yasuokaの日記: 「QWERTYはわざと速く打てないように」伝説の日本上陸 6
初期のタイプライタは機構が稚拙で,印字速度が速くなると印字棒がすぐ絡むという問題があった.これを解決するように試行錯誤で決められた――つまり速く打てないように決められたのが現在の配列である.この配列は,下から三段目の左から“Q” “W” “E” “R” “T” “Y”とキーが並んでいることからQWERTYキーボードと呼ばれている.
ところが先日、都立中央図書館で、坂村健より以前の日本での言及を見つけてしまった。うーむ、とりあえず、『世界発明物語』(日本リーダーズダイジェスト, 1984年2月)の「タイプライター」の項(pp.174-175, Alan Burkitt執筆)から、当該ガセネタ部分を引用する。
1866年,アメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーの印刷工クリストファー・ラザム・ショールズは、アマチュアの発明家カルロス・グリデンといっしょにタイプライターを設計した。7年後,ショールズはレミントン・スモール・アームズ社に製造権を売り,同社が1874年に彼の機械を販売し始めた。大きさの点を除けば(現代の大きさの2倍),現代のタイプライターの祖先といえるこの機械は,キーボードの文字配列にいたるまで,現代のものと非常によく似ている。ショールズは,よく使われる文字をそれぞれ遠くに離して配列した。こうすればタイプする人の速度が遅くなるので,先端に活字の付いているタイプバーがぶつかったり,動かなくなったりすることがなかったのである。
「わざと速く打てないように」と「こうすればタイプする人の速度が遅くなるので」とでは、微妙にニュアンスが違う気もするが、まあ、読者の心証は似たようなものだろう。しかしそれにしても、この文章、ガセネタの固まりである。例を挙げるなら、1866年時点のChristopher Latham Sholesは「印刷工」などではなくミルウォーキー港の収税官だったし、Carlos GliddenがSholesのタイプライター開発に加わったのは1867年以降のことで、1866年時点ではSholesはSamuel Willard Souléと組んでいた。それに「レミントン・スモール・アームズ社」って、どこの会社なんだろう?
なお、英語圏において最初に「わざと速く打てないように」と言い出したのは、Robert Parkinsonの『The Dvorak Simplified Keyboard: Forty Years of Frustration』(Computers and Automation, Vol.21, No.11 (November 1972), pp.18-25)だと考えられる。つまり、英語でこのガセネタが書かれてから日本に上陸するまでに、11年3ヶ月もかかっていることになるので、かかり過ぎだという気がしないでもない。日本国内での発明本や雑学本を、もうちょっと洗ってみる必要があるだろう。
坂村健本人に聞いてみては? (スコア:1)
20年前だから忘れちゃってるかもしれないけれど。
Re:坂村健本人に聞いてみては? (スコア:1)
レミントン (スコア:0)
Re: レミントン (スコア:1)
Re: レミントン (スコア:0)
>The Remington Small Arms Factory made guns,sewing machines and typewriters.
なんて記述があるのですが、その全く別のRSTMCが銃も作った?
http://72.14.235.104/search?q=cache:zuaHQtaTLSkJ:www.makingthemodernwo... [72.14.235.104]
ユタ州の歴史に出てくる、ここからスピンアウトしたと思い込んだ
http://72.14.235.104/search?q=cache:mDqUjxs0FyQJ:historytogo.utah.gov/... [72.14.235.104]
タイプライターの画像と解説は以下で見つけた
Re: レミントン (スコア:1)
いいえ。タイプライターを作ったのは「少なくともRemington Arms Companyではない」という確信はあったけど、じゃあ1874年当時「他にRemington Small Armsっていう会社がなかったのか」については、いまだに確信が持てません。そもそも当時の「E. Remington & Sons」と「Remington Sewing Machine Company」と「Remington Agricultural Company」の関係もかなり複雑だし、そこから「Remington Standard Typewriter Manufacturing Company」がスピンアウトして「Wyckoff, Seamans & Benedict」の子会社になる過程もかなり奇っ怪だし…。
>タイプライターの画像と解説は以下で見つけた
ん? これを見つけたのなら『Sholes and Glidden typewriter, 1875』のフロントパネルにある「THE」「Sholes & Glidden」「TYPE WRITER」「Patented」「MANUFACTURED BY」「E. Remington & Sons」「ILION, N. Y.」が読めるはずですけど?