2009年 10月 01日
タミフルがカモの泳ぐ京都の川で検出された 【追記 Nature blogでも取り上げ】
日本にとってとても重大なニュースだと思うのですが、なぜか海外から聞こえてきました。
Excreted Tamiflu found in rivers
ヒトが排泄したタミフルが川で検出された
Credit: PhotoXpress
科学と市民のための協会(Society for Science & the Public)が出している ScienceNews のサイトに出ています。
しかも、その原著論文は筆頭著者こそ外国人(おそらく留学生あるいはポスドク)ですが、京都大学の工学部・工学研究科の環境質予見分野の方々の研究成果のようです。
Ghosh, G.C., N. Nakada, N. Yamashita and H.Tanaka. 2009. Oseltamivir carboxylate – the active metabolite of oseltamivir phosphate (Tamiflu), detected in sewage discharge and river water in Japan.Environmental Health Perspectives, online September 28.
doi:10.1289/ehp.0900930.
ありがたいことに、まだプレプリントの状態ではありますが、全文のPDFファイルがオープン・アクセスになっています。
The full version of this article is available for free in PDF format.
内容は非常に単純明快です。京都の鴨川・桂川にある汚水処理施設から排出される水を中心に、水質検査を行いその中に含まれる微量のタミフルを定量的に検出したというものです。調べた地点はこの図に示されています。オレンジ色の点が処理施設で、三角が施設から出てくる水を調べた地点、丸が川の水を調べた地点です。

タミフルは、薬として飲むときはリン酸化された状態(リン酸オセルタミビル:OP)で、このままでは抗ウイルス活性はないのですが、体内でカルボキシル・エステラーゼの働きで活性型のオセルタミビル・カルボキシレート(OC)になり働きます。
著者らは、このオセルタミビル・カルボキシレートの検出を行い、きわめて興味深い結果を得ています。
2008年末から2009年初めの時期に、季節性インフルエンザがはやっていた頃の調査なのですが、この図(A)にあるようにインフルエンザの感染者数とと、川の水の中に検出された活性型タミフル(OC)の量が見事に一致しています。

今年の第5週目に検出された最大300ng/Lくらいの活性型タミフルの濃度はもしもカモなどの体内に取り込まれたら、トリインフルエンザに対する抗ウイルス作用が発揮される濃度だそうで、要するにトリの体内でインフルエンザウイルスがタミフル耐性になる可能性のある濃度だということです。
しかもこの研究で水の検査が行われた時にはまだ日本では新型インフルエンザ騒動が持ち上がる前だったことに注意しなければなりません。記事によると、新型インフルエンザに対して使われているタミフルはこの時の10倍にも上るのだそうで、単純に考えてもこの何倍かの濃度のタミフルが河川水の中に含まれていることが想像されます。
最近、日本感染症学会からの提言が出たので、さらにタミフルの使用量が増えていると思われます。本格的感染爆発が来る前に耐性ウイルスを増やすことだけは避けたいところです。
とりあえず、調査だけでもやっておいて欲しいと思います。
【追記】
Natureblog:The Great Beyond でも取り上げられました。
Flu pandemic might merit sewage treatment upgrade - October 01, 2009 (新型インフルエンザのおかげで汚水処理が改善されるかもしれない。)
排水にオゾンを吹き込むことで、OCを不活化できるようです。Natureに後追いされるのは、気持ちよいものです(笑)。
【追記2】
この研究が始められた経緯を、1年前に私が書いていました(^^;)。
スウェーデンでタミフル耐性ウイルスの環境調査が開始された(メインターゲットは日本)
Excreted Tamiflu found in rivers
ヒトが排泄したタミフルが川で検出された
If birds hosting flu virus are exposed to the waterborne pollutant, they might develop drug-resistant strains, chemists worry
もしも、その川にいるトリがインフルエンザウイルスに感染していて、このタミフルにさらされたら、タミフル耐性のインフルエンザになる可能性があると、化学者が警告

科学と市民のための協会(Society for Science & the Public)が出している ScienceNews のサイトに出ています。
しかも、その原著論文は筆頭著者こそ外国人(おそらく留学生あるいはポスドク)ですが、京都大学の工学部・工学研究科の環境質予見分野の方々の研究成果のようです。
Ghosh, G.C., N. Nakada, N. Yamashita and H.Tanaka. 2009. Oseltamivir carboxylate – the active metabolite of oseltamivir phosphate (Tamiflu), detected in sewage discharge and river water in Japan.Environmental Health Perspectives, online September 28.
doi:10.1289/ehp.0900930.
ありがたいことに、まだプレプリントの状態ではありますが、全文のPDFファイルがオープン・アクセスになっています。
The full version of this article is available for free in PDF format.
内容は非常に単純明快です。京都の鴨川・桂川にある汚水処理施設から排出される水を中心に、水質検査を行いその中に含まれる微量のタミフルを定量的に検出したというものです。調べた地点はこの図に示されています。オレンジ色の点が処理施設で、三角が施設から出てくる水を調べた地点、丸が川の水を調べた地点です。

