5号館を出て

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シカのプリオン病

 BSEにほはとんど無関心なのかと思っていましたが、アメリカの研究者がアメリカのシカ(deerシカ、elkヘラジカ)の間で広がっている慢性的消耗病(chronic wasting disease: CWD)がプリオンによる伝染性の病気であることを示す論文を発表しています。オンラインでは1月26日に発表になっていたようですが、新しいScience誌に発表になりました。

Science 24 February 2006:
Vol. 311. no. 5764, p. 1117

Prions in Skeletal Muscles of Deer with Chronic Wasting Disease
Rachel C. Angers, Shawn R. Browning, Tanya S. Seward, Christina J. Sigurdson, Michael W. Miller, Edward A. Hoover, Glenn C. Telling


 病気になった野生のシカの筋肉と脳・脊髄(中枢神経)からとった抽出物を、シカのプリオン遺伝子も持つように改変したマウスの脳に注射する実験をしたところ、どちらの抽出物を注射されたマウスもプリオン病(ウシのBSEやヒトのCJD)になったという実験です。

 もちろん正常なシカの抽出物を注射されたマウスには何の症状も出ませんでした。

 この実験は、野生のシカの筋肉の中にたまったプリオンが、ヒトを含む他の動物の体内に入った場合には、ウシならBSE、ヒトならCJDになるという可能性を示す実験です。

 ただし、食物として口から摂取した場合には危険性はかなり低くなりますが、良く食べるシカの筋肉部分を食肉加工する間に、なんらかの事故で体内にはいる危険性はあることに注意を呼び掛けています。

 北海道でも増えすぎたエゾシカを食べようという動きがありますが、この消耗病についての研究もしておいた方が良さそうです。

 BSEのウシは危険部位が中枢神経系に限られていたのに対して、シカの場合には中枢神経だけではなく筋肉にもプリオンがたまるということで、筋肉も危険部位になるという論文です。
Commented by ぜのぱす at 2006-02-25 16:50 x
ウヘェ〜、アメリカで狩りをしてシカを食べているひと達が居るようですが、もしかすると、危ないですねぇ。
Commented by inoue0 at 2006-02-26 09:51
「危険がある」という点では、たぶん、肉食による高脂血症で死ぬ可能性の方が高いでしょう。
Commented by stochinai at 2006-02-26 18:34
>肉食による高脂血症で死ぬ可能性の方が高い
 いかにもinoueさんらしい、合理主義に貫かれたコメントだと思いました。確かに公衆衛生や医療政策という見地から考えると、inoueさんがおっしゃるような視点はとても大切なことだと思います。
 しかし、今アメリカともめている牛肉輸入問題を見る限り、日本国内での議論のレベルはちょっと違うところで行われているようですね。
Commented by Cogito at 2006-02-26 18:39 x
初めまして、ブログになる前からの読者です。
北米では、鹿ハンターから26人の患者が既に出ているとの報告もあります(http://www.cjdsurveillance.com/abouthpd-animal.html)ので、いずれにせよ、もっと詳しく研究すべきでしょうね。
Commented by stochinai at 2006-02-26 18:51
>ブログになる前からの読者
 恐れ入ります。ありがとうございました。
 必要以上の恐れることも、また無視することもいけないと思います。科学者およびコミュニケーターのすることは、まずは実情を把握するところからだと思います。
 これからもよろしくお願いします。
Commented by inoue0 at 2006-02-28 18:12
>鹿ハンターから26人の患者が既に出ているとの報告も

 全員がtypical sporadic or familial formだったそうで、鹿肉から感染したという報告ではないです。
 vCJDについては、そもそも牛肉から感染したことすらはっきりしていませんが、食物が原因だったとしても、患者発生数からしてそのリスクはきわめて低く、日本の全頭検査は税金の無駄としか思えません。
 かつてダイオキシンが猛毒があり(毒性があるのは事実ですが)、環境中のダイオキシンは可燃ゴミの低温焼却で発生すると思われたために(環境中のダイオキシンの大半は過去に散布された農薬の不純物だった)、巨大焼却炉の建設に、数千億円の国費が無駄に費やされた事件を思い出してしまいます。
「環境リスク学」(中西準子)
Commented by stochinai at 2006-02-28 20:18
 致死性の高い病気はかかる確立が低くてもかかったらおしまいという気分になるところは、飛行機事故と似ているような気がします。飛行機事故の発生率は地上での交通事故などと比べると桁違いに低いと言われていますが、信じられないほどの安全管理が行われていないと誰も利用しないということにはならないでしょうか。
 人の生き死にがかかわってくると、いわゆる「科学的事実」だけでリスク管理することはできないということのように思えます。
Commented by inoue0 at 2006-02-28 20:40
 不安になる人と、そうでない人がいるわけですから、せめて選択肢は残して欲しいと思うのです。(以前に書いた気もしますが)
 一律に「米国産はダメ」とか「全頭検査しないと出荷できない」というのではなくて、「検査してないし米国産だから安い」という牛肉があっていいし、きちんと表示しさえすれば流通は認めるべきじゃないかと思うのですが。
Commented by stochinai at 2006-02-28 20:53
 私もそれは賛成です。偽装などなしにして、アメリカ産の牛丼に適した安い肉を売るのは良いと思います。ただ残念ながら、今の日本では、「偽装なし」を信じられる状況にないという方が深刻な問題なのでしょうね。
by stochinai | 2006-02-25 14:53 | 生物学 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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