産経新聞によるこの報道がTwitter上で炎上しています。
政府、10代から「女性手帳」導入 骨太の方針で調整 何歳で妊娠? 人生設計考えて 2013.5.5 11:00
なぜ炎上しているのか。記事中に幾つか巨大な釣り針がありますので簡単に解説します。
政府が、女性を対象に10代から身体のメカニズムや将来設計について啓発する「女性手帳」(仮称)の導入を検討していることが4日、わかった。
10代から啓発目的で配布するというのが第一の釣り針です。10代に渡すというのは効果を考えてのことかもしれませんが、穿ってみれば10代から子作りをして欲しいという政府からのメッセージに受け止められます。産む機械じゃないですが、早く子どもを作れよという政府からのメッセージ。危うい。
また、将来設計について啓発するというのは、①政府が考える理想的な将来の生き方が存在すること、②女性が未啓発であることを前提としています。「貴方達は知らないだろうから、政府から正しい将来設計を教えてあげますよ」という上から目線のメッセージに伝わるわけですね。ここでもう炎上必至です。
内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」(議長・森雅子少子化担当相)は、妊娠判明時点で自治体が女性に配布する「母子健康手帳」よりも、早い段階からの「女性手帳」の導入が効果的とする見解を近く取りまとめる。子宮頸がん予防ワクチンを接種する10代前半時点や、20歳の子宮がん検診受診時点での一斉配布を想定している。
実際は、必ずしも10代からということでは無さそうなので、10代からの導入というのは産経新聞による釣りと考えたほうがいいかもしれません。そう強調した方が燃えやすいと記者が思ったのでしょう。「母子健康手帳」よりも早い段階からの導入ということで、対象は女性限定ということが分かります。「父子健康手帳」も自治体によってはあるんですけどね。これが第二の釣り針。「なぜ、男性は対象ではないのか」とつい突っ込みたくなる。
女性手帳では、30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨し、結婚や出産を人生設計の中に組み込む重要性を指摘する。ただ、個人の選択もあるため、啓発レベルにとどめる。
第三の釣り針が、女性手帳の中身で、”30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨し、結婚や出産を人生設計の中に組み込む重要性を指摘する。ただ、個人の選択もあるため、啓発レベルにとどめる”というところですね。30歳半ばまでの結婚や出産が政府が想定する理想的な人生設計とし、それを啓発しようとする。”啓発レベルにとどめる”というのもかなり危うい炎上ワードで、こう書いてしまうと、本心じゃないけど仕方なく”啓発レベル”にしたと読めてしまい、本来的には強制したい、制度的優遇・不遇を設けたいという意図があるように受け止められてしまいます。
他にも細かな要素を挙げればいくつかありますが、大きくはこの三つの釣り針が原因で、記事が炎上したのだと思われます。
この女性手帳導入を検討したのは、内閣府特命担当大臣である森まさ子参議院議員が議長を務める少子化危機突破タスクフォースです。このタスクフォースは、少子化対策に関して、官民の有識者が集まり、今年6月に発表予定の骨太の方針2013に向けて一定の報告を行うことが一つの目標となっています。今回の女性手帳はその他いくつかある政策の一つに過ぎません。
消費者庁 森まさこ大臣定例記者会見〜『少子化危機突破タスクフォース』の開催について他 – ガジェット通信
基本的な少子化対策の発想は、文中で森大臣が触れているように、
”横軸と縦軸”というふうにわたくし考えておりまして、第1回の時にその「配布資料」を出しますけれども、横軸は人生でして、”出会い・結婚・妊娠・出産・育児”という横軸、で、縦軸が”家庭・仕事先(会社)・地域”という縦軸がございまして、その”横軸と縦軸”でマトリックスをつくりまして、今ある、今まで打ってきた政府の制度、今動いている制度。それから各自治体でやっている”婚活支援”でありますとか様々な制度。色別でつくりまして、それと「空白の部分」がある訳です。
