Y Combinatorを始めた理由 ---Why YC---

Paul Graham, March 2006 (Rev. August 2009).[訳註1]
Copyright 2009 by Paul Graham.

これは、Paul Graham:Why YC を、原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。

<版権表示>
本和訳テキストの複製、変更、再配布は、この版権表示を残す限り、自由に行って結構です。
(「この版権表示」には上の文も含まれます。すなわち、再配布を禁止してはいけません)。
Copyright 2009 by Paul Graham
原文: http://www.paulgraham.com/whyyc.html
日本語訳:Shiro Kawai (shiro @ acm.org)
<版権表示終り>

Paul Graham氏のエッセイをまとめた『ハッカーと画家』の 邦訳版が出版されました。
出版社の案内ページ Amazon.co.jp サポートページ

2009/08/24 翻訳公開


私たちが投資したあるベンチャーの創業者に、昨日、 なぜY Combinatorを始めたのか尋ねられた。 もうちょっと正確にいうなら、主に楽しみのためにYCを始めたのかどうか、ということだった。

そうとも言えなくはない。 RtmやTrevorとまた一緒に仕事ができるのはとてつもない楽しみだ。 Viawebを売却してしまった後、彼らと仕事ができないことを寂しく思っていたし、 それからずっと、一緒に何かやれることはないかと心の隅で探しつづけていた。 Y Combinatorにはチーム再結成という面は確かにある。 私など、一日おきに、ついうっかりY Combinatorのことを「Viaweb」と呼んでしまうくらいだ。

Viawebは、はっきりと金を稼ぐことを目標にして始めたものだ。 私はフリーランスでプロジェクトを渡り歩くのに少々嫌気が差して来ていて、 いっぺん限界まで頑張って金銭的な問題を一気に解決してしまおうと決意したのだ。 Viawebでは時に楽しいこともあったが、楽しみのためにやっていたわけではないし、 日常のほとんどは楽しいものではなかった。ベンチャーってそういうものだろう? たいていは、重い荷物を背負って遠き坂道を行くが如し、だ。

Y Combinatorを始めた本当の理由は、利己的なものでも 高潔なものでもない。金儲けのためでもなかった。 そもそも平均でどのくらいリターンがあるか全く見当もつかなかったし、 おそらく今後も長い間わからないだろう。 若い、ベンチャーの志を持った創業者達を助けるため、というのも主要な理由ではない。 もっともそういう目的自体は気に入ってたし、時には、 投資が全部無駄になったとしても、それ自体が我々が利己的でなかった証になるじゃないか、 などと自分たちを慰めたものだ。(おかしなほどに非決定的だろう?)

Y Combinatorを始めたほんとうの理由は、たぶん ハッカー[訳註2]だけが わかることだと思う。それが、素晴らしいハックに思えたから始めたんだ。 会社を始めようと思えば始められる、賢い人々は何千人もいて、 正しい場所にちょっとした力をかけてやれば、 それ無しには存在しなかったたくさんのベンチャーを世界に送り出すことが できるんじゃないか。

ある意味でこれは高潔なことと言えるかもしれない。 私はベンチャーが良いことだと思っているからだ。 けれども本音のところでは、私たちを衝き動かしていたのは、 どんなハッカーでも持つあの後ろめたい欲望、 複雑な機械を前にして、ちょっといじってやればずっとうまく動くのにと 気づいた時のあの衝動だった。 今回の場合、複雑な機械とは世界経済で、幸いなことにそれはオープンソースだったんだ。


訳註

訳註1:
もともとPaulが自身のinfogamiのブログ (今は削除済み) に掲載していた記事を リライトしたもの。
訳註2:
邦訳は「天邪鬼の価値」として『ハッカーと画家』に収録。

[Practical Scheme]