PRESS RELEASE (技術)
2016年2月16日
株式会社富士通研究所
時系列データを高精度に分析する新たなDeep Learning技術を開発
IoTデータに適用し、既存技術に比べ約25%の大幅な精度向上を実現
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、IoTアプリケーションに活用が期待される、振動が激しく人による判別が困難な時系列データに対して高精度な解析を可能とするDeep Learning技術(注2)を開発しました。
Deep Learning技術は、人工知能の発展におけるブレークスルーとして注目されており、画像や音声では極めて高い認識精度を達成している一方で、適用できるデータの種類は限られています。特にIoT機器などから得られる、人による判別も困難なほどの激しい振動の時系列データを精度よく自動的に分類することは困難でした。
今回、最先端数学を活用し、時系列データから幾何的な特徴を抽出することで、激しい振動の時系列データを高精度に分類することができるDeep Learning技術を開発しました。
これにより、ウェアラブル機器などに用いられるジャイロセンサーの時系列データの分類を行うUC Irvine Machine Learning Repository(注3)のベンチマークテストにおいて、既存技術に比べ約25%増と大幅に精度が向上し、約85%の精度を達成しました。
なお、本技術は富士通株式会社のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)(以下、Zinrai)」に活用していきます。
本技術の詳細については、2月16日(火曜日)に米国サンタクララで開催の技術展「Fujitsu North America Technology Forum (NATF 2016)」にて展示します。
開発の背景
近年、人工知能の中核技術である機械学習の分野において、人がルールを教えることなく自動的に物事を解釈・判断するために必要となる特徴要素を抽出することが可能なDeep Learning技術が注目されています。
特にIoT時代においては、機器からの膨大な量の時系列データが蓄積されるため、それらにDeep Learningを適用して高精度に分類することで、さらなる分析が可能となり、新たな価値の創造やビジネス領域の開拓につながることが期待されています。
課題
Deep Learningは機械学習の強力な手法であり、人工知能発展のブレークスルーとして注目されていますが、現状では画像や音声の認識など限られた種類のデータにしか有効に適用できていません。
特に、IoT機器などに搭載されているセンサーから取得される変動の激しい複雑な時系列データは、Deep Learningだけでなく他の機械学習技術でも高精度な分類を実現することは困難でした。
開発した技術
今回、最先端のカオス理論および位相幾何学を活用し、時系列データを高精度に自動で分類することができるDeep Learning技術を開発し、変動の激しい複雑な時系列データも扱えるようになりました。
開発した技術は、以下の手順によって学習し、分類するものです。
- カオス理論に基づいた、時系列データの図形化
センサーにより観測される数値は、力学的な運動が複雑に組み合わされた結果として、表面的に現れます。この力学的な運動の仕組みを直接調べることは困難ですが、データの時間変化をグラフ上にプロットしていくと、運動の仕組みごとに特徴的な軌跡を描く事が知られています。この図形化手法を用いることで対応する時系列データを、図形として区別することが可能となります。
- 位相幾何学に基づいた、図形の数値化
1で得られた図形のまま機械学習を行うことは困難なため、位相幾何学に基づくデータ分析手法の一つであるトポロジカル・データ・アナリシス(注4)を用いて、図形の特徴を数値化しました。この手法では一般的にイメージされる図形としての特徴ではなく、図形に含まれる穴の数や、大まかな形状を特徴として分析し、独自のベクトル表現に変換します。
- 畳み込みニューラルネットワークによる学習と分類
2で得られた独自のベクトル表現を学習する畳み込みニューラルネットワークを新たに設計しました。これにより、複雑な時系列データの分類が可能となります。
図1. 本技術による時系列分類イメージ
効果
ウェアラブル機器に搭載されたジャイロセンサーの時系列データをもとに、人の運動行動の分類を行うUC Irvine Machine Learning Repositoryのベンチマークテストにおいて、既存手法に比べて約25%精度が向上し、約85%の精度を達成しました。また、脳波の時系列データからの状態推定を行う分類においては、既存手法に比べて約20%精度が向上し約77%の精度を達成しました
本技術により、Deep Learning技術の適用できるデータの範囲が時系列データにまで広がります。さらに、人による判別が困難な変動の激しい時系列データを高精度に分類できるようになることで、新たな分析が可能になります。例えば、IoT機器を活用して、ものづくりの現場における設備の異常検知や故障予測を高精度に実現したり、バイタルデータを分析することで医療における診断・治療支援を実現するなど、様々な分野で人工知能による高度化が期待されます。
今後
富士通研究所は、時系列データの分類技術のさらなる高精度化を進め、「Human Centric AI Zinrai」のコア技術として本技術の2016年度中の実用化を目指します。また、画像・音声・時系列以外のデータへのDeep Learning技術の適用拡大を進め、高度なデータ分析を実現していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社所在地 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相秀幸。
- 注2 Deep Learning 技術:
- 多層構造のニューラルネットワークモデルを用いた機械学習技術。
- 注3 UC Irvine Machine Learning Repository:
- 機械学習の比較評価用に数々のデータセットを提供している世界的に有名なリポジトリ。
- 注4 トポロジカル・データ・アナリシス:
- データをある空間内に配置された点の集合とみなし、その集合の幾何的な情報を抽出するデータ分析手法のこと。
関連リンク
- 当社が培ったAI技術を「Human Centric AI Zinrai」として体系化(2015年11月2日 プレスリリース)
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
044-754-2328(直通)
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