ですから、今ある制度を強化すると同時に、空白に部分にも(制度を)打っていくという。切れ目ない支援をしていかないと、どこかでつまずくともうそれでイヤになっちゃいますので、そういう意味で、その中で「もうこれはやれる」し「やるべきだ」という課題があれば、すぐ実行に移したいということで、今朝も閣議の合間に総理とお話をして「いよいよ明日スタートですから」ということで報告をさせて頂きました。
女性の人生の中での制度的な空白部分に手をうち、一貫した少子化対策を行うというものです。文中の横軸と縦軸のマトリックスとは、『少子化危機突破タスクフォース(第1回)議事次第 - 内閣府』の中の、
で、吉村美栄子山形県知事による山形県での少子化対策について説明されたものとなります。これをご覧になられれば分かる通り、産経新聞の記事中でも触れられている若者支援、子育て世代の経済的負担の軽減、ワークライフバランスの改善というのも個別では検討対象となっていますので、女性手帳以外の政策も当然ながら骨太の方針では提示されることでしょう。
待機児童問題については、第2回の会議にて、待機児童を大幅に改善させた横浜市の事例も取り上げられていますし、恐らく、それについても触れられる可能性が高い。
ここまで読んで見れば、必ずしも女性にだけ負担をかけるような、女性の生き方だけを既定することが骨太の方針に取り入れられる政策ではないはずなんですが、産経新聞の記事の書き方があまりにゲスで、出鼻から見せ方を失敗してしまい、反感を買ってしまいました。
三重県知事は、第1回の会議の資料の最後に以下のようなプレゼンテーションをしています。
価値観やライフスタイルが多様化している中、少子化対策の必要性、つまり「大義」について改めて示しながら議論を進めることが必要。政治・行政の仕事は、国民を幸福にすること。一人でも多くの国民に幸福を実感してもらうこと。その幸福を実感している国民のパワーが国の持続可能な発展の原動力。くれぐれも「産めよ増やせよ」という誤ったメッセージが伝わらないように。「産みたい」という希望を持っていても、様々な事情でそれが叶わない方がプレッシャーを感じてしまうケースが多々ある。
残念ながら、産経新聞の記事だけ読めば、「産めよ増やせよ」というメッセージがあるように伝わってしまいますよね。政治的に自民党寄りの産経新聞は援護射撃のつもりでこの記事を書いたのでしょうが、無能な働き者は害悪であるを地で行ってしまいました。
先のタスクフォースには、ミスインターナショナル2012の吉松育美さんがいらっしゃったりして委員は多彩なラインナップとなっていますが、経営者代表といった位置付けで日本マクドナルドの社長である原田泳幸さんもいらっしゃいます。
日本マクドナルドと言えば、2000年に男性店員が過労死、2007年に女性店長が過労死、2008年に未払い残業代の支払い裁判で敗訴するなど、労働問題を以前から抱えており、ワークライフバランスの改善も少子化対策には必要ということが議論されているこのタスクフォースの面々に入るのは多少違和感がありますよね。
過去問題があったけれどそれを是正したことを評価してということでしょうか。不良が更正すれば見直すというような、セーフティネットが日本社会で働いていることを示す素晴らしい人選ですよね。
元の産経新聞の記事には関連リンクとして、明治大学文学部准教授の平山満紀さんの記事が紹介されています。
【からだ こころ いのち】 卵子老化「マル高」出産…復活させたNHK報道の衝撃
この平山准教授の記事は大変興味深いものが多く、釣り記事の宝庫となっていますので、好事家はご覧になってみて下さい。この人の記事を関連で紹介している時点で元記事の釣り度の高さが分かりますよね。
【からだ こころ いのち】セックス体験、早まる女性…30代15%童貞、男性「萎縮」の悪循環(1/3ページ) - MSN産経west
【からだ こころ いのち】オウム真理教“神秘体験”が証明、“超能力”は諸刃の剣(1/3ページ) - MSN産経west
【からだ こころ いのち 夏の特別編(1)】アダルトビデオ大国日本でセックスレスが多い謎(1/3ページ) - MSN産経west