たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 デジタルストレス王

デジタル一眼を買えば「よい写真」が撮れるのか?

デジカメ業界は、すでにコンパクト機で儲けることを断念し、完全に一眼レフ商戦に移行したと言われています。 価格が大幅にこなれてきて、今ではレンズキットでも3万円台で購入できるものさえあります。
多くの人たちは、コンパクトデジカメの性能に満足せず、デジタル一眼レフを買うのですが、本当にデジタル一眼なら「よい写真」が撮れるのでしょうか?

キヤノンもニコンもペンタックスもソニーも、キット販売されているズームレンズのF値は判で押したようにF3.5-5.6で、かなり暗いレンズです。広角開放側でF3.5というのは、普通の室内では、ストロボをたかずに撮影することは無理です。望遠側のF5.6に至っては、室内ではまず使えません。
内蔵ストロボをたいたら最後、人物写真などはみんなテカテカになり、いわゆる「素人写真」になってしまいます。
どんなに撮像素子が大きくても、どんなに高解像度でも、基本的に内蔵ストロボをたいて撮った写真はろくなものになりません。
F3.5-5.6などという暗いレンズでもきれいな写真が撮れるのは、明るい室外での撮影が中心と考えたほうがいいでしょう。言い換えれば、セット販売の暗いレンズしかないなら、デジタル一眼の価値は半減します。
デジタル一眼を使うのなら、ボディ本体性能に見合った質の高い明るいレンズも使いたいわけですが、この肝心のレンズのことを、多くのユーザーはあまり気にとめていないようです。

デジタル一眼専用レンズは高い?

では、デジタル一眼専用の明るいレンズ(開放F値がF2.8より明るい)はどんなものがあり、いくらするのでしょうか?
Nikonでは、
AF-S DX Zoom Nikkor ED 17~55mm(約25.5~82.5mm相当) F2.8G(IF) 税込 \231,000
というレンズがあります(2006年6月現在。詳細はこちら)。
他に35mm換算で約16mm相当の10.5mmという魚眼レンズがありますが、あまりに特殊すぎるので、一般使用には17-55mmの1本しかありません。しかし、このレンズは20万円以上するわけです。カメラ本体の倍ですね。
で、その値段を出してようやく全域F2.8という明るさを手に入れられるわけですが、言ってみれば「たかだかF2.8」です。レンズ一体型デジカメではF2.0-2.4といったレンズを搭載した機種もあるので、明るさでは負けています。
Canonでは、
EF-S17-55mm(27-88mm相当) F2.8 IS USM 税込 \150,150
というレンズがあります(詳細はこちら)。35mmフィルム換算で27-88mm相当。手ぶれ補正機能が内蔵されています。Nikonの23万円に比べればかなり安いですが、それでもボディ本体と同じかそれ以上の値段になります(実勢価格12万円弱くらい)。
デジタル一眼を買うのであれば、こうしたレンズをつけて撮影して初めて、そこそこ自由な撮影条件が得られると考えたほうがいいでしょう。セット売りの暗いレンズなどには目もくれず、最初からこれら全域F2.8のレンズを一緒に買うだけの予算を組まないといけません。
そのためには、メーカー純正レンズではなく、タムロンやシグマなどのレンズメーカーの製品を選びます。 メーカー純正レンズの半分以下のコストですから。

デジタル一眼で35mmフィルム用レンズを使うと……

デジタル一眼レフカメラには、従来の35mmフィルム一眼レフカメラ用の交換レンズも使えます。
F2.8よりも明るいレンズを使おうと思ったら、従来の35mmフィルムカメラ用の交換レンズを使うのが手っ取り早い方法です。
しかし、フルサイズモデル(35mmフィルムと同じ撮像素子を持つデジカメ)以外では、撮像素子が35mmフィルムの約半分(APS-Cサイズ)しかないため、35mmフィルム用のレンズをつけて撮影すると、撮像画面の全部を記録できず、周辺部分は切り捨てられることになります。
35mmフィルムの面積本来この面積に結ぶ像を→Nikonのデジタル一眼の撮像素子面積この面積で記録するわけですから→ 重ねると、周囲にはみだした部分が切り取られるこの部分(周囲の緑色の部分)が切り取られてしまうわけです。
このことを「画角が1.5倍になる」などと表現しているわけですが、正確には、画角が変わるのではなく、周囲が切り取られるために、画角が狭まったように(望遠にしたように)見えるということです。
D70に50mmレンズをつけた状態 APS-Cサイズのデジタル一眼に35mmフィルム用の50mm標準レンズをつけると、約1.5倍で75mmの中望遠レンズをつけたような画角で写りますが、これは本来の35mmフィルムカメラに75mmレンズをつけて撮影した画像とは微妙に違っています。
また、周囲を切り取られた結果の「見かけ上75mm」ですから、ボケ具合などは本来の75mmではなく、あくまでも50mmのボケ具合と同じです。50mm/F1.4のレンズを開放絞りで使った場合、画角は75mm相当の狭さ、ボケかたは50mm/F1.4と同じという画像が得られるわけです。
私はデジイチが出てきた初期の頃、ニコンのD70に50mm/F1.4の35mmフィルムカメラ用レンズをつけっぱなし(写真左)で、レンズ交換をほとんどしないで使っていました。当時はまだデジタル一眼専用レンズでは明るいF値のものはほとんどなく、あっても非常に高価だったからです。その後、シグマやタムロンなどからAPS-Cサイズ用のデジタル一眼専用レンズが多数出てきたので一気に選択肢は増えました。
もうひとつ、デジタル一眼は撮像素子にゴミがつくと除去が大変なので、レンズ交換には神経を遣わなければいけません。レンズ交換ができるというのがデジタル一眼のメリットですが、実際にはしょっちゅう交換していると撮像素子にゴミやしみがついてやっかいなことになります。

デジタル一眼を使いこなすには?

デジタル一眼を使おうとするなら、こうした基本知識を踏まえた上で買わないと、「こんなはずじゃなかった」ということになるでしょう。
気軽に「よい写真」を撮るのであれば、明るいレンズを搭載したレンズ一体型のコンパクト機や超ズーム機(フジのX-S1のような)を使いこなすという方法もあります。
また、一眼レフを買う人の多くは、「一眼レフでなければダメ」な写真を撮っていないのが実情でしょう。

それでもデジタル一眼の優位性は動きません。大きな撮像素子、高品位な交換レンズ、圧倒的な即応性。それらの魅力はレンズ一体型デジカメでは得られません。
しかし、それはカシャカシャとシャッター音をたててもいい撮影の場面での話であり、実際には、撮影現場に1台しか持ち込めないとすれば、シャッター音がほとんど聞こえないレンズ一体型中高級機を選ぶしかありません。ましてや普段気軽に持ち歩くには、デジタル一眼はあまりにも重く、使いにくいでしょう。
デジタル一眼でなければならないシーンというのは、結局は連写、速写ではないでしょうか。動く被写体を追いながら連写するという芸当は、一眼レフでなければ無理です。スポーツカメラマンなどは、最初から一眼レフしか選択肢にありません。

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