Qhapaq振り飛車が居飛車穴熊に勝てない件

今週からは暫く、量子ガシャを使った戦型研究について解説していきます。第一弾はみんな大好き(?)四間飛車です。


【開始局面】
76歩、34歩、26歩、44歩、48銀、42飛

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まで進んだこの局面とします。理想的には角交換とか中飛車とかから最強の振り飛車を決めたいのですが、ある程度序盤を強制しないと振り飛車を弱いと思ってるコンピュータは振り飛車にしてくれないのです。この局面から定跡無しで戦わせる(0.2秒将棋。1手10万局面程度読んでる)と後手勝率は40%弱。戦型の縛り無しで戦わせると後手勝率は48%前後の値が出る中でこれなので、確かに居飛車に比べて弱いと言えます。

【学習結果(12.17時点)】

量子ガシャを用いて定跡を整備した結果
vs 定跡off 520 - 27 - 462 (47%)
vs 真定跡 553 - 30 - 437(44%)
vs 大定跡 544 - 41 - 391(41%)

となりました。定跡offに対して大分強くなった一方で、何故か大定跡にだけ妙に弱い結果となっています。一体何が起こったのでしょう。

【河童振り飛車は急戦派?】
河童振り飛車定跡に登録された、振り飛車側がうまく勝ったという棋譜を眺めてみます。
vs 定跡off

開始局面から 68玉、62玉、58金、33角、78銀、32銀、96歩、94歩、86歩、72玉、79玉、45歩

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開始局面から、定跡offで最も頻繁に指される手は68玉のようです。居飛車側は78銀を早めに決めて、銀冠、左美濃、高美濃を見せています(これが本当にいい手かは謎です。相居飛車での居角左美濃の影響かもわかりません)。これに対して河童振り飛車は美濃囲いの完成すら待たずに45歩から開戦を要求しています。

人間的な推理をするならば、振り飛車の大きな問題点は手損であるが、居飛車の76歩が陣形の傷になっているうちに勝負をしかければ、実質的な手損は解消できるといったところでしょうか。

【大定跡の秘策 66歩】
開始局面を大定跡に読ませると手の候補が6つ(66歩、56歩、58金、68玉、77角、25歩)あがってきます。この中で、定跡offで指されにくい手が66歩と56歩です。

 

66歩からの変化一例:

62玉、68玉、45歩、58金、32銀、25歩、33角、56歩、72玉、57銀、82玉、78玉、92香、77角、43銀、98香、94歩、68金、91玉、96歩、82銀、88玉、54銀、99玉、71金、88銀(図面では先手番となってますが実際は後手番です)

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56歩についても、52金、66歩、64歩、68玉・・・以下、持久戦模様になりがちです。

 

66歩と早々に角道を塞いでしまう、46歩からの4筋の歩交換を許すなど、よく言われる将棋の教訓に反しまくっているのが特徴的です。

66歩が形として本当に優れているのか、または、自分から攻めにくい局面にすることで持久戦模様にする確率を上げているのか(※)はわかりませんが、定跡offと大定跡との勝率差を見る限り、振り飛車で持久戦を相手にするのは辛いとQhapaqは思っているようです。

※:コンピュータに指してほしくない手を指させないために、敢えて形を限定するような手を早いうちに指すという戦略は開発者にはよく知られた手法です。例えば、昨年のapery定跡は振り飛車を避けるために初手を26歩に固定している、などです。

 

【河童定跡を用いた居飛車穴熊対策】

勝率的にQhapaq振り飛車が持久戦を苦手にしていることに加え、「基本的にその場の読みに任せるが、序盤から有利になる手をストックしておくことで適宜相手を狙撃する」という定跡スナイパー理論は手数の長くなる将棋を苦手としています。

藤井システムなどの有力な対策を定跡に仕込み、20手ぐらいまではそれを使い、20手目以降はスナイパー理論を使うなどの手も考えられますが、ハム将棋並みの棋力と、4筋の歩がぶつかった後の角換り並の暇しか持たない私には辛い話です。

そこで現在、大定跡との対局回数を増やし、レパートリーの暴力で持久戦での戦い方を模索するという方針をとっています。四間飛車が本当に居飛車穴熊を苦手としているのであれば、棋譜を増やしたぐらいでは勝率は上がらないのでしょうが、棋譜を増やした結果、定跡が短い手数で途切れにくくはなりました。

河童振り飛車定跡を公開する際は、定跡用に喰わせた棋譜も一緒に公開する予定です。居飛車穴熊対策を加えようとすると、ものすごい数の棋譜が必要になってしまいますが、コンピュータが思う勝ちやすい振り飛車局面集として、みなさまの将棋研究に役立てば幸いです。

 

四間飛車の次は一手損角換りに挑戦予定です。一手損は竜王戦で非常に注目を浴びていますし、戦型強制能力が高いためうまく回れば非常に役に立つと言えましょう。Qhapaqの予備実験では後手勝率が43%と少々苦しい戦略と思われているようですが、果たしてどうなることやら。