日はまた昇る

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中国海軍フリゲートのロックオンその後

中国は事実を否定

中国は、1月19日と1月30日の火器管制レーダー照射(ロックオン)について、そういった事実はないと完全に否定した。

中国国防省は8日、中国海軍艦艇が海上自衛隊艦艇に火器管制レーダーを照射した問題で、日本が照射を受けたとする1月30日と、照射された疑いがあるとする同19日の両日とも、中国海軍の艦艇は火器管制レーダーを「使用していない」としている。
火器管制レーダー、使用せず…中国国防省が声明

上記は、中国国防部の見解だが、日本の防衛省とは異なり、中国国防部は中国人民解放軍に対する指揮権は有していない。中国人民解放軍は、あくまで中国共産党の軍隊であり、政府機関である中国国防部は直接人民解放軍を指揮することはない。
とはいえ、その声明は、中国政府の正式見解であるのは疑いもない。上記の報道があった後、中国外交部も同じく事実を否定する声明を発表した。*1


日本は再反論へ

中国は日本が捏造したと主張しているが、日本国内でこの言を信じる人は、ごく僅かな反日勢力を除けばほとんどいないだろう。中国の言を信じるならば、「日本の海上自衛隊は、火器管制レーダーと通常の索敵レーダーの区別もつかないボンクラ海軍」ということになる。
日本を貶めたい人はそうに違いないと言うかもしれないが、米軍その他他国軍との訓練の実績や評判、艦艇の能力、観艦式などで垣間見える乗員の練度などを考えれば、明確に否定できる。また日本は今、中国との関係修復を図っていたところだし、尖閣の件がエスカレートするのは施政権を維持している日本にとって何ら利益はない。捏造を行なってまで中国との対立を煽る外交上の利益はない。
以上を総合すると、中国の方が虚偽の声明を発表したのだと考えていいだろう。

岸田文雄外相は8日の記者会見で、中国軍艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射した問題について中国国防省が「日本側が対外公表した事案の内容は事実に合致しない」と伝えてきたことを明らかにした。中国側は射撃用レーダーの使用そのものを否定しており、日本側は「防衛省で慎重かつ詳細な分析を行った結果だ。説明はまったく受け入れられない」と反論した。
日本は中国に反論 射撃レーダー「未使用」を再否定

岸田外相は即座に中国に対し反論した。当然だと思う。


中国はなぜこんな見え透いたウソをつくのか?

日本の海上自衛隊は、火器管制レーダーを照射された証拠を持っていると見ていい。ただし、これを公表するのは、日本の防衛機密を公にすることになる。そのため証拠を簡単には外国へ示すことはできない。
唯一、日本が情報を共有できる国は、アメリカだけだ。

パネッタ米国防長官は6日、中国海軍の艦船が海上自衛隊の護衛艦などに火器管制レーダーを照射した問題に関連して「中国が太平洋の平和と繁栄に自国の利益を見いだしたいのであれば、他国を威嚇したり、さらなる領土を求めて領有権問題を起こしたりすべきではない」と述べ、中国政府に対して挑発行為を中止するよう異例の強い調子で警告した。
レーダー照射:米、中国に異例の警告「他国を威嚇するな」

カーニー米大統領報道官は7日の記者会見で、中国海軍艦艇による海上自衛隊艦艇などへのレーダー照射と、ロシア軍機が北海道上空を領空侵犯したことについて、「地域の同盟国と共に状況を監視し、これに関与していく」と述べた。
「状況を監視し関与していく」 中国レーダー照射とロ軍機領空侵犯で米大統領報道官

この件で、アメリカは、中国が火器管制レーダーを使用したことに疑問を持っていないことがわかる。
中国も、日本だけでなく日本の同盟国たるアメリカの動向は注意深く見ている。
しかしだからといって、火器管制レーダーの照射を認めると、その行動の正当性を主張しなければならない。それは真っ向からアメリカの権益とぶつかる。
証拠を日本は公開できないのだろうから、ここは完全否定で乗り切るしかない、そう中国は考えたのだろう。

2/12追記 アメリカの反応

米国務省のヌランド報道官は11日の記者会見で、中国海軍艦船が海上自衛隊護衛艦に射撃管制用レーダーを照射した問題で、米国は(照射が)実際にあったと「確信している」と述べ、日本政府の発表を支持する姿勢を示した。
中国艦船が照射と米も「確信」 日本発表を全面支持

