まず、前半のシンディ・マクティーの弦楽のためのアダージョですが、低弦の豊かな響き、とりわけ、ヴィオラセクションの素晴らしさが印象的です。ヴィオラのトップには篠崎友美、そのサイドには鈴木学が座り、万全の体制です。対して、高弦のアンサンブルがもうひとつです。都響では珍しいことです。今日に限ってはコンマス席に矢部達哉が座ってほしかったと思います。
演奏全般、音楽の質はなかなかよかったと思います。演奏後、指揮のスラットキンの妻である作曲家のシンディ・マクティーがステージに立ちました。
次はヴァイオリンの金川真弓が登場し、期待のウォルトンのヴァイオリン協奏曲を演奏します。これは金川真弓の美しいストラディバリウスの音色が魅惑する圧巻の演奏でした。金川真弓は結構、曲による向き、不向きを感じることも多々ありますが、今日のウォルトンはぴたりとツボにはまったようで、最高の演奏を聴かせてくれました。超高音の美しさから低音の豊かな響きまで、どこをとっても素晴らしく、テクニックの見事さと音楽性の高さまで、完璧に思える演奏でした。さほどの有名曲でないこの曲も彼女の手にかかると超名曲の雰囲気を醸し出します。イギリス音楽を得意とするスラットキンのサポートも万全でした。
第1楽章の瞑想的な雰囲気の独奏ヴァイオリンにとりわけ、魅了されました。第2楽章の金川真弓の超絶技巧も見事でしたが、何と余裕の演奏でした。初演者のハイフェッツもびっくりするでしょう。
ともかく、終始、金川真弓の素晴らしい演奏にうっとりと聴き入っていて、もう、どこがどうのとかはどうでもよくなってしまいました。金川真弓の協奏曲の演奏では最高だったかもしれません。
休憩後、後半は長大なラフマニノフの交響曲第2番です。この曲はラフマニノフらしいメローな旋律のオンパレードですが、この曲を得意にするスラットキンはさらにそれを煽り立てるようにリッチな響きと明快な表現で都響をドライブします。ちょっとやり過ぎの感もありますが、この曲はそれでもいいのかもしれません。長大な第1楽章と第3楽章の美しい蠱惑の旋律はまるでハリウッド映画みたいですが、聴き映えがすること、この上なしって感じです。第2楽章と第4楽章の勢いのある音楽も魅力に満ちていて、全編、美し過ぎる演奏です。難を言えば、音楽がずっと美しいことです。ちょっとメリハリもあっていいのではと贅沢な注文もしたくなります。
ひとつだけ、今日はこの曲でも都響の強力な高弦が不発でした。都響の高弦の精細なアンサンブルが聴けなかったのはもう覚えていないくらい昔のことです。不満というよりも不思議に思えました。まあ、次回は復活するでしょう。
色々書きましたが、全体として素晴らしい演奏ではあり、とても美しい演奏で、スラットキンの名匠ぶりを感じた演奏でした。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮:レナード・スラットキン
ヴァイオリン:金川真弓
管弦楽:東京都交響楽団 コンサートマスター:山本友重(ダブルコンマス トップサイド:水谷晃)
シンディ・マクティー:弦楽のためのアダージョ(2002)
ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲
《休憩》
ラフマニノフ:交響曲第2番ホ短調 op.27
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目のシンディ・マクティーの弦楽のためのアダージョは以下のCDで予習しました。
レナード・スラットキン指揮デトロイト交響楽団 2012年5月17日~19日 デトロイト、マックス・M・フィッシャー・ミュージック・センター、オーケストラ・ホール セッション録音
弦楽のためのアダージョは交響曲第1番の第2楽章 アダージョ: 静寂が訪れるまで と同じなので、それを抜き出して聴きました。バーバーの同名曲と同様に美しく、そして、敬虔な音楽です。演奏はとても厚みのある美しいものです。
2曲目のウォルトンのヴァイオリン協奏曲は以下のCDで予習しました。
タスミン・リトル、エドワード・ガードナー指揮BBC交響楽団 2013年9月18日 ワトフォード コロッセウム、英国 セッション録音
美しい演奏ですが、ヴァイオリンの音量レベルが少し低くて、バランスが悪いのが残念です。
3曲目のラフマニノフの交響曲第2番は以下のCDで予習しました。
レナード・スラットキン指揮デトロイト交響楽団 2009年9月24日~27日 デトロイト、マックス・M・フィッシャー・ミュージック・センター、オーケストラ・ホール ライヴ録音
とても豊かな響きの素晴らしい演奏です。とりわけ、金管が素晴らしい。
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!