第41回 2024年 授賞語
ふてほど
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』 さん裏金問題
神戸学院大学法学部教授 上脇 博之 さん2023年末、自民党派閥政治資金パーティー問題がマスコミに報じられて以来、今年も日本政治は裏金一色。安倍派から非安倍派へと疑似政権交代が行われたものの国民の怒りは収まらない。
10月に行われた衆議院選挙では「裏金議員」の6割が落選となり、与党過半数割れの結果となった。
一方野党は大幅増・躍進で沸いたものの、さて。裏金問題はほったらかしの状態だ。
「上の意向に逆らえずに受け取った」って闇バイトじゃあるまいし。ノルマにキックバック、所得税納付はいったいどうなっているのでしょうか? そもそもなぜ裏金がそんなにもたくさん必要なのでしょうか?経緯も責任も明らかにされないまま「選挙で洗礼を受けた」で逃げていては国民の支持は得られまい。裏金問題はまだまだ終わっていないのだ。
界隈
毎日新聞デジタル報道グループ さん同じものが好きな人同士でつながって楽しむような意味合いで、「界隈」が使われ始めた。
もともとは地理的な範囲で「その辺り一帯」を意味することばだったのだが、あたらしい展開の流行語である。「仲間」とか「近い存在」といった、「共通の人びと」を指すように、「自然界隈」であれば山や川など自然のある場所を好む人たち、「水色界隈」であれば水色のファッションを好む人たち、といったぐあいである。そこからSNSでは「回転界隈」が話題になった。これは楽曲にあわせて、最初は正面を向いている人がその場で90度ずつ回転して、コーディネートの全体像を披露する動画。
こういった発展も含めて、若者もおとなも、「○○界隈」を面白がっている姿がみられた。
一般の語が、新たな展開で認識され、思わず使いたくなるような語として広まる。これこそが「新語・流行語」の醍醐味なのだ。
初老ジャパン
パリオリンピック総合馬術日本代表チーム さん2024年夏季オリンピック・パリ大会。総合馬術団体で銅メダルを獲得した。馬術でのメダル獲得は92年ぶり。92年前、ロサンゼルス大会の馬術障害飛越で金メダルを獲得したのは、かのバロン西こと西竹一(にし たけいち)、太平洋戦争中に硫黄島で戦死したとされる軍人だ。
この伝説的英雄に並ぶ偉業をなしとげたのが、平均年齢41.5歳の精鋭、愛称「初老ジャパン」。この愛称は自らの命名だそう。総合馬術、最終日3位で迎えた日本を思わぬアクシデントが襲う。愛馬のコンディション不良により人馬の交代を余儀なくされ20点が減点、5位に後退した。しかし、初老ジャパンの経験がこの逆境を跳ね返す。3人連続の障害物落下なしで完走、巻き返しに見事成功した。
表彰式ではリザーブ選手も合わせて4人での登壇。ベルサイユ宮殿でイギリスのアン王女にメダルを授与された赤いジャケットの4人のアスリートは、初老のイメージを格段に上げてくれたのだ。
新紙幣
埼玉県深谷市 さん渋沢栄一が現代のビジネスマンだったとしたら。「しぶさわAIネットバンク」を設立されているかもしれない。津田梅子が今も長生きしていたら。スマホもらくらく使いこなしていらしただろう。
さて、飛行機に乗るのもスーパーで買い物するのも、ピッピピッピと電子マネーが急速に浸透、給与さえデジタルで支払われつつある2024年7月3日。3名が新しい肖像としてあえてのお札で登場した。
やっぱり紙幣はいいなあと北里柴三郎のキュートなホログラムを転がしながら考える。画面上の数字が増えたって「札束」の存在感にはかなうまい。
前回の新紙幣発行は1984年。福澤諭吉先生お疲れ様でした。
40年後、新紙幣は印刷されるのかしら。
50-50
ロサンゼルス・ドジャース所属 大谷 翔平 さん最終結果は54本塁打、59盗塁の記録を残した。現実が記録の節目を軽やかに超えてしまう。
50―50が報道されたときには、すでに51―51だったのだから。
大谷翔平選手は2023年末、ロサンゼルス・ドジャースへの移籍入団会見で「まず優勝することを目指し、優勝に欠かせなかったといわれる存在になりたい」と話し、ほんとうに1年めで実現してしまった。
ワールドシリーズでも打つ走るはあたりまえ、パドレスのダルビッシュ投手から打てない姿さえも魅力に映る。昨年に続いてホームラン王。そして打点王と二冠。加えてトリプルスリー達成。2年連続3回目のMVP。これら偉業の前にはメモリアルも賞賛のことばも追いつかない。
2024年も日本全国SHOHEI OHTANI頼みの1年だった。
ふてほど
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』 さん大手自動車メーカーの認証不正、パーティー券収入の収支報告書不記載など、2024年は不適切事案が目白押しであった。
一方、昨今強化されているのがコンプライアンス。企業は顧客・株主への社会的責任はもちろん、従業員一人ひとりにもハラスメントだ、働き方改革だと配慮が求められる。
集団優先、滅私奉公で経済成長時代を生きた昭和世代にとってはまさにタイムスリップしたかのような激変である。
この、昭和の時代に置いて行かれた感を笑い飛ばしてくれたのが金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』。昭和の主人公が令和の社会で堂々と昭和のルール、人の道の原理原則を貫いて令和のルールに疑問符を投げかけながらも、対話することで物事を解決していく道を探る。時代がいつであれ、不適切なことは不適切なのだと教えてくれる。
10月に行われた衆議院選挙、自民党の選挙公約が「ルールを守る」。国権の最高機関で法律を制定するセンセイ方の公約がこれ。
不適切にもほどがありませんか?
