膵の会10周年記念―ZOOM相談会―議事録
・日 時:2024年11月26日㈫ 18:30~19:30
・講 師:東北大学消化器内科 教授 正宗 淳(まさむね あつし)先生
・オブザーバー:膵の会アドバイザー 鈴木光幸(すずき みつよし)先生
・出 席 者:膵の会会員、及び製薬会社の皆さま。
【質疑応答】
Q)娘のご相談です。2歳半から脂質制限をはじめ、現在は11歳、20g/1日で食事をしています。
大人の遺伝性膵炎の患者さん方は、脂質制限はどうされているのか、お聞きしたいです。
(具体的に、何gくらいまで上げられるものなのでしょうか?)
また、大人になってから気をつけないといけないことは、何でしょうか?
A)大人の患者さんは慢性膵炎の方が多く、脂質制限をしないことがほとんどです。
慢性膵炎になると腹痛が起こらなくなる「非代償期」を迎え、痛みもなく膵酵素値も上がらなくなります。
この時期は合併症が起こらないよう、しっかり栄養を摂ることが大切です。
膵炎症状がある方で、脂質30g/日、ない方は普通のお食事(50-60g/日以上)を召し上がります。
また、大人になってから気を付けていただきたいのは、喫煙と飲酒をしないことです。
p.R122H変異の20代女性。2歳ころから腹痛を繰り返して、急性膵炎の診断。
幼少期に、合流異常で総胆管切除肝管空腸吻合を受け、遺伝子検査で確定しました。
その後膵管空腸側側吻合術の病歴です。
Q)膵機能検査について→どのくらいの頻度で受けるのが良いのでしょうか?
現在は3〜5年に一度やっています。
A)膵臓機能検査には、外分泌の機能検査(PFD)と糖尿病の検査の2つがありますが、現在日本では検査薬が作れなくなり、外分泌膵機能検査は行われていません。
膵臓学会と製薬会社で、改善に取り組んでいる最中です(再開されたら、数年に一度お受けになるとよいと思います)。
リパーゼの数値が下がってくる(10を下回る)と、膵臓機能低下の目安になりますので、普段の採血で項目を追加してみてください。
また糖尿病検査も同様に、血糖値とヘモグロビンA1Cの値を見ていただきたいです。
膵臓機能が落ちる順番は、外分泌機能が先に落ち、その後、糖尿病の症状が現れます。
リパーゼの低下がなく糖尿病となっている場合は、膵性糖尿病ではなく、2型の糖尿病を疑う必要があります。
Q)画像検査は、どのくらいの頻度で行ったほうがよいのでしょうか。
腫瘍のリスクを踏まえて、今は1年に1度MRIを行っています。
A)年1回のMRIでも十分だと思います。
CTは被爆をしますので、20代の女性の患者さんには、頻回には行いません。
また膵がんスクリーニングを受ける目安は、40歳以上と国際ガイドラインでも決められています。
Q)薬について、どのくらい効いているのか、エビデンスを知りたいです。
フォイパン、ビソルボンなど、幼少期から多剤を服用しています。フォイパンは効きますか?
リパクレオンは飲んだ方が楽だと感じます。そのほか飲んだ方がよい薬はありますか?
現在ビソルボンは減薬しましたが、飲んだ方が良いですか?
逆流性食道炎のような症状になることもあります。
A)大人の慢性膵炎の方には、症状がない時にフォイパンを出さないことが多いです。
先日、「慢性膵炎にフォイパンは効きますか」といった論文が出ましたが、効果がないといった論文でした。
日本では長く使われている薬ですが、海外ではほとんど使われていません。
ビソルボンも新しいエビデンスはありません。減薬しても変わらないでしょう。
リパクレオンを追加する方が効果的だと思います。
また、胃酸が出ると膵臓を刺激するので、ネキシーム(PPI)やタケプロンだけ欲しいという患者さんも、多くいらっしゃいます。
【母からの質問】
Q)遺伝子を持っていても発症しないこともあると読んだことがあります。
発症する、しないのトリガーのようなものがあるのでしょうか。
A)R122H変異は8割以上の方で膵炎になるとされていますが、SPINK1のp.N34S変異(多型と言った方がいいかもしれません)は、膵炎の無い方でもみられます。
例えば、妊娠される前から過度に心配する必要はありませんし、膵炎を疑う症状がない場合は原則、遺伝子検査もしていません。
明らかなトリガーは分かりません。まだまだ分からないことが多い領域だと感じています。
Q)一般内科のお医者さんに、遺伝性膵炎はどのぐらい知られているのでしょうか?
