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9月のニュース解説


JNNがデンプシー発言を歪曲報道

2014.9.17


 日本メディアの典型的な誤報が出たようです。JNNが今回の議会公聴会を見事に歪曲して報じました。

 JNNの記事は、私が今朝掲載した内容と著しく合致しません。どちらが本当なのか迷った方もいるはずです。まずは、17日付けの『米軍、イスラム国壊滅に向け地上戦参加の可能性も』という題名の記事の全文をご覧ください。

 アメリカ軍の制服組トップは16日、過激派組織「イスラム国」壊滅に向け、初めて地上戦参加の可能性に言及しました。

 「もしイスラム国の特定の標的を攻撃するにあたって、我々の軍事顧問団がイラク軍に同行すべきと判断した場合、そう大統領に進言します」(デンプシー統合参謀本部議長)

 アメリカ軍のデンプシー統合参謀本部議長は16日、アメリカ議会上院軍事委員会の公聴会に出席し、過激派組織「イスラム国」の壊滅について、オバマ大統領が発表した有志連合による包囲作戦が「適切な道だ」と発言しました。

 その上で、「大統領からは状況に応じて報告するよう指示されている」と明かし、「この先、イラク軍の地上戦にアメリカの軍事顧問団が同行する必要があると判断した場合は、そのように大統領に進言する」と証言し、地上戦参加の可能性に初めて言及しました。

 オバマ大統領はこれまで、「イスラム国」壊滅に向け「地上軍の投入はない」と繰り返し発言してきたため、政権内不一致ともとれるこの発言をアメリカメディアも大きく報道しています。

 ホワイトハウスのアーネスト報道官は、「仮定のシナリオについての話で、アメリカ軍が地上戦に加わらないという政策は何ら変わらない」と火消しに走っています。

(引用終わり)

 この記事はデンプシー大将が、最初に派遣する可能性があるのは特殊部隊と統合末端攻撃統制官(JTAC)であり、空爆を誘導するためとしていることを無視しています。

 特殊部隊はイラク軍が行けないような場所に進出し、JTACはイラク軍に同行して空爆を誘導します。いずれの隊員にも戦闘任務は与えられません。これは重火器を投入する地上戦の遂行とは、まったく違います。特殊部隊は自己防衛のために、彼らを支援する航空部隊は支援活動として戦闘をする可能性がありますが、戦闘そのものは避けるべき任務です。

 記事は肝心の部分を読者から隠すことで、結論を間違えるように仕組まれています。まるで、日本人が好むアメリカ人の悪いイメージを持たせようとしているかのようです。

 アーネスト報道官が火消しに走っているというのも適当に書いているとしか思えません。報道官はこの種の発言をしょっちゅうします。いかにも、オバマ政権が地上戦をやりたがっているようにみせたくて書かれたとしか思えません。

 「アメリカメディアも大きく報道しています」といった文言は、どこのメディアが報じたかが書いていないので、何の意味もありません。

 アメリカの代表的メディア、ワシントンポスト紙の記事に書かれたデンプシー大将の証言を読むと、話はより鮮明になります。

 イスラム国と戦うイラク軍とクルド軍を支援する米軍事顧問は、前線から離れた旅団や司令部にいますが、一部の指揮官はイラク軍と共に戦闘に参加するために少数の隊員を派遣することで、さらに自由裁量が欲しいと言っているのです。デンプシー大将は、中央軍司令官のロイド・オースティン陸軍大将(Army Gen. Lloyd Austin)は、先月、モスルダム(Mosul Dam)をイスラム国から奪還する際、米軍をイラク軍とクルド軍に従軍させたがっていたと証言しました。デンプシーはオースティンの要請を却下し、さらに議論して、米要員が存在させずに行う作戦をたてる方法を見つけた後で、オースティンは考えを変えたと言いました。

 以上がデンプシー大将の証言の要約です。

 地上戦をやりたがっているのは、オバマ政権ではなく、共和党です。ワシントンポスト紙によれば、一部の議員は国防総省とホワイトハウスに、もっと攻撃的に動くよう求めています(関連記事はこちら)。少しそれを紹介します。

 共和党のジェームズ・M・インホフ(Sen. James M. Inhofe)は、イラク軍の戦闘で顧問を務め、空爆を呼ぶのを支援するためにオバマ大統領が地上軍を除外したのは無鉄砲だと言いました。「地上軍を使わないという彼の主張は、今日、イラクで厳しい状態で軍務につく男女に対して無礼です」。

 このように、地上戦をやれと言っているのは共和党であって、オバマ政権はそういう意見を抑えているのです。

 インホフ議員の考え方は素朴過ぎ、戦争という災厄から何もかも学んでいません。日本もかつて、中国大陸から撤退すれば、英霊たちに顔向けできないと言い続け、太平洋戦争を戦う羽目になりました。アメリカもベトナム戦争で、現地司令部が求める通りに派兵し、大量の死傷者を出しました。問題は、現在の自身の見栄ではなく、闘いの結末をどれだけ見通しているかです。見通しがないのに戦えば、結末は最悪でしょう。

 いま、イラクでは現地部隊がイラク軍の能力の低さに苛立っているのです。だから、もっと前に出て、空爆の効率を高めたいと考えているのです。こうした要請を受けて、戦いを促進すれば、本当に地上軍を派遣することにつながるかも知れません。軍にくぎを差しているオバマ大統領の決定は正しいと、私は考えます。

 それに、少し前に米陸軍と海兵隊は、イラクのシンジャル山脈で、クルド人の民間人を救出する任務を行っています(関連記事はこちら )。戦闘任務ではないものの、敵の近くに行ったのは間違いなく、こちらがアメリカで何の問題視もされていないなら、それこそ問題です。こうした任務でも、偶発的な戦闘が起きる危険はあります。空爆の要請で前線に隊員を出すよりも潜在的危険が大きい任務なのです。

 


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