半年ほど前の話になるけれど、小寺信良氏と津田大介氏の『CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ』(※1)が、クリエイティヴ・コモンズ・ライセンス(※2)を採用して発売された。そしてその両著者と白田秀彰法政大学社会学部准教授らを中心にMIAU(※3)が設立されたのは、まだ記憶に新しい。
インターネットが日常のものとなってから、コンテンツの流通に関する新しい決まりが必要だということは、少なくとも誰もがなんとなく感じていることだろう。勝手にアップロードしたり、それをダウンロードしたりすることで、誰かの権利が侵害されていたり、今までお金が入ってきていた人の手元にお金が入ってこなくなってきたりしている。でもその一方で、誰もが自分のつくったものを簡単に世界に向けて発表できる、今までなかったすばらしい環境が手に入っている。だから、色々むずかしい。 『CONTENT'S FUTURE』は、そういった現状を踏まえ、日本のコンテンツ業界の現在と未来について、各界の重鎮と対談した本だ。その書籍の中でも語られるクリエイティヴ・コモンズは、コンテンツの著作者の権利を柔軟に設定するためのひとつの指標としてつくられたものであり、同書籍それ自体にも「表示 - 非営利 - 改変禁止」というライセンスが採用され話題となった。そしてMIAUは、実際に浮上したダウンロード違法化(※4)やダビング10(※5)などに代表される法的な提案について公に話し合う際に、インターネットを使うユーザーを代表する立場がいない、という事態に応じて設立されたものだ。 これ以上詳しくはそれぞれのリンク先を読んでいただくことにして(とても重要な変化だと思うので、苦手な方もぜひ!)、ともあれメディアに大きな変化が訪れるとき、それに応じて決まりを変えていくことは必要なことだ。ぼくが高校生のときはポケットベルが全盛で、学校に持ってくることは禁止されていたし先生に見つかれば没収されたけれど、今は小学生でさえ携帯電話を持っていて、それが彼らの身の安全のためにも役立つ。もちろん同時に悪影響も指摘されているのは周知の通りだけれど、たとえばこうして学校の決まりがなんとなく(あるいははっきりと)変わる。ところが法律はなんとなく変わるわけにはいかないので、みんなで話し合う。その裂け目のところで、誰かが得をして、誰かが損をして、そしてその反対側で、それまでまったくなかったものが新しく生まれているからだ。 ぼくは本はなくならないと思うけれど、既にどんどん変わっているし、これからも変わっていくと思っている。それは、本がデジタル化されて流通してそれが合法だったり違法だったり、というような狭い世界の話ではない。コンテンツ業界全体の変化の一部として、音楽CDの売り上げとは裏腹にむしろ拡大している音楽ビジネス全体の一連の流れについて分析したり、新しく生まれたケータイ小説というジャンルやニンテンドーDSで世界文学全集を読むということについて真剣に考えたりすることのほうが、よっぽど重要だ。 『CONTENT'S FUTURE』が出版されたときもう既にアメリカでは多くのCCライセンス書籍が出ていたので、日本でもその後にたくさんの書籍が続くだろうなと思っていたら意外と出てこないので、ぼくは自分でつくることにした。「表示 - 非営利 - 継承」ライセンス(これは『CONTENT'S FUTURE』よりも緩いライセンスで、元のライセンスを継承する限り改変が許されている)のもとPDFで全ページをサイト上で無料公開する予定で、若手アーティストの作品集を、100部限定のZINEという形式で、2月14日に出版したばかりである(※6)。若手のアーティストにとって、作品がデジタルで広まっていくということにむしろ得のほうが多いというのは、概ねYoutubeが証明した。ぼくのつくったものはごくごく小さな規模の力ない実験でしかないけれど、そういう実験を行う人がたくさん増えればいいなという思いだけは力強く込めている。 ※1:『CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ』(翔泳社) http://blog.shoeisha.com/contentsfuture/ ※2:Creative Commons Japan - クリエイティブ・コモンズ・ジャパン http://www.creativecommons.jp/ ※3:Movements for Internet Active Users(MIAU:インターネット先進ユーザーの会) http://miau.jp/ ※4:私的録音録画小委員会:反対意見多数でも「ダウンロード違法化」のなぜ(IT Media NEWS) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/18/news125.html ※5:ダビング10(wikipedia) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B010 ※6: [numabooks know who] 001 タムラカヨ『ENJOY』 http://numabooks.exblog.jp/7470146/ ◎勝手にこの連載と姉妹っぽいタイトルをつけたトークショーシリーズ「ぼくたちと本とが変わるときの話」、はじめます。初回は3月5日、2回目は4月2日。よろしければぜひいらしてください。 http://mot8.exblog.jp/
by uchnm
| 2008-02-25 00:00
| 本と本屋
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