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厚生労働省「日雇い派遣指針」をめぐって~労働者派遣法改正問題

 以前当ブログでも書いたが、当初政府は今年の通常国会で労働者派遣法改正案を提出する予定だった。しかし、派遣法改正問題を審議していた厚生労働省労働政策審議会の労働力需給制度部会では、さらなる派遣労働の拡大と規制緩和を求める使用者側と、派遣労働の制限と規制強化を訴える労働者側の溝は埋まらず、与野党が逆転している国会情勢の影響もあって政府の改正案の策定は見送られた。
 その代わりに同部会が作成したのが「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案要綱」などで、当面現行法を前提として、「日雇い派遣」に対する規制を行政の「指針」で行う方針を示したわけだが、後述するようにその実効性に疑念がもたれており、派遣法の抜本的改正が必要な状況に変わりはない。
 一方、厚生労働省は今年度の改正案作成見送りを受けて、学識経験者による「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」を職業安定局長のもとに設置し、第1回研究会は明日(2月14日)開催される。現在野党が議員立法を目指して準備しているといわれる労働者派遣法改正案の動向を睨みつつ、派遣法改正の方向性を定めていくとみられるが、その方向性が企業側に傾くか、労働者側に傾くかは今後の世論にかかっていると言えよう。昨年の生活保護給付引き下げ問題の時もそうだったが、厚労省のこうした研究会はなかなか侮りがたく、注視する必要がある。

 厚労省の「指針」の全容・全文は次のリンクを参照。
 厚生労働省:「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案要綱」、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示案要綱」及び「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」についての労働政策審議会に対する諮問及び答申について(な、長い・・・)
 この「指針」については、現在行政手続法によるパブリックコメントの募集が行われている。それに伴いグッドウィルユニオンがパブリックコメント用の意見書を公開している。コピペしてもいいそうなので、長文だが「指針」の問題点を網羅していて、今後の派遣労働の在り方を考える上で非常に参考になるので、全文転載する(ただし適宜改行した)。
 日雇い派遣についてパブリックコメントを出そう!厚生労働省に意見を言おう!|グッドウィルユニオン
(転載開始)
「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案等に関する意見」
 「概要」をもとに、以下のように意見を提出させていただきます。行政手続法にのっとり、十分に考慮していただくことをお願いします。

Ⅰ 日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針
①趣旨
 「日雇派遣労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者)について、派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置を定めたものである」について
 日雇派遣労働者と呼ばれる者の中には、同じ派遣元から同じ派遣先に長期間派遣され続けている者もいます。今回の指針では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者」のみを保護することになり兼ねずもっとも保護が必要な違法状態に置かれている派遣労働者が置き去りにされる可能性があります。ここでは、広く日雇派遣労働者と呼称される「軽作業派遣労働者」を対象とすべきと考えます。

②日雇派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
 「派遣元事業主及び派遣先は、事前に就業条件を確認する」について
 日雇派遣と呼ばれる形態は前日の午後まで派遣先からの発注を受け付けているケースが多く、趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。
 「労働者派遣契約、雇用契約の期間を長期化する」について
 派遣期間は、派遣元だけでなく派遣先の意向が大きく影響します。現行の派遣先指針を改正して、労働契約法の条文と同様の内容「使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定め㌻ことにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」を示すべきだと考えます。
 「労働者派遣契約の解除の際に、就業のあっせんや損害賠償等の適切な措置を図る」について
 現行の指針にも同様の文言がありますが、まったくといっていいほど機能していません。
 労働者派遣契約の解除は派遣先の都合によって生じるもので、派遣先への罰則も含めた規定がなければ十分に機能しないと考えます。

③労働者派遣契約に定める就業条件の確保
 「派遣先の巡回、就業状況の報告等により労働者派遣契約に定められた就業条件を確保する」について
 1日のみの派遣について派遣先の巡回は実質的にできません。趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。

④労働・社会保険の適用の促進
 「派遣元事業主は、労働・社会保険(日雇に関する保険を含む。)の手続を適切に行う」について
 業界最大手であるグッドウィルは未だに日雇雇用保険の印紙購入通帳の手続きをしておりません。日雇雇用保険の手続きを頼みたいが、これまでの経緯からそうしたことを頼むと仕事の紹介がなくなるなどの不利益をおそれているスタッフがいることも予想されます。1日も早く印紙購入通帳の手続き行政指導により行わせることを期待します。
 「派遣元事業主は、派遣先に対し労働・社会保険の適用状況を通知し、派遣先と日雇派遣労働者に未加入の場合の理由の通知を行う」について
 現行の派遣も年新にも同様の記述がありますが、まったくといっていいほど機能していません。
 本来、労働・社会保険に加入すべき派遣労働者であって、未加入の派遣労働者を受け入れた派遣先に対する罰則がなければ十分に機能しないと考えます。

