ゾウィの音響徒然日記

吉祥寺のキチムで7月27日から8月7日までの期間、テニスコーツ展が開催された。この期間にはテニスコーツプロデュースによる展示と、大友良英、Sachiko M、灰野敬二、原田郁子など日替わりミュージシャンとの共演によるテニスコーツのライブが行われる。そして、この日は灰野敬二との共演の日。テニスコーツと灰野敬二の共演は2012年に青山月見ル君想フにて行われたDoraptron（ドラびでお+伊東篤宏）とのツーマンライブ以来、実に4年ぶりとなる。テニスコーツと灰野の共演は全く想像できないが、過去、石川浩司や山本精一など灰野と一緒に演奏している絵が全く想像つかないミュージシャンとの共演はアタリだった。と言うことは、テニスコーツとの共演も何か面白いものが観られるかもしれないということで参戦。

左から植野、さや、灰野という並び。植野はアコースティックギター、さやはピアニカ、手持ちシンセ、民族楽器カンテラを模したオリジナル楽器、灰野は、エレキギターをはじめとした様々な楽器をセッティング。ライブは灰野の"OTO"演奏からスタートした。カン、カンとガムランのように響く"OTO"に植野がギターを重ね、さやがピアニカを吹きながらハミングを入れる。演奏がいったん止まると、灰野はすぐにギターも持つ。ボッ、ボッと強く弾いてすぐにパッと掌でミュートするいつもの奏法でフリーキーに演奏。しばらくダブルギターとさやの歌とピアニカによるセッションが続いたが、さやがアコーディオンに持ち替えると歌のないセッションへ。そのセッションが終わると、最初から切れ目なく続いていた演奏は一段落して拍手が起こった。前半最後は、灰野がダラブッカという打楽器の演奏へ。ゲリラ豪雨やゴルジェビートを彷彿とさせる不規則に激しく乱打されるダラブッカの音に合わせて、テニスの2人は「Iso Phase」を演奏し出す。ライブに来る前はなんとなくオモシロ系に行くのではと予想していたが、なかなかの緊張感あふれる演奏。曲の最後にさやが「オモシロじゃな～い、オモシロじゃな～い」（←本当は面白いじゃない～と歌っていたのだが…）と歌っていたのは自分の心を読まれたかのようでドキッとした。

後半はまず灰野のタンバリンソロから。タンバリンを両手に持ち、激しいアクションで体に叩きつけたり、振ったりする。途中で植野がそこに合わせて、ギターをジャンと弾いてから本体を空中で振り回すという大掛かりなフィードバック奏法を行った。ちなみにこのタンバリンは、叩く面が動物の皮でできているため、湿気に弱いとのことで開演前に入念にドライヤーで乾かしていた。その後は、灰野が『ジョギング渡り鳥』の歌や『光輪』などテニスコーツの歌にギターでフリーなソロを合わせていくという山本精一との共演の時にも観られた形態。時々、不協和音も挿入したりするが、基本は植野のコードに寄り添うようなソロを入れていた。何曲か歌った後にトランク型のアコーディオン、シュルツボックスを取り出すと、灰野が初めて歌い出す。石川浩司との共演の時もシュルツボックスを演奏しているのを観たが、その時歌っていたものと歌詞は違うがメロディは全く同じだった。シュルツボックスを演奏する時の歌は決まっているのだろうか。それと、さやが人の喋り声をオウム返しするパンダのオモチャを使っていたが、さやの声より隣の灰野の声に反応していたのがおかしかった。最後は「バイババビンバ」で、ダブルギターとさやは歩き回り、最後は後方のPA席にあるピアノを弾いて合わせて終了。

今までのライブを観るにテニスコーツはユルいイメージがあったが、次の一手が全くわからない灰野のフリーキーな演奏になんなく反応していて実はスゴイ人達なのだということを実感した。しかも、今回のライブは全体的に多少の緊張感がありつつも、本人たちの人柄なのか緊張感がこちらに押し付けられることがなかった。ゆえに、数多の灰野のセッションに比べて見ていて全く疲れなかった。最後に、灰野とテニスコーツの個性がどちらも崩壊することなく、ギリギリのバランスを保った素晴らしい共演だったと思う。