これが謎の記号だ
街を歩いていると、地面にこんなふうに手書きされてることがありませんか。
いろいろ書かれてる
「Wφ150」とか「DP0.8」とかいろいろ書いてある。
意味は分からないが、たぶん道路工事とかにかかわる関係者だけが分かる記号なんだろう。
これを通して地下を見る、という人たち
そして世の中には、工事関係者でもなんでもないのに、これらを推測・解読し、それによって地下のようすを見ることができる、という人たちがいる。
Twitterでは、「
#見える地下」というハッシュタグを検索するとその活動の一端を知ることができる。
「ガス管は全部の分岐点にバルブを設置するわけじゃないんだね」と書かれているが、ぼくからすればそこにはただ「G→」というシールが貼ってあるだけにしか見えない。
彼らにはいったい何が見えているのか。一緒に街を歩いて、「見える地下」について教えてもらうことにした。
東京の水道橋駅に集合しました。左から知人で編集者の磯部さん、小金井さん、Nさん(仮名)。
「見える地下」という活動の名付け親である
Nさん(仮名)は道路全般に詳しく、「
TTSの道路探検」というウェブサイトを20年も前から運営している。
まずはこんな地面に出会った。
なにか書いてある
まずはここ。Wとある。
Nさん「まず左下のWは Water、つまり水道管がここに通っているということだ思います。」
つぎはこれ
Nさん「それからTはTelephone、つまり電話線でしょうね。」
三土「0.8っていうのはなんでしょう」
Nさん「それはおそらく電話線が敷設されている深さで、単位はメートルでしょう。」
これはなんだ?
三土「EX4 1.5っていうのは何でしょうね?」
小金井さん「たぶんE x 4ですね! ElectricのE。電線が4本っていう意味だと思います。」
三土「なるほどおおおおお」
小金井さんは主にマンホールを見ている人で、先日も「マツコの知らない世界」というテレビ番組でマンホールを紹介していた。地面にあるもの全般に詳しい。
納得しすぎて、さっきからなるほどしか言ってない。合わせると、こんなふうに地下に通っているってことだ。
まさに見える地下
だいぶ分かってきた気がする。ここまでをまとめるとこういうことだ。
見える地下の法則その1
Eは電気、Wは上水道、Tは電話
見える地下の法則その2
数字は深さで、単位はメートル。
Ex3 0.6
つまり電線が3本、60cmの深さに埋まってるっていうことだ!「読める。読めるぞ!」という気持ちだ。
ラピュタ王のようになったぼくの横で、Nさんがまた何かを発見した。
Kと書かれたマンホールの蓋
Nさん「ここにKって書かれた蓋がありますね。これは警察のKですが、右側に黒いアスファルトが続いてます。」
Nさん「この黒い新しいアスファルトをたどっていくと、」
Nさん「この歩行者信号まで届いてます」
言うまでもなく、信号を管轄しているのは警察だ。
Nさん「つまり、この新しいアスファルトに沿って信号に必要な電線とか通信線が埋まってるんでしょうね。これも見える地下です。」
つまりこういうことか!
これには飛び上がって驚いた。地面に何も手書きしてなくても、Kが警察のマンホールであるという知識、新しいアスファルトが信号まで延びているという観察によって、地下にあるものが見えてしまうのだ。
見える地下の法則その3
新しいアスファルトがヒントになる
そもそも何で地面に書かれてるのか
ところで、これまで見てきたような記号は、誰がどんな目的で地面に書いたんだろうか。
それについては小金井さんが教えてくれた。
小金井さんが見つけたマカロニみたいな「見える地下」
小金井さん「道路工事をやる際に、間違って既存の管を傷つけないように、何が埋まってるかあらかじめ書いておく、ということのようです。」
手順としてはこういうことのようだ。
1. ガスなどの工事計画が立ち上がる
2. 施工予定地の台帳を見て、だいたいこんな風に管が入っているだろうと事前マーキングする
3. その範囲に管理する管が埋まっている企業の方が集まって試掘する
4. 試掘したところを塞いで、実際に埋まっていた管の様子をマーキングする
5. ガスなど、予定していた工事をして仮舗装する
6. そのへん一帯の工事が終わったら本舗装する
こういうことをするのは、実際にいろんな事故が起きているからだ。
国土交通省の資料(PDF)によると、ガス管、水道管、光ケーブルなどあらゆるものが破損している。そりゃ事前に調べたくもなるよね。
試掘をした結果が台帳と合わないこともよくあり、そういう場合は「不明」と書かれるそうだ。
小金井さん「ここに管があるね、でもうちのじゃないね、うちのでもないね、じゃあ不明管って書いとこう、みたいなことだと思います。」
不明管の例
下水道管を新しくしよう、という工事の場合でも、近くの地面にはガスや電気など別の管がたいてい埋まっているので、他の企業にも立会いをしてもらってみんなが見てる前で掘ることが多いそうだ。
そんななかで「なんだこの管・・」みたいな不明管が出てくる空気はちょっと見てみたい。でもそんなもんだよね!実物が更新されたのに図面は更新されないなんてよくあることだ。
見える地下の法則その4
よく分からない管も埋まっている
ひきつづき地面を見ていく。いままで気づかなかったけど、ほんとにいろんな記号が書かれている。
「D」とはなんだ
Nさん「Dはドレーン、つまり下水管ですね」
なるほど。確かにすぐ隣に合流とかかれた下水道のマンホールの蓋もある
Wが上水、Dが下水か。
Gの下にライクフ?