当然の反応なのだが、アメリカも明確に上記の発表を行った。
証拠の補足として念のため追記した。


この中国の発言から推測できること

火器管制レーダーを照射する行動はさすがにまずいと思っている

中国といえども、国際世論は見極めている。火器管制レーダーの照射は、国連憲章に違反すると非難されても反論ができない。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
国連憲章第1章第2条第4項

それに対して強弁すればするほど、国際関係で中国は孤立していくだろう。

中国共産党中央は火器管制レーダー照射を事前に承知していなかった

もし事前に承知しており、火器管制レーダー照射の許可を与えていたのであれば、その後の進展を考慮していたはずだ。ところが日本がこの問題を公表して2日、中国は正式な見解を発表できなかった。そして出てきたのは、完全否定だった。
ここから推測できることは、中国は虚をつかれたと思われる。
もっとも現場の独行とも思えないのだが、火器管制レーダーの照射の許可は人民解放軍の中だけで決断された可能性が高いと考える。
ここにきて、日本のジャーナリストからも、軍の独行論を採るレポートがいくつか出てきている。

火器管制レーダー照射で中国は得たものはない

中国国防部によるレーダー照射否定声明は、一方的に日本の非を非難するものであった。

需要指出的是,近年来,日方舰机经常对中国海军舰机长时间、近距离跟踪监视,是造成中日海空安全问题的根源,中方就此多次向日方提出了交涉。
(近年、日本の艦船・航空機が経常的に中国海軍艦艇と航空機に長時間、近距離で監視を続けているのが、中国海軍、空軍の安全に関する根本的な問題であると、中国は日本に対し、繰り返し提示していたことは指摘されなければならない)
日本舰机近距离跟踪监视是造成中日海空安全问题的根源

しかし、この声明には、日本に対する非難はあっても、アメリカに対しては全く触れられていない。
中国は明らかに苛立っているようだ。その背景には、日米同盟が強化され、アメリカは明確に中国に対し警告を発している点があるのだろう。
少なくとも、中国がこの火器管制レーダー照射で得た国益は全くないと言える。


火器管制レーダー照射は当分起こらないと予測

中国は、現実的な外交を行う。
この一連の事件で、中国の国益は失われることはあっても、得るものは全くなかった。
日米同盟は強化され、日本の国内世論は更に強硬になっている。
中国の現状から鑑みると、簡単に折れるわけにはいかないだろうが、軍事挑発を頻発させることの愚は今回の事件で認識したと思われる。
当分、少なくとも火器管制レーダー照射というあからさまな軍事挑発は起こらないと思う。

日本は、中国に再発防止策を求める一方、緊急時に話し合いが持てるよう、日本の自衛隊と中国人民解放軍との間のホットライン、または日本の防衛省と中国共産党中央軍事委員会とのホットラインの創設を求めるべきだ。
それに応じない場合、国連などでも中国に対して訴えていくべきだ。


(追記)安倍首相の謝罪要求を支持する

安倍首相は、次のように応じた。

安倍晋三首相は8日夜、BSフジの番組で、中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦への火器管制レーダー照射について「中国は(事実関係を)認め、謝罪して、再発防止に努めてほしい」と述べ、謝罪を要求した。
 中国政府が日本の発表を「完全な捏造(ねつぞう)」と主張したことに対し、首相は「全く認めるわけにはいかない」と批判。その根拠について「レーダー(の装置)がこちらを向いているかも含め、目視でも写真などでも確認している。慎重に分析した結果、間違いない」と強調した。
 一方で首相は「中国がやっている情報戦に応じるつもりはない」と表明。その上で「こういうところから(対立が)エスカレートしてはいけない。中国自身が国際社会で信用を失うことになる」と述べ、中国に冷静な対応を求めた。
安倍首相、中国に謝罪要求=レーダー照射「写真でも確認」

強く要求すべきところは要求し、一方でエスカレートを望まないというメッセージを投げている。
中国はこれをうけて軟化することも、謝罪することもないだろうが、そしてそれを安倍首相もわかっているだろうが、こういった是々非々の応酬は、中国指導層にも強い印象を残すだろう。
この発言を支持する。



(脚注)

*1:http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0208&f=politics_0208_001.shtml