「正心誠意」の意味
■ 野田佳彦の所信表明演説のキーワードは、「正心誠意」であった。
勝海舟の『氷川清話』中の次の言葉が出典である。
「外交の極意は、正心誠意にあるのだ」。
ところで、海舟の「外交の極意は、正心誠意にある」という言葉には、次のような言葉が続く。
「ごまかしなどをやりかけると、かえって向こうから、こちらの弱点を見抜かれるものだョ」。
何故、「正心誠意」が必要かといえば、それに反する振る舞いをすれば、自分の立場が悪くなるからである。この辺りの機微は、中々、分からない。「ごまかし」は、一時的には、「してやったり…」と思わせる効果を生むかもしれないけれども、それは、結局は自分に跳ね返ってくるのである。
政治における「誠意」の意味を考える際には、次の言葉も大事である。
「ドイツ外交の方法は、絶対に誠実、かつ率直でなければならなかった。ゆっくりと、一歩一歩、進む。そして、忍耐心―それこそは最強力な政治要素のひとつである―を決して失わぬ。われわれはそう心掛けなければならかった」。
これは、コンラート・アデナウアーが最晩年に著した『回顧録』中の記述である。アデナウアーは、第二次世界大戦後、分断された新生ドイツ国家の独立と復興、そして国際社会での地位の回復を図った。アデナウアーは、米英仏三ヵ国の占領の下に置かれたドイツを、西側世界の「信頼」の上に、再建しようとしたのである。ナチスの惨害も生々しいヨーロッパでのドイツの再建は、「誠実と率直」に裏付けられるしかなかったのである。
野田は、「誠意」を口にしている。
だが、輿石東を初めとして、他の民主党議員は、本当に、そう思っているか。
相変わらず、「主導権は我にあり」と思っていないか。
そういう素振りが見えれば、「正心誠意」などは、嘘のように見えてくる。
輿石の存在は、野田の「足かせ]になっているような気がする。
ところで、菅直人は、何故、退任ひと月も経たないのに、テレビで原発対応を釈明しているのか。
彼が何を語っても、今は、「言い訳」にしか聞こえまい。
黙って「メモワール」の執筆の準備でもはじめれば、よさそうなものだが…。
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Comments
>「ごまかしなどをやりかけると、かえって向こうから、こちらの弱点を見抜かれるものだョ」
ごまかしと言えば、震災復興の財源確保のために発行されるはずの復興債を、野田政権はB型肝炎訴訟の和解金や円高対策に流用しようとしてますね。
こんな分かり易いごまかしをしているのに、「正心誠意」と言ってのける野田総理は信用なりません。
あるいは、「将来に借金を残さず」という名目さえ立てれば、国民も国会はこんなごまかしすら見逃してくれるだろうと、なめられているのかもしれませんが。
復興債活用で円高対策も…3次補正(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110909-OYT1T01002.htm
Posted by: Baatarism | September 14, 2011 12:08 PM
相変わらず明治維新にかかわる偉人の言葉であることが気になります。
現在の日本の状況は、身分制度や政治体制をひっくり返す事が必要なのだとは思えません。今の総理大臣に必要なのは、革命の志ではなく、中興の祖の心根であるべきだと思います
小泉さんが江戸時代のどこかの藩を再建した人の言葉を引用していましたが、日本の歴史だってなかなか長いのだから、ほかにも探せばあるんじゃないでしょうか。
Posted by: stratosphere | September 14, 2011 12:21 PM
「正心誠意」の意味
通常は「誠心誠意」とすべき表記を
「正心誠意」とお書きであることから、
きっと「正心誠意」という造語には
深い意味があるのであろうと思いますが、
残念なことに、筆者の思いを汲み取ることが
できませんでした。
もうすこし解説を加えていただけると
良かったと思います。
Posted by: 水澤潤 | September 14, 2011 01:16 PM
今週号の週刊朝日で、田原総一郎氏が、野田総理の「正心誠意」演説を中身がないと批判していた。しかし、これまでに、どのような中身のある演説が歴代総理の施政方針演説という、きわめて形式ばった演説の中にあったのだろうか。
一部の人が絶賛する鳩山演説だろうか?田原氏は、これまで野田氏をきわめて低く評価してきたように思う。サンデープロジェクトなどに出た出演回数などを専門家には分析してほしい。
一方、日経OBの田勢康弘氏は、野田氏を高く評価していたようで、土曜日の週刊ニュース新書にはよく野田氏が出演していた印象がある。
予想や人間に対する予想あたりはずれ、好みもあるのだろうが、テレビ受けしないという意味で、田原氏に低く評価されたことが、野田氏の幸運につながっているようにみえるのは、皮肉にすぎる見方であろうか?
Posted by: yunusu2011 | September 20, 2011 10:38 PM
本日の毎日新聞=木語:正心はノーサイド=金子秀敏は、勝海舟の「氷川清話」から「男児世に処する」とは「ただ誠意正心をもって現在に応ずるだけの事さ……」を引き、「誠意正心」とは、具体的には西郷隆盛と勝海舟の関係である、としている。さらに細川護熙の助言に言及した上で、野田は、野党へノーサイドを求め、増税から原発再稼働に優先課題を転換した、と断じている。一国の宰相となった野田が、「男児」であるならば、この今の日本で、原発再稼働を、「男児世に処する」最重要政治課題、男児の本懐とするほど、浅はかであろうか? 2011.09.22.S.Ueki
Posted by: Sadaaki.Ueki | September 22, 2011 12:09 PM
正心誠意、これまでの民主党を見るとむなしく思えます。これまで民主党は、自分の選挙に有利になるとなれば国会をないがしろにし、自分の都合が悪ければ説明責任も放棄してきました。
さらに、放射能汚染への対応では、現時点でも杜撰なまま放置しています。
野田首相になっても、すぐに民主党を信用することは困難でしょう。例えば、野党の主張は積極的に飲む、補正予算関係で野党を批判することはしない、政治の駆け引きには絶対使わない、補正の関係で生じた責任はすべて自分が負う、とでも明言しなければ無理でしょう。
公明党とは、選挙制度を公明党に都合のいいように改革することで民・公が手を握ったように思えます。
自民党は、事前協議に応じる必要は無いでしょう。今の民主党では、手柄は民主党に、責任は自民党に押し付けられるでしょうから。
ただ、自民党も発信が弱いです。「国会でのオープンな場で震災復興に積極的に協力していく。しかし、これまで信頼を裏切られてきた民主党を安易に信用して事前協議に参加するのは困難である。」といえば良いのに、前半が発信されないので、震災復興にまで後ろ向きと受け止められかねません。
Posted by: いしかわ | October 03, 2011 08:41 AM
欧州危機もそうですが、日本だけでなく先進民主主義国が多かれ少なかれ同様の病理に陥っているような気がします。国内の激しい対立もそうですし、それをまとめ上げる政治の指導力のなさもそう。アメリカが象徴的です。雪斎さんはオバマが当選した時、
>「何をすればよいか」が判っていて、それが国民にも合意されている指導者くらい、ある意味では楽なしごともない。
と書かれていましたが、まさにここに苦慮している感じです。今後の政治学の課題の1つは、こうした現代社会におけるリーダーシップのあり方を模索することにありそうです。
Posted by: 真田 | November 05, 2011 08:23 PM
初めまして、私は通りすがりの者で淳と申します。「正心誠意」と言う言葉の出展についてですが、勝海舟の『氷川清話』が出典であるとされていますが、出展は『大学』なのではありませんか?
Posted by: 淳 | November 05, 2011 09:36 PM