も一緒に全国的に展開する、という意図ではない。しかしアマゾンは全国の客から受注できるわけなので、リアル書店にしてみればたまったものではない。《小売の現場がないがしろにされているし、全国の新刊書店を敵に回した》、とすら思われるリスクが生じるだろうということ。ここでの版元と書店との間の認識の温度差と立場の違い、さらにアマゾンと他書店との間に生じている競争的溝は経験上から言って容易に縮まりようがない。win-winの関係などという業界の美辞麗句はもはや(というより最初から?)通用しないと思われる。】
by urag
| 2015-06-26 18:50
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