アートに携わる人は読んでおきたい1冊のSF小説
ヴォネガット没後、未発表短篇集が3冊も発売され(まだまだ出るかも)、元愛人による思い出の記が出版され、デビュー前のヴォネガットが書き残した中篇“Basic Training”が Kindle Single として発売され、とどめは2011年に上梓されたチャールス・J・シールズによる伝記 And so it goes : Kurt Vonnegut, a life 。この伝記、ヴォネガットの遺族から総スカンを食らうほどにセンセーショナルな内容で、賛否の嵐が吹きまくり。ヴォネガットおじさんが死んで早5年。もうすっかり日本では過去の人になりつつある中、本国アメリカでは熱い熱いビッグウェイブまっただ中、といった状況なのです。
1997年に断筆宣言をしたヴォネガットは、晩年はリトグラフ制作へ活動をシフトします。ヴォネガットのシルクスクリーン作品はオンラインで購入することができ、また、近年リニューアルされた原著の装画はヴォネガットが描き残したイラストが利用されています。もともと、芸術に造詣の深かったヴォネガットですが、芸術家の心の叫びともとれる小説を残しています。それが『青ひげ』です。
若い頃に巨匠イラストレーターに師事したラボー。復員後は前衛芸術家として名を馳せ、最盛期で1点5万ドルで作品が買い取られる程になります。ところが、絵の具の経年劣化に従って、カンバスから絵の具が剥がれ落ちるとともに、ラボーの名声も忘れ去られていきます。妻の残した屋敷で、前衛アートのコレクターとして余生を無気力に過ごすラボーのもとに、ラボーのすべてを頭ごなしに否定する女流作家が訪れます……。
ラボーがリアル系イラストレーターとして培った技術と、作品に込める魂と呼ぶべきものについてが真正面から描かれるのですが、技術(ラボーの場合は、リアルに描くこと)が「目的」に陥ってしまうことで、描くべきテーマについて見えなくなる瞬間が、アートに携わる者なら一度や二度はあるはず。ましてや、ようやく見つけたテーマと、それを再現するための技術が、巧く馴染まなければ形になり得ない……。そんな現実をつきつけられ、読むとズキズキ刺さるのは、わたし自身がイラストレーターという職業のためかもしれません。アートに携わる人にオススメの一冊です。
YOUCHAN(ユーチャン)
引用元:http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20120717/1342479905
アートとは…(ゴクリ!
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