陰茎不要論について
陰茎不要論の話をしたい。
それにまつわる二人の男の話を。
*
陰茎不要論を最初に唱えた男の話をしよう。
「咲-saki-」だとか「ストライクウィッチーズ」だとか、ほとんど男の登場しない世界で女の子同士がいちゃこらいちゃこらする作品……いわゆる「百合」作品が台頭し、人気を博するようになって久しい。
そんな百合をこよなく愛する男、V林田氏によって陰茎不要論は提唱された。
「二次元の世界に陰茎など不要」
彼はそう高らかに宣言する。
日々衰え、萎えていく陰茎について一喜一憂している俺などからすると、いくら二次元を対象にしたものとはいえ、それはあまりに過激な論に聞こえた。
思わず俺は反駁する。
――でもあなたは、百合作品のERO同人誌を数多く購入しているではないですか
「僕が買う同人誌は、女子しか出てこないもの限定です」
おそるべき徹底ぶりである。
そう語る彼の姿は後光がさしているようにも見え、そのまばゆさを正視できず、ただ俺はひれ伏すしかない。
「僕はね、女の子たちがキャッキャウフフしている姿を……ただ静かに見守りたいだけなんです」
なにかひどく大事なことを諭すようにV林田氏は語る。
「そうして、ひたすらに清澄で透明な存在となるのが僕の理想なのです。そこには陰茎……すなわち低劣な男の欲望は不要なのです。わかりますか」
正直、俺にはわかりかねた。
陰茎不要論は、まだ肉を持ちその欲に縛られる人類には過ぎたる思想ではないかと。
だが……
「――わかります」
力強く、そう答えた男がいた。
K(仮称)氏である。
国内でおそらく十指に入るであろう人気を誇る老舗のオタク個人サイト「GF団」を運営する男。
彼に実際に会った者は皆、驚くはずだ。
均整のとれた肉体。爽やかな笑み。
絵に描いたような好青年である。
そして彼と言葉を交わした者は、さらにもう一度驚くだろう。
その思考、その発言の、あまりのゲスさに。
ちなみに、俺とK(仮称)氏が「咲-saki-世界で、土下座したら一発ツモで点棒を出し入れさせてくれそうな娘は誰か」などという低劣きわまりない議論をしていたところ、そこに激昂したV林田氏がおもむろに踊り込み、冒頭の「陰茎不要論」をぶち上げた、というのがそもそもの背景であった。
*
陰茎不要論を受け入れ発展させた男の話をしよう。
「俺はシャーリーが好きなんですよ」
そうK(仮称)氏は語る。
シャーリーとはアニメ「ストライクウィッチーズ」に出てくる娘で、とてもおっぱいの大きい豪快な人である。
もちろん俺も好きだ。
「でも、シャーリーを嫁にしたいかっていうと、それはないんですよ」
なぜですか、と俺は問う。
彼は哀しみと諦めが絶妙にブレンドされた複雑な笑みを浮かべた。
「シャーリーの嫁は……ゲルトなんですよ。シャーリーを一番幸せにできるのは、彼女なんです……俺じゃあない」
ゲルト(ゲルトルート=バルクホルン)というのは、やはり「ストライクウィッチーズ」に出てくる娘で、堅物で生真面目な性格ゆえ、ことあるごとに放埒なシャーリーと対立するツンデレっぽい人である。
「だから、Vさんの陰茎不要論はよくわかるんです。たしかに、あの二人の間には陰茎など不要……すなわち俺の存在など、不要……それでも」
深く沈んだ声でK(仮称)氏は続ける。
「それでも、なんとか関わりたい。そう強く思っていたんです」
その気持ちは、わかる。
二次元に深く没入した者がときおり持つ強い願望。あるいは渇望。
けっして届かない世界へと手を伸ばす、あがきにも似た行為。
「考えて、悩んで――そして、あるとき気づいたんです」
あれはたしか北海道に旅していたときでした――K(仮称)氏は微笑み、この春一番のショッキング発言を口にした。
「俺がシャーリーから生まれればいいじゃないか……って」
それを聞いた俺は困惑する。
ただ、理解に努めようと質問を発する。
――それは、彼女に母になってもらいたいということですか
「否、ただ俺は彼女に孕まれ、その産道を通ってこの世に生を受けたいのです」
なるほど。
かろうじて俺はかすれ声で、そう相づちを打つ。