もう20年以上前の話になりますが、20代から膵炎の主人が、(アルコール性ではない)膵炎の発作で入院した際、「お酒も飲んでいないのにおかしいなぁ」と言われ、退院時には禁酒の指導を受けたことがありました。
今ではそのようなことはなくなっているのでしょうか?
A)知名度を調査したことはありませんが、肌感覚としては知らないお医者さんが多いと感じています。
小児科の先生方も知らない方がほとんどでしょう。
掘り起こされていない遺伝性膵炎の患者さん方も、まだ大勢いらっしゃると思います。
現在、慢性膵炎の患者さんの7割がアルコール性の膵炎、次に多いのが特発性の膵炎だと言われています。
Q)今後社会人になり、出張先等で、遺伝性膵炎のことを知らない先生に診ていただくこともあるかと思いますが、どういった準備が必要でしょうか。
A)主治医の先生に紹介状を書いてもらってください。心強いお守りになると思います。
息子のご相談です。
3歳8か月の発症から4回急性膵炎で入院しました。
6歳の時にERCPと遺伝子検査、9歳の時にERCPを行い、原因不明で経過観察中です。
現在は10歳、15g/日で徐々に脂質を上げながら膵炎が起きないか様子を見ています。
Q)2021年の遺伝子検査では該当する遺伝子が見つかりませんでした。
現在、原因となる遺伝子はいくつぐらい見つかっているのでしょうか。
また今後も増えていく見込みでしょうか。
息子の場合、もし該当する遺伝子が見つかったら以前の検査結果から自動的に病院に連絡がいくような形でしょうか。
A)遺伝子検査はどちらの病院でお受けになりましたか?
東北大学で検査をした場合は詳細を確認させていただきますので、主治医の先生から、正宗宛に問い合わせのメールをしてもらってください。
検査依頼をいただいて、まずお返事するのは発症率の高いPRSS1とSPINK1の2つです(他の遺伝子については、ケースバイケースになります)。
発見されている遺伝子は他にもいくつかありますが、”原因“と呼べないものも少なくないため、日常の診療でお話すすることはあまりありません。
また検査を受けて10年以上経過している場合は、再度お受けになることをお勧めします。
Q)今年行ったERCP(前回の膵炎から2年経過)で、3年前の結果(2回目の膵炎の約2か月後に行ってもらいました)と比べて膵管の蛇行や太い細いという状態が改善し、まっすぐで均一な太さになっていたことから、遺伝性膵炎の可能性が低くなったと言われています。
こういった状態の場合、先生もそう思われるでしょうか。
A)遺伝性膵炎であるかについては、正直、分かりませんというお答えになるかと思います。
画像の変化ですので、慢性膵炎として進行していない、と言った方が正確かもしれません。
膵管は元々蛇行している場合がありますので、慢性膵炎になったから蛇行する訳ではありません。
超音波内視鏡(EUS)の検査は受けましたか? 多くの場合、外来でも受けられる検査です。
膵臓の形より、実質、すなわち膵臓の肉の部分がどうなっているか、線維化しているかどうか、を見た方が良いでしょう。
いずれにせよ急ぐ必要はありません。もう少し大きくなってから受けられると良いと思います。
Q)脂質を上げていっても原因不明のまま何も起こらないこともあるし、再発した時は他の原因を考えて検査をしていくと言われています。
先生の患者さんに原因不明のまま脂質制限をせずに、何も起こらなかった患者さんはいらっしゃいましたか。
または他にどんな原因が考えられると思いますか。
主治医からは可能性は非常に低いと思いますが、高脂血症やミトコンドリア病から膵炎が起きる事もあるというお話を聞きました。
A)脂質制限の考え方は、発作がある時は制限をしましょう。症状がない時は緩めていきましょう。というのが一般的です。
(例えば、中学生の患者さんには成長の大事な時期なので、私はあまり制限はしていません)
制限をしても、膵炎が起こる患者さんと起こらない患者さん、両方がいます。
何が違うのかが、はっきりしないのが、実際の臨床の現場なのかな、と思います。
原因を突き詰めることで何のメリットがあるのか? というところに尽きると思います。
日本の場合は、遺伝性膵炎は医療費の補助という行政上のサポートがあるので、診断を付けることや原因遺伝子を知ることで経過が変わってきます。
一方ミトコンドリア病を深堀して、それが膵炎の治療になるかという状態ではないようですし、高脂血症も中性脂肪の値が1000を超えるような数値ではないので、それが原因と断定はできないでしょう。
ERCPで合流異常の確認はされていますので、原因不明の特発性膵炎として経過を見るので良いと思います。
成長の大事な時期ですし、再発がなければ脂質を上げてみましょう。
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