会社人生の大半をやりきれない思いを抱いて過ごした人見光夫(前編「ずっとむなしい、なにもなく終わる・・・」)。定年間近の土壇場で、世界最高のエンジン技術「スカイアクティブ(SKYACTIV)」を生み出した(関連記事1234)。

 人見が画期的なのは、スカイアクティブの成功にとどまらない。設計手法を刷新したことも大きい。試作と実験に頼るかつての設計手法を見直し、解析を重んじる形にガラリと変えた。日本の自動車メーカーで、マツダほど徹底する会社はない。開発効率を高めて、“小兵”のマツダが超大手と戦う土俵を整える。

 マツダには、金がないんです。でも貧乏だからこそできることが絶対にあるんです。

ひとみ・みつお。1954年生まれ。岡山県出身。1979年東大院修了後、東洋工業(現マツダ)に入社。一貫してエンジン開発に携わり、2000年パワートレイン先行開発部長。2011年執行役員、2014年常務執行役員。2017年から現職。(写真:加藤 康)
ひとみ・みつお。1954年生まれ。岡山県出身。1979年東大院修了後、東洋工業(現マツダ)に入社。一貫してエンジン開発に携わり、2000年パワートレイン先行開発部長。2011年執行役員、2014年常務執行役員。2017年から現職。(写真:加藤 康)

 モノを解析して机上で検討するモデルベース開発自体は、他社もやっています。ただマツダは早いと思いますよ。結構、定着してきました。エンジン試作機をなるべく造らずに、解析モデルで考えるわけです。金がないマツダだからこそ、試作機に頼らず、工夫しようと。

 現場には新しい技術を提案するとき、モノとシステムに加えて、解析モデルをセットで提出するように言っています。セットじゃないと、技術を完成したことになりません。

 今のエンジン開発は、試作機を造るのにものすごく金がかかるんです。昔のエンジンなんて、大きいエンジンと小さいエンジンで、吸排気弁の開閉時期や噴射時期などほとんど同じ。今は複雑で、エンジンが変わると全く違います。全種類の試作機を造るなんて、とうてい無理ですよ。

「CX-5」(出所:マツダ)
「CX-5」(出所:マツダ)

 モデルベース開発にすると、品質も良くなります。解析モデルは、現象を定式化してメカニズムを理解しなければ作れません。メカニズムが分かっていれば、品質問題は起きにくいのです。

今さらモデル開発なんて

 マツダ社内でモデルベース開発に否定的な人は見ませんが、拒否反応はありますね。今までやったことがないベテランは、今さらモデル開発なんてできるわけないじゃないかと。

 でもね、全員が解析モデルを作る必要はないのです。エンジンのメカニズムと理屈が分かっていれば、モデルを作るのが得意な技術者に伝えるだけですから。メカニズムを知らないと、モデルなんて作りようがないわけです。

 みんなが楽になるためのモデルベース開発。創造的なところに時間をかけましょうよ、ということなんです。