ともすればこの男の狂気に近い歪んだ欲望に気圧されそうになりながらも、話を聴き続ける。
「俺はゲルトと結ばれたシャーリーの間から生まれ、シャーリーの寵愛を受ける。それに嫉妬するゲルト。そのさまを見て、さらに俺は至福のときを味わうのです」
それは……。
それはいったい、なんなのだろう。
明らかに単なる赤ん坊を超越した視線、そして嗜好をもつその存在は、いったいなんなのだろう。
「そうして、俺はまたシャーリーの胎内に戻り、産道を経由して生まれ落ちたい。繰り返し、繰り返し」
そのような存在を、俺たちはどう呼べばいいのだろう。
そのような願望を、俺たちはどうやって昇華するべきなのだろう。
俺の困惑を見透かしたように、彼は首を振った。
「この考えを話しても、たいてい賛同してもらえないんですよ……産道だけに」
そう締めくくったK(仮称)氏の瞳には、爛々とした光がたたえられている。
この男……どさくさにまぎれて、うまいこと言いやがった。
「以上が、Vさんの陰茎不要論を俺なりに取り入れた結果です。いやあ、陰茎不要論は本当に深い。根が深いですよね……男根だけに」
続けざまにうまいことを言われた俺は絶句する。
そして、彼の表情はとびっきりの――どこからともなく「ドヤッ」という擬音が聞こえるほどの――雄大なドヤ顔をかたちづくっており、凡夫たる俺はただただ恐れ入り、ひれ伏すしかない。
【陰茎不要論者にのっかった宣伝】
●百合星人いや聖人であるところのV林田氏作の咲-saki-同人誌
まだ在庫があるかわかりませんが、ほしい人はメールしてみるとよいかもです
●ゲスを極めし者、「GF団」のK(仮称)氏も寄稿している
randam_butterの同人誌(matter girl ruins)
COMIC ZINさん店頭にあるほか、通販分もまだ在庫ある気配です
俺(井上)の書いた「PLAN B」もよろしければ……いえ、なんでもないです
それにまつわる二人の男の話を。
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陰茎不要論を最初に唱えた男の話をしよう。
「咲-saki-」だとか「ストライクウィッチーズ」だとか、ほとんど男の登場しない世界で女の子同士がいちゃこらいちゃこらする作品……いわゆる「百合」作品が台頭し、人気を博するようになって久しい。
そんな百合をこよなく愛する男、V林田氏によって陰茎不要論は提唱された。
「二次元の世界に陰茎など不要」
彼はそう高らかに宣言する。
日々衰え、萎えていく陰茎について一喜一憂している俺などからすると、いくら二次元を対象にしたものとはいえ、それはあまりに過激な論に聞こえた。
思わず俺は反駁する。
――でもあなたは、百合作品のERO同人誌を数多く購入しているではないですか
「僕が買う同人誌は、女子しか出てこないもの限定です」
おそるべき徹底ぶりである。
そう語る彼の姿は後光がさしているようにも見え、そのまばゆさを正視できず、ただ俺はひれ伏すしかない。
「僕はね、女の子たちがキャッキャウフフしている姿を……ただ静かに見守りたいだけなんです」
なにかひどく大事なことを諭すようにV林田氏は語る。
「そうして、ひたすらに清澄で透明な存在となるのが僕の理想なのです。そこには陰茎……すなわち低劣な男の欲望は不要なのです。わかりますか」
正直、俺にはわかりかねた。
陰茎不要論は、まだ肉を持ちその欲に縛られる人類には過ぎたる思想ではないかと。
だが……
「――わかります」
力強く、そう答えた男がいた。
K(仮称)氏である。
国内でおそらく十指に入るであろう人気を誇る老舗のオタク個人サイト「GF団」を運営する男。
彼に実際に会った者は皆、驚くはずだ。
均整のとれた肉体。爽やかな笑み。
絵に描いたような好青年である。
そして彼と言葉を交わした者は、さらにもう一度驚くだろう。
その思考、その発言の、あまりのゲスさに。
ちなみに、俺とK(仮称)氏が「咲-saki-世界で、土下座したら一発ツモで点棒を出し入れさせてくれそうな娘は誰か」などという低劣きわまりない議論をしていたところ、そこに激昂したV林田氏がおもむろに踊り込み、冒頭の「陰茎不要論」をぶち上げた、というのがそもそもの背景であった。