⑤日雇派遣労働者に対する就業条件等の明示
 「労働者派遣法に定められた就業条件の明示を、モデル就業条件明示書(日雇派遣・携帯メール用)の活用等により確実に行う」について
 携帯メールによる労働条件の明示を認めることは、文書明示を原則とした労働基準法と矛盾します。集合場所での労働条件明示書の配布などもでき得ることから、日雇派遣であるから文書明示が不可能ということはないと考えます。

⑥教育訓練機会の確保
 「派遣元事業主は、職務の遂行のための教育訓練を派遣就業前に実施する」「派遣元事業主は、職務を効率的に遂行するための教育訓練を実施するよう努める」について
 日雇派遣の職種は多種多様です。派遣元がそのすべてについて教育訓練を行うことは事実上不可能と考えます。また、軽作業にどのような「教育訓練」が必要になるのでしょうか。
 派遣元に教育訓練を義務付けるのではなく、一定の教育訓練の機会を多くの労働者に等しく担保するためには、無料または安価で国が実施すべきだと考えます。

⑦関係法令等の関係者への周知
 「派遣元事業主は、派遣労働者登録用のホームページや登録説明会で関係法令の周知を行う。また、文書の配布等により、派遣先、日雇派遣労働者等の関係者に関係法令の周知を行う」について
 「派遣先は、文書の配布等により、派遣労働者、直接指揮命令する者等の関係者に関係法令の周知を行う」について
 法律が周知され違法だとわかっても、派遣労働者は違法を指摘すれば契約を打ち切られ、収入の糧である仕事を失います。このような措置は派遣元や派遣先の違法の責任の一端を日雇派遣労働者に押し付けるものになりかねません。
 派遣事業報告により、行政に派遣の実績は通知されているはずです。昨今の「小さな政府」には反しますが、雇用環境を適正なものにするため、人員を増強してでも徹底したつぶさに調査を行い、違法を摘発すべきと考えます。

⑧安全衛生に係る措置
 「雇入れ時の安全衛生教育、危険有害業務就業時の安全衛生教育を確実に行う」について
1日のみの派遣労働者に対しこうした教育の実施は事実上不可能です。趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。

⑨労働条件確保に係る措置
 「賃金の一部控除、労働時間の算定をはじめとして、労働基準法等関係法令を遵守する」について
 賃金の一部控除については、ほとんどのケースで労使協定はなく「事故が起きたときの保険」などといわば偽って徴収を続けてきたのが現状です。
 労働時間の算定については、集合時間からの拘束があるケースも少なくありません。
 「遵守する」ではなく、調査の上、監督・指導の徹底を期待します。

⑩情報の公開
 「派遣元事業主は、派遣料金等の事業運営の状況に関する情報の公開を行う」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

⑪派遣元責任者及び派遣先責任者の連絡調整等
 「派遣元責任者及び派遣先責任者は、安全衛生等について連絡調整を行う」について
 安全衛生が不十分では、労働者の健康を害する危険性があり、重要な問題と考えます。このため、連絡調整行う具体的な項目について列挙し、要件を満たしていないケースについて指導の対象とすべきと考えます。

⑫派遣先への説明
 「派遣元事業主は、派遣先がこの指針を適用できるようにするために、日雇派遣労働者を派遣することを説明する」について
 説明に応じない派遣先は、行政の指導の対象とし、一時的に派遣労働の受け入れをできないようするなどの強硬な措置がなければ必要で「説明する」だけでは、意味がないと考えます。

Ⅱ 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示
○情報の公開
 「派遣元事業主は、派遣料金等の事業運営の状況に関する情報の公開を行う」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

Ⅲ 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則の一部を改正する省令
③事業報告書の様式改正(様式第11 号関係)
 「労働者派遣等実績に、日雇派遣労働者が従事した業務に係る労働者派遣の料金、日雇派遣労働者の賃金を追加する」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

 以上のことから、今回の指針で現状の多くの問題を解決することは事情不可能だと考えます。雇用環境を適正なものとするためにも、労働者派遣法を1999年以前に戻すとともに、登録型派遣を厳しく制限するなどの措置がなければ抜本的な問題の解決はできません。
 現在、労働者派遣法の改正に向け、学識経験者による議論が進められていますが、真に派遣労働者のための法改正というスタンスに立った議論を期待します。
(転載終了)

 「指針」に対するパブリックコメントは2月21日まで受け付けている。詳細は次のリンクを参照。
 意見募集中案件詳細 案件番号495070237

 現在の「貧困と格差」の最大の原因は、1990年代以降、労働者派遣法を相次いで改悪して、派遣業種を広げ続けたことにある。有期雇用・間接雇用を縮小し、正規雇用に戻していくための抜本的な法改正が必要だ。労働者派遣法改正問題は今後の日本社会の進路にとって最大の岐路になると言えよう。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題の行方

【関連リンク】
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律-法庫
厚生労働省:今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会の開催について
厚生労働省:第110回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
by mahounofuefuki | 2008-02-13 18:00


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