2013年 06月 13日
爪が残っていればヒトでも指は再生する
今日発表されたNatureのオンライン版に、弘前大学出身で北大の私の研究室で博士号を取得、今はニューヨーク大学でポスドクをしている武尾真君を筆頭著者とする論文が出ています。
Nature Newsにも取り上げられているので、かなり注目度の高い論文です。
How nails regenerate lost fingertips
Study of mouse toes reveals pathways that could offer clues for regenerating human limbs.
現象自体は研究者には結構知られていることなのだそうで、実験に使われたマウスと同じようにヒトでも指先を切断するような事故にあったとしても、爪がある程度残っていれば指先は「完全に」再生することが知られていたようです。
なんだ、それなら度々日本のテレビに登場し、BBCでも大々的に取り上げられたニュースで模型飛行機のプロペラで切断された指先がブタの膀胱から取った「魔法の粉」を塗ったおかげで再生したという話は、実は珍しくもなんともなく、魔法の粉など塗らなくても再生できるということだったとわかって、長年の謎が解けました。
そして武尾君たちは、その理由が死ぬまで日々爪を伸ばし続けている「爪幹細胞」が骨を含めて指の先全体を再生させる司令を出していることを証明したのです。(スゴイ!)
Wnt activation in nail epithelium couples nail growth to digit regeneration
Makoto Takeo, Wei Chin Chou, Qi Sun, Wendy Lee, Piul Rabbani, Cynthia Loomis, M. Mark Taketo & Mayumi Ito
手や指や歯や皮膚の発生や再生の研究をしている人達にはそれほど珍しくもないWntというシグナルを
爪の幹細胞が出していて、普段は爪を伸ばしているのですが、指先がなくなってしまうと、そのシグナルで神経を引き寄せて骨を含めた完全な指を再生させることができるということのようです。(神経は次のシグナルFgf2というものを出し、再生する指を伸ばします。)
だから、爪がなくなってしまうくらい指先がなくなってしまうと、もう全然再生は起こらなくなります。
下の図がすべてを物語ってくれています。
だったら、指や腕がなくなっても、WntやFgf2を投入すればヒトでも(あるいは少なくともマウスでは)再生させることができるのかというと、残念ながらそうではなさそうです。
ということは、指先に関してはわかったとしても、なぜ哺乳類の指や腕がイモリのように再生しないのかということは依然としてわからないという事情には変わりないというところにまた戻ってしまいます。
でも、ヒトでも指先の再生するしないの差が明らかになったということはやっぱりスゴイと思います。
ちなみに武尾真君は、弘前大学時代はプラナリアの再生研究をしていて、私のところではヤマトヒメミミズの再生研究をし、ニューヨークは行ってからはマウスの毛の再生を研究するというふうに、どんどん動物が進化してきていますので、次はヒトの再生研究をするのではないかという気もします(笑)。
この先もがんばって欲しいものだと思いますが、ひとまずのNature論文はおめでとうございます、ですね。
最後は武尾くんの論文を祝福するような、今日のポプラ並木の黄金の夕日です。
好天の続いた札幌も、さすがに明日からは天気が崩れるらしいです。
Nature Newsにも取り上げられているので、かなり注目度の高い論文です。
How nails regenerate lost fingertips
Study of mouse toes reveals pathways that could offer clues for regenerating human limbs.
現象自体は研究者には結構知られていることなのだそうで、実験に使われたマウスと同じようにヒトでも指先を切断するような事故にあったとしても、爪がある程度残っていれば指先は「完全に」再生することが知られていたようです。
なんだ、それなら度々日本のテレビに登場し、BBCでも大々的に取り上げられたニュースで模型飛行機のプロペラで切断された指先がブタの膀胱から取った「魔法の粉」を塗ったおかげで再生したという話は、実は珍しくもなんともなく、魔法の粉など塗らなくても再生できるということだったとわかって、長年の謎が解けました。
そして武尾君たちは、その理由が死ぬまで日々爪を伸ばし続けている「爪幹細胞」が骨を含めて指の先全体を再生させる司令を出していることを証明したのです。(スゴイ!)
Wnt activation in nail epithelium couples nail growth to digit regeneration
Makoto Takeo, Wei Chin Chou, Qi Sun, Wendy Lee, Piul Rabbani, Cynthia Loomis, M. Mark Taketo & Mayumi Ito
手や指や歯や皮膚の発生や再生の研究をしている人達にはそれほど珍しくもないWntというシグナルを
爪の幹細胞が出していて、普段は爪を伸ばしているのですが、指先がなくなってしまうと、そのシグナルで神経を引き寄せて骨を含めた完全な指を再生させることができるということのようです。(神経は次のシグナルFgf2というものを出し、再生する指を伸ばします。)
だから、爪がなくなってしまうくらい指先がなくなってしまうと、もう全然再生は起こらなくなります。
下の図がすべてを物語ってくれています。
ということは、指先に関してはわかったとしても、なぜ哺乳類の指や腕がイモリのように再生しないのかということは依然としてわからないという事情には変わりないというところにまた戻ってしまいます。
でも、ヒトでも指先の再生するしないの差が明らかになったということはやっぱりスゴイと思います。
ちなみに武尾真君は、弘前大学時代はプラナリアの再生研究をしていて、私のところではヤマトヒメミミズの再生研究をし、ニューヨークは行ってからはマウスの毛の再生を研究するというふうに、どんどん動物が進化してきていますので、次はヒトの再生研究をするのではないかという気もします(笑)。
この先もがんばって欲しいものだと思いますが、ひとまずのNature論文はおめでとうございます、ですね。
最後は武尾くんの論文を祝福するような、今日のポプラ並木の黄金の夕日です。
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ぜのぱす
at 2013-06-14 13:56
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私も、論文に注目したひとり、ですが(笑)、そうですか、お弟子さんでしたか。将来の仕事の展望が愉しみです。
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stochinai at 2013-06-14 18:50
今度、遊んでやってください。
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神奈
at 2013-06-14 23:22
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例えば、残ってる指の一部を欠損した所に移植したらどうなるんでしょうね?
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stochinai at 2013-06-15 07:57
臨床応用のことも考えると、それはとてもおもしろい質問ですね。おそらく、チャレンジしている研究者はすでにいると思いますけれども、今は答えてくれない段階かもしれません(^^)。
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ナオサン
at 2013-07-12 12:58
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すみません、ブログに引用されている模式図は、どこからのものでしょうか?この図そのものは論文にはないようですが。
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stochinai at 2013-07-12 15:02
supplementary information ファイルの冒頭にあります。
http://www.nature.com/nature/journal/v499/n7457/extref/nature12214-s1.pdf
http://www.nature.com/nature/journal/v499/n7457/extref/nature12214-s1.pdf
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ナオサン
at 2013-07-16 05:57
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ありがとうございました!
by stochinai
| 2013-06-13 20:46
| 生物学
|
Comments(7)