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陰茎不要論を受け入れ発展させた男の話をしよう。
「俺はシャーリーが好きなんですよ」
そうK(仮称)氏は語る。
シャーリーとはアニメ「ストライクウィッチーズ」に出てくる娘で、とてもおっぱいの大きい豪快な人である。
もちろん俺も好きだ。
「でも、シャーリーを嫁にしたいかっていうと、それはないんですよ」
なぜですか、と俺は問う。
彼は哀しみと諦めが絶妙にブレンドされた複雑な笑みを浮かべた。
「シャーリーの嫁は……ゲルトなんですよ。シャーリーを一番幸せにできるのは、彼女なんです……俺じゃあない」
ゲルト(ゲルトルート=バルクホルン)というのは、やはり「ストライクウィッチーズ」に出てくる娘で、堅物で生真面目な性格ゆえ、ことあるごとに放埒なシャーリーと対立するツンデレっぽい人である。
「だから、Vさんの陰茎不要論はよくわかるんです。たしかに、あの二人の間には陰茎など不要……すなわち俺の存在など、不要……それでも」
深く沈んだ声でK(仮称)氏は続ける。
「それでも、なんとか関わりたい。そう強く思っていたんです」
その気持ちは、わかる。
二次元に深く没入した者がときおり持つ強い願望。あるいは渇望。
けっして届かない世界へと手を伸ばす、あがきにも似た行為。
「考えて、悩んで――そして、あるとき気づいたんです」
あれはたしか北海道に旅していたときでした――K(仮称)氏は微笑み、この春一番のショッキング発言を口にした。
「俺がシャーリーから生まれればいいじゃないか……って」
それを聞いた俺は困惑する。
ただ、理解に努めようと質問を発する。
――それは、彼女に母になってもらいたいということですか
「否、ただ俺は彼女に孕まれ、その産道を通ってこの世に生を受けたいのです」
なるほど。
かろうじて俺はかすれ声で、そう相づちを打つ。
ともすればこの男の狂気に近い歪んだ欲望に気圧されそうになりながらも、話を聴き続ける。
「俺はゲルトと結ばれたシャーリーの間から生まれ、シャーリーの寵愛を受ける。それに嫉妬するゲルト。そのさまを見て、さらに俺は至福のときを味わうのです」
それは……。
それはいったい、なんなのだろう。
明らかに単なる赤ん坊を超越した視線、そして嗜好をもつその存在は、いったいなんなのだろう。
「そうして、俺はまたシャーリーの胎内に戻り、産道を経由して生まれ落ちたい。繰り返し、繰り返し」
そのような存在を、俺たちはどう呼べばいいのだろう。
そのような願望を、俺たちはどうやって昇華するべきなのだろう。
俺の困惑を見透かしたように、彼は首を振った。
「この考えを話しても、たいてい賛同してもらえないんですよ……産道だけに」
そう締めくくったK(仮称)氏の瞳には、爛々とした光がたたえられている。
この男……どさくさにまぎれて、うまいこと言いやがった。
「以上が、Vさんの陰茎不要論を俺なりに取り入れた結果です。いやあ、陰茎不要論は本当に深い。根が深いですよね……男根だけに」
続けざまにうまいことを言われた俺は絶句する。
そして、彼の表情はとびっきりの――どこからともなく「ドヤッ」という擬音が聞こえるほどの――雄大なドヤ顔をかたちづくっており、凡夫たる俺はただただ恐れ入り、ひれ伏すしかない。
【陰茎不要論者にのっかった宣伝】
●百合星人いや聖人であるところのV林田氏作の咲-saki-同人誌
まだ在庫があるかわかりませんが、ほしい人はメールしてみるとよいかもです
●ゲスを極めし者、「GF団」のK(仮称)氏も寄稿している
randam_butterの同人誌(matter girl ruins)
COMIC ZINさん店頭にあるほか、通販分もまだ在庫ある気配です
俺(井上)の書いた「PLAN B」もよろしければ……いえ、なんでもないです
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