著者らは、このオセルタミビル・カルボキシレートの検出を行い、きわめて興味深い結果を得ています。
2008年末から2009年初めの時期に、季節性インフルエンザがはやっていた頃の調査なのですが、この図(A)にあるようにインフルエンザの感染者数とと、川の水の中に検出された活性型タミフル(OC)の量が見事に一致しています。

しかもこの研究で水の検査が行われた時にはまだ日本では新型インフルエンザ騒動が持ち上がる前だったことに注意しなければなりません。記事によると、新型インフルエンザに対して使われているタミフルはこの時の10倍にも上るのだそうで、単純に考えてもこの何倍かの濃度のタミフルが河川水の中に含まれていることが想像されます。
最近、日本感染症学会からの提言が出たので、さらにタミフルの使用量が増えていると思われます。本格的感染爆発が来る前に耐性ウイルスを増やすことだけは避けたいところです。
とりあえず、調査だけでもやっておいて欲しいと思います。
【追記】
Natureblog:The Great Beyond でも取り上げられました。
Flu pandemic might merit sewage treatment upgrade - October 01, 2009 (新型インフルエンザのおかげで汚水処理が改善されるかもしれない。)
排水にオゾンを吹き込むことで、OCを不活化できるようです。Natureに後追いされるのは、気持ちよいものです(笑)。
【追記2】
この研究が始められた経緯を、1年前に私が書いていました(^^;)。
スウェーデンでタミフル耐性ウイルスの環境調査が開始された(メインターゲットは日本)

これ前に日本のテレビニュースでも特集やってましたよ。
研究者が警鐘を鳴らす、みたいな言説で。
別の川だったかな?
研究者が警鐘を鳴らす、みたいな言説で。
別の川だったかな?
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自分で書いていて忘れてました。こちらです。
http://shinka3.exblog.jp/10234796/
スウェーデンでタミフル耐性ウイルスの環境調査が開始された(メインターゲットは日本)2008-11-30 23:51
http://shinka3.exblog.jp/10234796/
スウェーデンでタミフル耐性ウイルスの環境調査が開始された(メインターゲットは日本)2008-11-30 23:51

大量の水で希釈されても、まだ有効濃度だなんて信じられない!!
ということで計算してみました。
日本の年間降水量は1718mm
日本の面積377,914km²ですので、
日本の総降水量は6.5 * 10^14 L
これを日本の河川の年間総流量とします。
河川タミフル濃度は、
グラフから判断して、
ざっくりと、年間平均 30 ng/Lとします。
すると、
河川に排出される年間総タミフル量は
6.5 * 10^14 L * 30 ng/Lで
20 t
一方で、ロッシュ社は
タミフルを年間19億カプセル生産しているそうです。
タミフル1カプセルには、オセルタミビルリン酸塩が75mg含まれているので、
年間オセルタミビルリン酸塩生産量は 150 t
日本のタミフル購入量(世界の生産量の7~8割らしい)、
ロッシュ社以外のライセンス生産量、
使用量と備蓄量の関係など、
あやふやなパラメーターもありますが、
数字、あっちゃいますね。
びっくりです。
ということで計算してみました。
日本の年間降水量は1718mm
日本の面積377,914km²ですので、
日本の総降水量は6.5 * 10^14 L
これを日本の河川の年間総流量とします。
河川タミフル濃度は、
グラフから判断して、
ざっくりと、年間平均 30 ng/Lとします。
すると、
河川に排出される年間総タミフル量は
6.5 * 10^14 L * 30 ng/Lで
20 t
一方で、ロッシュ社は
タミフルを年間19億カプセル生産しているそうです。
タミフル1カプセルには、オセルタミビルリン酸塩が75mg含まれているので、
年間オセルタミビルリン酸塩生産量は 150 t
日本のタミフル購入量(世界の生産量の7~8割らしい)、
ロッシュ社以外のライセンス生産量、
使用量と備蓄量の関係など、
あやふやなパラメーターもありますが、
数字、あっちゃいますね。
びっくりです。
こういう概算をして、話のつじつまが合っているかどうかを照合するというのは、科学リテラシーとして非常に素晴らしい姿勢だと思います。ありがとうございました。

