民法第900条4号の法定相続分について非嫡出子が嫡出子の1/2とするという規定が昨日最高裁判所で違憲であることが決定がされました。自分のタイムラインでも盛り上がりを見せている中、この違憲決定によって色々と問題も起こるのでは?という疑問の声もありました。
以下の、Togetterまとめは違憲決定にネガティブな反応を示した人を恣意的に集めたものでフルボッコになっていますが、よく分からないものに対してこういった反応があるのも理解できないことではありません。
「婚外子」相続差別違憲判断に憤慨する人々 - Togetter
ということで、既に誰かが書いていると思いますが、分かりやすくQ&A形式で勝手に疑問に答えていこうと思います。本当は小町で聞いてとお願いしたいところですが、小町だと検閲でなかなか引用は乗りにくいし、多分トピ立てできないですしね。コマッチャの知識を試す釣りトピを立てる釣り師がしばらくしたら出てくると思いますので、その前に対策をしておきましょう。
なお、以下は、topisyuが勝手にまとめたものですから、法律指南でもありませんし、正確性は保証できないので、困ったときは仲の良い弁護士に相談して下さい。このBlogにはアフィリエイトもないし、この件でお金を貰うこともありません。
Q.何が違憲になったの?
A.法定相続分を定めた民法第900条4号の以下の但し書きです。強調した部分ですね。
第900条4
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
Q.そもそも嫡出でない子(非嫡出子)とは?
A.嫡出子が法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供のことなので、非嫡出子で法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供となるわけですね。(本当は嫡出子の定義はもっと細かい。)日本では婚姻関係があるかは法定主義(法令で決まるという考え)ですから、法律上の婚姻をしていない夫婦、例えば事実婚の夫婦の子供も非嫡出子になります。
嫡という言葉には、正妻とか正統とか、そういう意味があるので、嫡は使うべきではないという意見があり、報道では「婚外子」や「婚内子」が使われています。(ということで、ここからは、婚外子、婚内子に統一します。)
Q.どうして違憲になったの?
A.憲法第14条1項に定める法の下の平等に反すると判断されました。以前には違憲ではないという判断が最高裁でなされたんですが(最高裁平成7年7月5日大法廷決定 ・民集第49巻7号1789頁)、現代の婚姻事情を考慮して今回は違憲になったわけですね。もっと詳しく知りたい人は、決定文が(既に!)アップロードされているのでこちらをご参照下さい。面白いですよ。
平成24年(ク)第984号,第985号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
平成25年9月4日 大法廷決定 (PDF)
Q.違憲になったということは明日から法律が変わるの?
A.決定文にも書いてあるとおり、”違憲判断は個別的効力しか有しない”ということで、今回の事案に限定してのものです。だから、今後の裁判所の判断もそうだし、すぐに民法が変わるわけではありません。ただ、判断の「参考にしてね」とは書いてあるし、普通憲法違反の判断があればその法律は改正されます。しばらくしたら変わるということですね。
Q.結婚しなくても子供を作っていいと最高裁が認めたのか?これでは日本の結婚制度が(以下、略
A.元々、婚外子でも法定相続分があるという規定が民法にはあったわけですから、婚外子の存在自体は最初から否定されていません。仮に、浮気して外に出来た婚外子についてであれば、浮気して外に子供作っている時点で、古き良き結婚を台無しにしていると思いますけどね。
ちなみに、今回違憲の決定があったのは、もちろん国内の事情もありますけど、国外事情もありますよね。長らく婚外子差別が残っていたフランス、ドイツも次々と解消していきましたし、日本どうするよというのはあったと思われます。
ここまでは固いQ&Aですが、ここからは小町案件風の質問に対する回答になります。
Q.これが違憲ということであれば愛人や隠し子が作り放題だと思うのは私だけでしょうか?
愛人については元々法定相続分はありません。内縁の妻でも同じ。日本では婚姻関係がなければ法定相続分はありません。だから、これが違憲になったからといって愛人が作り放題になるわけではありません。
Q.でも、隠し子は作り放題では?隠し子にまで、実子と同じ相続財産が与えられるのはおかしい!
誤解があるかもしれませんが、あくまで法定相続分の話ですからね。遺言で書いたことは法定相続分に優先します。民法第902条です。太字の部分。
第902条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
法定相続分の記載がある民法第900条は、この遺言がない時に揉めないように作られたもので、任意規定です。必ずその通りに相続しなければいけないわけではない。だから、法で定めた相続分ということで法定相続分という言葉を使っていて、原則は遺言で決まります。これは、今回の決定で変わった話ではありません。
Q.では、婚外子は、遺言で相続財産がゼロと書かれていれば受け取れないのでしょうか?
A.この話も今に始まったことではありません。民法第1028条に遺留分という考えがあります。これはさっきと違って遺言に優先する強行規定になっています。遺された親族が生活していけるように最低限の相続財産(それでも全財産の1/2~1/3ぐらい)を相続できるんですね。遺された親族は遺留分の放棄をしなければ、この遺留分の財産は受け取れます。だから、遺言に「婚外子には一銭も渡さん!」と書いてあっても婚外子は受け取れますし、仮に、実子に対して一銭も渡さんと書いてあっても、同じく実子も受け取れます。(ただ、今回の違憲判決で、遺留分についての差別もなくなります、たぶん。)
Q.死んだ夫の子供だって人が来たんですが、本当にこの人は婚外子?お父さんと違ってイケメンなんだけど……
A.婚外子でも誰もが父親の方の相続権を持っているんじゃないんですよね。父親が認知した場合に限定されます。母親の方は誰から生まれたかは出生した時点で分かるので、婚外子に母親の相続権があるのは確定するんですが、父親の方は誰か分からない。
だから、認知という手続きが必要になります。昔の私生児というのが父親に認知されていない婚外子、庶子というのが父親に認知されている婚外子です。今は、私生児や庶子という言葉は使わず、単に婚外子とするので、ちょっと分かりにくい。
Q.婚外子だって主張する詐欺が増えるのではないでしょうか?
