2013.11.13 UP DATE「テストマッチ」
9月、10月、11月と3カ月連続で組まれたダブルデートの国際マッチデーを日本代表は最高の相手と締めくくることができます。ベルギーに飛んで16日にゲンクでオランダ代表と、19日にはブリュッセルでベルギー代表と戦うのです。FIFAランキングでベルギーは5位、オランダは8位。掛け値なしの強豪です。10月の東欧遠征に続いて今回もアウェイでの試合を日本協会にお願いして組んでもらいました。最初に戦うオランダにはパスをよくつないで常にイニシアチブを取ってくるという印象があります。GKも含めて全員が連動して攻守に参加し、ピッチのどこからでもしっかりプレーし、相手ゴールに迫る方法もよく知るチームです。技術力もあってフィジカルも強い。それだけの要素がそろっているからこそルーマニアやハンガリー、トルコといった難敵と同居したワールドカップ欧州予選を勝点28(9勝1分け)という成績で勝ち抜けたのだと思います。得失点差+29は、+27のイングランドや+26のドイツを抑えて堂々の欧州トップです。 そんなオランダに比べるとベルギーはよりフィジカルなチームといえるでしょう。先発メンバー11人中7人が身長190センチオーバーというサイズには目を見張りますし、技術で打開できなくても最後はフィジカルにモノを言わせて解決してしまう強さがあります。オランダほどパスをつないではきませんが、相手ゴールに迫る方法を知っているという点では遜色ないと思います。
「よくもまあ、こんな強い相手と、それもアウェイで。無謀じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。監督に就任してからのこの3年を振り返った時、成長を促すプログラムの中にどうしてもアウェイの試合が少ないことがずっと気になっていました。日本の外に出て厳しい条件下で戦うことには様々なリスクがつきまといますが、それを嫌って国内で何となく勝ちを重ねることの方が真のリスクだと私は思います。そういう状態が続けば続くほど不利な環境で強い相手とやると自分たちがどんな状況に追い込まれ、どんなウイークポイントをさらすのか、気づくのが遅れてしまうからです。それに、どうせ来年のワールドカップ本番でもフィジカル、技術、経験など各方面で日本より格上というチームとの対戦は避けて通れません。であるならば、事前にそういうクラスの相手と実力がフルに発揮される相手のホームで一戦交えておくことはとても大切なことでしょう。6月のコンフェデレーションズカップのブラジル戦のように肝心の本番で力が出せないという失敗を繰り返さないためにも。
では、そんなトップクラスの相手に日本はどんな戦いをすべきでしょうか。10月にセルビア、ベラルーシに連敗したことで「まず勝つことが大事」「勝たないと監督のクビも危うくなる」と心配してくれる人がいます。結果を重視するのであれば、セルビアやベラルーシがやったように自陣に守備ブロックを築いて1本のシュートで1点、2本のシュートで2点というサッカーを目指すべきなのかもしれません。しかし、私はそういうサッカーを選手にさせる気は毛頭ありません。試合が始まって流れの中で押し込まれる状況に至るのは仕方ないとしても、相手がオランダであれベルギーであれ、自分たちで最初から主導権を握ることを放棄するのはまったくポジティブではないと思うのです。そういう考えの根底には「日本は美しいゲームをした時にこそ勝つ確率が高まるチームだ」という私の確信があります。
サッカーの世界には試合をつまらなくすることで勝とうとするチームがあります。反則や反則まがいのプレーを乱発して試合の流れをぶつぶつと断線させ、相手をイライラさせながら一瞬の隙をカウンターで突く。結果を最重視し、試合を壊せば壊すほど勝つ確率が高まるチーム…。日本は逆です。我々が勝つのは大抵、試合が面白くなった時です。裏返せば勝ちたければ試合を面白くしないといけない。そういう特質があるのだから相手がオランダであれ、ベルギーであれ、受けて立ってはいけない。試合をほとんど自陣だけで行うのではなく、ピッチの全面を使って、いたるところでイニシアチブを持って戦う。少なくとも私の体制下では日本代表の進むべき道はそこにあると信じていますし、来年のワールドカップでもそういうアグレッシブな戦いをさせるつもりでいます。そういうところに目標を置いている以上、今は結果より内容を高めることに主眼を置くのも当然でしょう。選手に求めるのもトライする姿勢です。トライすることで初めて自分たちの力がどんなものかが突きつけられる。本当の力量も見えてきます。
振り返ると、セルビア、ベラルーシに2連敗した10月の東欧遠征はゲームへのアプローチに問題があったように思います。自分たちがやりたいプレー、やるべきコンセプトは明確にあるのに、進むべき方向を間違えていました。プレーの精度も鋭いアクションも乏しかった。欧州や南米のインターナショナルな相手と戦う際にはプレーに精度とスピードが伴わない限り、ほぼノーチャンスです。10月の試合はそのどちらもありませんでした。守備に関しては大きなトラブルはありませんでしたが、攻撃は止められて当然でした。セルビア、ベラルーシが良かったということではなく、こちらが相手を楽にさせてしまいました。その原因を探ると、もしかしたら私が試合の意味を選手にうまく伝えきれていなかったせいかもしれません。
私はこの3カ月間の6試合を「フレンドリーマッチ」と思ったことはありませんでした。すべて「テストマッチ」のつもりでした。ホーム、アウェイの別なく、その時に持っている力をすべて出し切る。アウェイなら、ホームで普段やっていることがアウェイでもできるか、真剣にトライする。そうしてこそ返ってくる答案用紙についた点数が自分たちの実力を正確に反映したものと納得もできる。この点数をさらにどうやったら伸ばせるか、真摯に向き合うこともできる。手抜きやカンニングをして答えを書いたのでは「テスト」にはなりません。東欧遠征がいつもの精度、スピードを欠いたのは、そんなテスト本来の目的を達成する集中力、気持ちを欠いていたからでしょう。ベラルーシ戦が終わった時には無駄に2試合を消費したな、という悔しさしかありませんでしたし、チームにテストの意味を十分に落とし込めなかった自分の至らなさを反省もしました。その教訓を今回は何としても生かすつもりです。
オランダもベルギーも日本のよりランキング上位。自分たちのプレーがどこまで通じるか、すべての力をぶつけてテストするのにはうってつけの相手ですから。わざわざ自信を失わせるために、私は選手をベルギーに連れていくわけではありませんが、思い切って真正面からぶつかることで自分たちの姿が丸裸になることもあるでしょう。深手を負うこともあるかもしれません。でも、負ったら負ったで、傷口に合わせてどんなサイズの絆創膏を貼ればいいか、決めればいいだけのことです。大切なことは試合が終わった後の姿勢です。どんな結果が出ても課題を課題としてしっかり受けとめる強さがあれば、現実を直視する精神があれば、きっとそうやってあぶり出された課題を乗り越えられるはずです。その強さも精神も今の代表選手たちは持ち合わせていると私は確信を持って言い切ることができます。