プレプリントのリンク先のhttp表記がちょっと間違ってるようです
ご指摘ありがとうございました。htti://が重複していたようです。直しておきました。

私はこの発表に環境ホルモンの時のような怪しさを感じています。
女性の尿に含まれている女性ホルモンが貝をメス化させる・・プラスチックのほ乳瓶を温めた時に出る化学物質が子供達に影響する・・みたいな発表が次々に出た時期がありますが、あの中で最後まで科学的な検証が出来たものはわずかだったのではないでしょうか(もちろん少数はきちんとした研究になっていたと思います)。
>最大300ng/Lくらいの活性型タミフルの濃度はもしもカモなどの体内に取り込まれたら、トリインフルエンザに対する抗ウイルス作用が発揮される濃度
これは水鳥が河川の水を一日何リットル飲む・・と仮定しているのでしょうか?
タミフルは水鳥では人よりずっと低い体内濃度で効果があるんでしょうか?
下水内でのタミフルの分解性が非常に低く、貝やカエルや水草など水鳥の餌になる生物での分解性も低く、タミフルが高濃度に蓄積されて、水鳥に取り込まれる・・というなら、可能性はあるかな?とは思いますが。
女性の尿に含まれている女性ホルモンが貝をメス化させる・・プラスチックのほ乳瓶を温めた時に出る化学物質が子供達に影響する・・みたいな発表が次々に出た時期がありますが、あの中で最後まで科学的な検証が出来たものはわずかだったのではないでしょうか(もちろん少数はきちんとした研究になっていたと思います)。
>最大300ng/Lくらいの活性型タミフルの濃度はもしもカモなどの体内に取り込まれたら、トリインフルエンザに対する抗ウイルス作用が発揮される濃度
これは水鳥が河川の水を一日何リットル飲む・・と仮定しているのでしょうか?
タミフルは水鳥では人よりずっと低い体内濃度で効果があるんでしょうか?
下水内でのタミフルの分解性が非常に低く、貝やカエルや水草など水鳥の餌になる生物での分解性も低く、タミフルが高濃度に蓄積されて、水鳥に取り込まれる・・というなら、可能性はあるかな?とは思いますが。
私も同様の印象を持ちました。「環境ホルモン」に関しては、おっしゃるとおりなんとも釈然としない尻すぼみ状態になったことも事実だと思いますが、この件に関しては冷静な調査・研究が必要ではないかと感じています。そして、環境に対するリスクがどのくらいあるかということを明らかにした上で、それでもなお日本としてはインフルエンザ対策に必要だからこれこれこういう条件でタミフルを使うのだというガイドラインを世界に示すことができれば、胸を張れるのではないでしょうか。

いわゆる環境ホルモンでほ乳類に対する影響があるのは一種類だけだそうです(何だったか忘れましたが、4、5年前に結論が出ています)。ネーミングの上手さにジャーナリズムが踊ったことが、あの騒ぎの一因でしょう。
10年余り前、環境ホルモン関係の大型予算の公募に「環境ホルモンなんてウソや」という趣旨の申請書を出したことがあります。数年後、審査委員長とタクシーに乗ったおり、笑いながら「オマエの申請書は面白いけど、立場上あんな内容を採択するワケにはいかんなあ」みたいなことを言われました。
10年余り前、環境ホルモン関係の大型予算の公募に「環境ホルモンなんてウソや」という趣旨の申請書を出したことがあります。数年後、審査委員長とタクシーに乗ったおり、笑いながら「オマエの申請書は面白いけど、立場上あんな内容を採択するワケにはいかんなあ」みたいなことを言われました。
研究費補助金も、特に大型になるほど「ネーミングの上手さ」が大きく影響していると感じられることがままありますね。

河川へのタミフル流出は各家庭などで設置している浄化槽の排水先が河川になっていると言うことが問題なんでしょう。浄化槽での最終放流槽では塩素消毒を行ってますが、今後、オゾン発生装置やそれを放流槽に送る装置が必要になる。しかし、かなりの量の浄化槽が設置されているので対応が難しいでしょうね。公共下水道の100%敷設もこれまた困難と思われます。

・・という訳で、この発表は「河川で薄いタミフルが検出された」のみが科学的に正確であって、後の主張は風呂敷拡げ過ぎ!と呆れています。
本当に社会のために研究していると自負するなら、水鳥の摂取量から生分解性まできっちり研究して欲しいですね。
今週はインフルエンザ論文にかける研究者の思惑を記事に書いてみました。マスコミも一般市民も研究者の裏を読む力が必要だと思います。
本当に社会のために研究していると自負するなら、水鳥の摂取量から生分解性まできっちり研究して欲しいですね。
今週はインフルエンザ論文にかける研究者の思惑を記事に書いてみました。マスコミも一般市民も研究者の裏を読む力が必要だと思います。

はじめまして。とても興味をもち、ブログを拝見しました。
タミフル、インフルエンザについては私も少しだけ自分のブログで書いています。河川へのタミフル流出について、stochinaiさんの記事を紹介させていただく事は可能でしょうか。
ご検討をよろしくお願いします。
タミフル、インフルエンザについては私も少しだけ自分のブログで書いています。河川へのタミフル流出について、stochinaiさんの記事を紹介させていただく事は可能でしょうか。
ご検討をよろしくお願いします。
ビヨンド♪ さん。コメントありがとうございます。
私のブログは非営利で利用される限り、引用自由です。(5号館のつぶやき by stochinai is licensed under a Creative Commons 表示-非営利 2.1 日本 License)
私のブログは非営利で利用される限り、引用自由です。(5号館のつぶやき by stochinai is licensed under a Creative Commons 表示-非営利 2.1 日本 License)

どうもありがとうございます。また遊びに来ます。
by stochinai
| 2009-10-01 19:58
| 医療・健康
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Comments(15)