元々、婚外子にも婚内子の1/2の法定相続分の権利があったわけですから、今に始まったことではありませんので、それで詐欺が増えるというのは眉唾な気がしますが、仮に嘘で相続を主張してくるなら、認知しているかどうかを確認するだけです。
Q.どうやって認知を確認するの?お父さん[ボケてて/死んでて]よく分からない。
認知は通常戸籍上届け出るか、遺言のどちらかになり、この場合は、旦那さんに婚外子がいるのは、戸籍や遺言を調べれば分かります。認知届していれば戸籍に記載があります。
では、認知していない場合はどうか。民法第787条に、強制認知という規定がありまして、子及びその代理人が認知してくれと主張できるんですね。裁判認知とも言われ、その男性以外とのSEXをしていないことなどを主張し、裁判所で決定してもらう。死後認知もあります。DNA検査をしたりもする。
Q.婚内子は親の介護義務があるのに、婚外子は介護もしなくてもいいし相続できるなんてズルい!
A.親の介護義務というのは扶養義務ですね。民法第877条に定めがあり、扶養義務があるのは直系血族及び兄弟姉妹とあります。それと、この場合の親は父親のことですよね。母親は婚外子でも母子関係は確認できますので。
では、非嫡出子がどうなるかと言えば、認知されていなければ父子関係が成立しないため、直系血族にならない。(一方で、法定相続分もない。)認知されている場合は、直系血族には、婚外子も含まれますので、義務はあります。
第877条
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
Q.法律的に扶養義務があっても、普通は婚外子は父親の介護はしないと思います
A.そもそも、扶養義務自体が、罰則規定があるものでもありませんし、必ずしも介護しなければいけないかといえばゴニョゴニョですが、それは置いておいて、確かにそういうことはあるかもしれない。介護を尽くして、死後認知で婚外子が登場し、法定相続分を持っていかれるというのは辛い。そこまでのことを考えるのであれば、婚外子がいないかを戸籍であったり、介護を受ける父親に聞いて調べておくんでしょうね。
Q.介護をこれだけしたのに、介護に関与しなかった婚外子がそんなにお金を取っていくのは納得いかない!
A.気持ちは分かるんですが、この話は、婚外子に限定しないですよね。相続権のある兄弟姉妹でもよく揉めるじゃないですか。「誰が一番親のことを介護したか分かってる?私でしょ?」「でもその介護には心が篭っていなかったじゃないか」「どうせ、お金だけが目当てだったんだろう」「本当に父さんのことを考えていたのは俺だ」などなど。そういう揉め事を回避するために、遺言や、民法第900条の法定相続分という考えがああるわけです。
Q.夫が遺した遺産といっても、これは夫婦で作ってきたもの。それをなぜ婚外子に(遺留分でも)あげなければならないの?
夫婦で作った財産=夫婦共有財産をなぜ婚外子に相続させなければいけないという話ですね。元々、法定相続分はあるのですから、額の問題はあるにせよ、今に始まったことではないのはこれも同じことです。
それはそれとして、この話がややこしいのは、夫婦で作った財産がそのまま相続財産ということではないということです。これは誤解されている人も多いはず。離婚時に議論にある夫婦共有財産では誰名義かは関係なく、夫婦の財産形成への寄与度で決まります。一方で、相続財産の場合は、寄与度ではなく、誰名義かどうかがポイントになる。だから、夫婦共有財産に見えて、預金や家や土地が全て妻名義なら相続財産の対象にはならない。婚外子に相続する財産がゼロという状態もありえる。
ただし、厄介なのは妻が専業主婦なら特別受益者とみなされ、遺留分には関係なかったりする。そして、税務上は相続税がかからないとか、まあ色々厄介なので、ここは詳しくは弁護士と税理士に聞いて下さい。
Q.私(妻)のほうが稼いでいて、それで作った共有財産を婚外子に相続させないといけないのは理不尽
妻が稼いでいるなら、そのお金で妻名義で財産を持ちましょう。そうしたらその財産は、たとえ財産分与上は夫婦共有財産として認められても、夫の相続財産の対象にはならない。(たぶん、そう。でも、揉めるかも)
Q.これじゃ法的に結婚する意味がないと思うのは私だけ?
法律婚をしないと、自分には相手の財産の法定相続権はありません。他にも、法律婚では双方の同意がなければ原則離婚できないという拘束力があったり、(最近は減額傾向にある)扶養控除がメリットとしてはあります。これらの話が変わったわけではなく、非嫡出子のデメリットが一つ減ったということですね。最初に書いたとおり、事実婚の夫婦の子供は非嫡出子扱いです。外に作ってきた子供が非嫡出子だったというケースばかりではなくなっています。
以上、自分のタイムラインで見かけたものを中心に質問形式にしてみました。「これはどう?」ということがあればTwitterでリプライしてくれたり、はてなブックマークで質問していただければ、書けるものは追記するようにします。ほとんどのことは前から知っていたわけではないので、間違いがあるかもしれません。気付いた方は指摘していただけると助かります。
結論としては、
『婚外子の相続や扶養義務(介護)がどうしても気になる人は、生前に旦那さんやお父さんの戸籍を確認したり、婚外子がいるかどうかを直接聞いておきましょう。分からなければ、遺言を書いてもらいましょう。
あとは、自分の力で作った財産は自分名義にしておきましょう。生前贈与については弁護士、税理士に相談の上。』
という感じでしょうか。