Bling-Bang-Bang-Born
Creepy Nuts さん子どももおとなもプロもアマチュアも、SNSの中で外で、踊った踊った。
ヒップホップユニットCreepy Nutsの素直に伸びる深みのある声と複雑なリズムが合わさって、一度聴いたらもうやみつきだ。山場はサビで繰り返される「BBBB」ダンス。TikTokでこのダンス動画が大バズリ。テーマ曲となっているテレビアニメ『マッシュル-MASHLE-』のキャラクターが揃ってコミカルに踊る。
中毒性の高いこの曲は、日本のみならず世界中で今年、またたくまに拡散したのだ。ドラマ『不適切にもほどがある!』の主題歌「二度寝」も手掛けたCreepy Nuts の2人。どちらの楽曲も疾走しながらも自らをみつめるような小気味よさがある。
ホワイト案件
受賞者なしいきなり一般住居の窓を割って侵入し、殴って金品を強奪するなどという犯罪が頻発するのは、闇バイトが悪質化している状況といえる。しかも高齢者、女性を狙う卑劣極まりない手口は世間に恐怖と怒りを充満させた。なぜSNSだけで仕事探しを? と思うが、マッチングアプリは普通だし、インターンシップ・就活イベントだって検索サイトが教えてくれる。仕事のキャリアは自己責任。〝自由な働き方〟が労働市場でうまく使われてしまう環境で、スポットワークにも違和感をもつことはないのだろう。
ホワイト案件として募集される仕事がさらに悪質なのは、「ブラックな仕事にはひっかかりたくない」という人にまで間口を広げてしまうことだ。スマホを通じて反社会的勢力と一般人の距離がどんどん近づいている。そんな恐ろしさを実感した年だった。
名言が残せなかった
パリオリンピック金メダリスト 北口 榛花 さん名言を残さなくってもいいんです、北口選手。
たしかに、オリンピックのメダリストの方々がその瞬間に生む名言は、スポーツに詳しくない層にまで感動を刻んできた。選手が話したことばは、競技の記録とともに、人々の記憶に残る力がある。
さて、オリンピック・パリ大会。北口榛花(はるか)選手は、陸上女子やり投げにおいて自己ベスト記録の65メートル80センチで金メダルを獲得。日本の陸上女子、マラソン以外のフィールド種目で初の快挙をなしとげた。そんな北口選手に名言はいらない。
しなやかな身体からダイナミックに放たれたやりの高い放物線と、そのあふれでる明るいお人柄。これら全てが「女子やり投げの北口榛花」として私たちの記憶に強く強く残っているのですから。
もうええでしょう
Netflix シリーズ「地面師たち」チーム さん怖い、怖いドラマが2024年ヒットした。
東京オリンピック2020前夜の東京が舞台。偽の土地所有者になりすまし本物そっくりの書類を用意して、デベロッパー相手に嘘の土地売買契約を成立させて巨額のカネをだまし取る不動産詐欺グループ「地面師」の、実際にあった事件をモチーフにした物語。
エロ・グロ・暴力・巨額詐欺。知能犯罪にもかかわらず死人がごろごろでる容赦ない映像の連続に背筋が凍る。
クライマックスは、偽所有者の本人確認の場面。さあ通るのかどうなのか、息詰まるこの時、ピエール瀧演じる後藤のキメの恫喝「もうええでしょう」。
ここで視聴者の心臓は一瞬止まるのだ。
SNSやネットのコメントにさらされて、とがった番組が制作されにくい時代だが、ゾーニングされることは悪いわけではない。
有料動画配信界隈の幅広いコンテンツの深みにはまる人も増えた。
第41回 2024年 ノミネート語
- No.01アサイーボウル
- No.02アザラシ幼稚園
- No.03インバウン丼
- No.04裏金問題
- No.05界隈
- No.06カスハラ
- No.07コンビニ富士山
- No.08侍タイムスリッパー
- No.09初老ジャパン
- No.10新紙幣
- No.11新NISA
- No.12ソフト老害
- No.13トクリュウ
- No.14南海トラフ地震臨時情報
- No.15猫ミーム
- No.16はいよろこんで
- No.178番出口
- No.18はて?
- No.19BeReal
- No.20被団協
- No.2150-50
- No.22ふてほど
- No.23Bling-Bang-Bang-Born
- No.24ブレイキン
- No.25ホワイト案件
- No.26マイナ保険証一本化
- No.27名言が残せなかった
- No.28もうええでしょう
- No.29やばい、かっこよすぎる俺
- No.30令和の米騒動