お金の上手な使い方とはどのようなものか。解剖学者の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんとの対談を収録した『虫坊主と心坊主が説く 生きる仕組み』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
養老孟司さん=2024年3月23日午後、神奈川県箱根町
写真提供=共同通信社
養老孟司さん=2024年3月23日午後、神奈川県箱根町

安倍さんの葬式なのに、靖国神社に行きたくなっちゃう

【養老】以前、批評家の東浩紀君と対談したとき、彼、おもしろいことを言っていた。

安倍晋三(元首相)の国葬を取材に行ったというんだ。日本武道館でやった葬式には1万人(実際の参列者は4183人。海外の代表者約700人)が集まって、年配の人は正装してきたと。参列者は献花する形式だから、花を捧げたらやることないので、みんな何をするのかと思って見ていたら、靖国神社に向かって歩いて行くんだと。いまの人は葬式を甘く見てるというか、軽く見ているというのかわからないけど、いずれにしても、「安倍さんは靖国神社で国葬したのと同じですよ」と東君が言ってた。そういうところは、彼、鋭いですね。安倍の葬式に何人が来たとか、そういうことじゃない。

【名越】その人の身体がどういう指向性を持っているか、その流れを見ているんですね。

【養老】さっき言ったように、「会うっていうのは昔から決まっていた。お釈迦さんがちゃんと知っている」という考え方が消されてきたから、靖国神社に行きたくなっちゃうんですよ。安倍さんの葬式なのに。

【名越】その話に繋がっていくんだ。なるほど。自分がなぜここにいるのか、何者かっていうことに潜在的に飢えているんだ。それ全部消されてきたから。

ブータンで出会った高僧から言われたこと

【養老】何度もブータンに行ってますけど、さっきの話もそうだけど、因縁がいろいろあるんですよ。聞いた話では、ブータンでは、自分でお坊さんを選んで一生の師にするっていうんですよ。自分が何らかの問題に直面したりするとその坊さんに相談に行く。最初に行ったときに会ったお寺のお坊さんがなかなか偉い人だったんですね。当時僕がブータンで知り合った人も、僕のガイドしてくれた男もみんな、「会うことが決まっていた」と言ったお坊さんのところに来ていた。

そのお坊さん、いつも元気なさそうな顔をして、申し訳なさそうにしてるんだけどね。全然偉いお坊さんって感じがしなかった。それがいいなと思ってね。お坊さんの世界って、大体エラそうでしょ。でもそのお坊さんはそういうところがまったくなかった。直感的にいいお坊さんだとわかるんだよ。

ブータンへ行ったのが2回目か3回目のときだったか、そのときは女房と一緒だったんだけど、そのお坊さんがこう言うわけ。

「日本はお金持ちだって聞いてるから、金を集めてくれないか」