東日本大震災で九死に一生を得た被災馬、順調に回復
10月1日現在、日高町が受け入れた被災馬の総数は36頭に及ぶ。サラブレッドの他にも北海道和種や中半血の馬も含まれている。多くは福島県南相馬市の伝統行事「相馬野馬追」に出場していた馬で、そこで求められる気の強さ、闘争心を失わせないため、あえて去勢されていない馬も少なくない。今回の震災ではその類まれな精神力の強さで生き残った馬たちがいる。
受け入れ先である旧五輪育成センターにはダンツムソウ(牡10歳)という芦毛馬が避難してきた。この馬も野馬追で活躍していた一頭で、甲冑(かっちゅう)競馬での優勝経験も持つ。
現在、ダンツムソウは青々とした放牧地に1頭で放牧され、見る限り“普通の馬”として過ごしているが、震災で九死に一生を得た馬だ。「なんでも、この馬は犬と一緒に泳いで生き延びたそうです。」と、日高町でお世話をしている山口さんは伝える。
ダンツムソウは福島県で被災された会社員の方の愛馬で、地震発生後、海から近い場所にいたダンツムソウも津波に巻き込まれた。多くの馬が残酷な結末に引き込まれていた中、ダンツムソウは大量の海水を飲みながらも、一緒に飼われていた犬の「ハナ」と共に岸へと泳ぎ続け、生死の間をさまよっていた。地獄絵図の中を耐え抜く姿はまもなく発見され、馬と犬の命は助かった。泥の海でもがいたせいで、ダンツムソウは脚部に怪我を負ったが、その名の通り無双の底力で生きながらえた。奇跡的な生還を遂げたこの出来事はテレビ、新聞などで紹介され、ダンツムソウは今年8月31日、日高町へと疎開してきた。
移動してから1か月が経過し、新しい環境にも慣れた様子のダンツムソウ。馬体はしっかりしていて、表情にも余裕が感じられる。しかし、震災の辛い記憶が彼にどう影響しているのかは気になるところ。日高町での静かな日々で、少しでも心身が癒されることを願ってやまない。
他にも、原発20キロ圏内で放浪しているところを助けられたハーモニィドーケージも共に日高町入りした。震災直後、所有者の方と離れ離れになってしまったこの馬は、柵を壊して逃げ、あてもなく国道を歩いていたところを保護され、引退馬協会の保護下となった。福島県の同慶寺付近で保護されたことから、ハーモニィドーケージと名付けられ、その後、無事に所有者とも対面を果たした。こちらはダンツムソウより2つ上の牡12歳。「馬力があって、被災馬の中でも食欲旺盛さが目立つ馬です。」と、山口さんは話す。健康面は何の問題もなく、こちらもいたって元気な様子でいる。彼らの生きていく強さには本当に胸を打たれるばかりだ。
ダンツムソウ、ハーモニィドーケージら被災馬の日高町移動前の様子や経緯、近況はNPO法人引退馬協会のホームページ、ブログ、Twitter、Facebookで写真をまじえて公開しており、被災馬の実情を詳しく知ることができる。こちらもあわせてご覧ください。苦難に負けない馬たちの元気が詰まっています。
引退馬協会ホームページhttp://rha.or.jp/