会社人生の大半をやりきれない思いを抱いて過ごした人見光夫(前編「ずっとむなしい、なにもなく終わる・・・」)。定年間近の土壇場で、世界最高のエンジン技術「スカイアクティブ(SKYACTIV)」を生み出した(関連記事1、2、3、4)。
人見が画期的なのは、スカイアクティブの成功にとどまらない。設計手法を刷新したことも大きい。試作と実験に頼るかつての設計手法を見直し、解析を重んじる形にガラリと変えた。日本の自動車メーカーで、マツダほど徹底する会社はない。開発効率を高めて、“小兵”のマツダが超大手と戦う土俵を整える。
マツダには、金がないんです。でも貧乏だからこそできることが絶対にあるんです。
モノを解析して机上で検討するモデルベース開発自体は、他社もやっています。ただマツダは早いと思いますよ。結構、定着してきました。エンジン試作機をなるべく造らずに、解析モデルで考えるわけです。金がないマツダだからこそ、試作機に頼らず、工夫しようと。
現場には新しい技術を提案するとき、モノとシステムに加えて、解析モデルをセットで提出するように言っています。セットじゃないと、技術を完成したことになりません。
今のエンジン開発は、試作機を造るのにものすごく金がかかるんです。昔のエンジンなんて、大きいエンジンと小さいエンジンで、吸排気弁の開閉時期や噴射時期などほとんど同じ。今は複雑で、エンジンが変わると全く違います。全種類の試作機を造るなんて、とうてい無理ですよ。
モデルベース開発にすると、品質も良くなります。解析モデルは、現象を定式化してメカニズムを理解しなければ作れません。メカニズムが分かっていれば、品質問題は起きにくいのです。
今さらモデル開発なんて
マツダ社内でモデルベース開発に否定的な人は見ませんが、拒否反応はありますね。今までやったことがないベテランは、今さらモデル開発なんてできるわけないじゃないかと。
でもね、全員が解析モデルを作る必要はないのです。エンジンのメカニズムと理屈が分かっていれば、モデルを作るのが得意な技術者に伝えるだけですから。メカニズムを知らないと、モデルなんて作りようがないわけです。
みんなが楽になるためのモデルベース開発。創造的なところに時間をかけましょうよ、ということなんです。