Gはガス管だろう。ライクフとはなんだろうか。磯部さんが調べたところによると、「ライクス」という道路工事業者があるようだ。たぶんここを施工する予定の業者なんだろう。
磯部さんは橋や道路に詳しく、土木学会のイベントで道路の話をしていたりする。街角図鑑という本を一緒に作ってくれた編集者だ。
W ナカス
別の場所にあった「ナカス」もまた別の施工業者のようだった。Wだから水道管の工事をしたんだろう。
ライクスとナカスはどんな関係なのだろうか。生々しいのもあれなので、とりあえず仲良しだと思うことにしよう。
名作「見える地下」をご紹介
神保町についたころにはお昼になった。ごはんを食べつつ、Nさんと小金井さんがこれまでに見つけた名作の「見える地下」を紹介してもらった。
ファミレスにて。顔が切れてて匿名取材みたいになった。
まずはNさんの見つけた、立体交差する「見える地下」。
左と真ん中で立体交差してる!
これはすごい。これまでの例と違い、地下の立体構造がどんなふうになってるかがほんとうに見える。
ここは現在ではふつうの地面に戻ってしまっている。
現在のようす
前のページでも書いたとおり、地面に書かれたいろいろは工事のための準備だ。
なので工事が終わればなくなってしまう。「見える地下」は期間限定なのだ。
水色で何か書いてある
これは小金井さんが渋谷で見つけたもの。
水色というのがポイントで、上水道は水色で書かれることがあるそうだ。他にも下水は茶色、ガスは黄緑色など、なんとなくのルールがあるらしい。
「W Φ150 D.P 0.8」はつまり、直径150ミリの水道管が0.8メートルの深さにあるってことだろう。奥にあるのはDP 0.75だから、5センチだけ浅い!
ドイツの「見える地下」
Nさんによるこれはドイツで見つけたというもの。
手前と左右から合流して奥に流れている、というようすが分かっておもしろい。
Fって書いてあるけど、なんだろう。ドイツ語だろうから全然想像つかない。
いったいいつ工事予定なんだ
工事予定日が5月30日から1日ずつ延びて、6月1日になっている。
この日付でほんとに確定するのか不安になる。できれば6月30日くらいまで延びて、次の交差点あたりまで行ってほしい。
渋谷から広尾まで
電車に乗って渋谷まで移動した。ここから広尾まで地面を見ながら歩こうということになった。
渋谷
NTT 4条1段
4条っていうのはきっと4本の線が平行に通ってることなんだろう。四条一段なんてちょっと京都の交差点みたいだ。格調高い。
また別の橋
奥に見えるのは渋谷川にかかる別の橋だ。そこに手前から「W 1500」が向かっていく。Wはつまり水道管だろう。どこに向かうのだろうか。
向かった先にあるのはこれだった
水道管がある! さっきまで見える地下だったものが、川を渡る際に「見える地上」になったのだ。当たり前だけど。
さっそく群がる二人
橋があると「見える地下」のいわば答え合わせができるのだ。
見える地下の法則その6
「見える地下」は橋を渡るとき「見える地上」になる
広尾に素晴らしい物件があった
てくてくと歩いて広尾までやってきた。意外と近いもんですね。
広尾小学校ではこどもたちが遊ぶ
そして歩道橋のたもとでただならぬ物件を発見した。まるでぼくたちへのプレゼントのような見える地下だった。
横断歩道になにか書かれている
左には「本復旧なし」、右には「工事なし」と書かれている。どういう意味だろう。工事しなくていいことになったのか、あったはずの工事の跡がないということか。
施工不可
そしてこれだ。「施工不可」。試し掘りをしたところ、何らかの理由で本工事ができないことが分かったのだろう。そっと閉じる、いわゆる「そっ閉じ」というやつだ。
歩道橋は黙して語らない
いったい何があったのか、事情は分からない。ただ、関係者が多少動揺したであろうことは伝わってくる。地下が見えるようになってきた結果、関係者の気持ちも少し分かるようになったということかもしれない。
見える地下の法則その7
施工業者の気持ちが少し分かる
地下を見よう
都市のインフラは地下に隠されている。
それらは、そこに通じる蓋や、工事用の書き込みを通じてはじめて意識することができる。
だから地下を見るということは、都市を見るということなのだ。なんだこのまとめ。
工事に関するいろいろな点について、小金井さんを通じて実際に「見える地下」に関わっている方にお教えいただきました。ありがとうございます。記事に間違いがあるとしたら、ひとえにぼくの理解不足によるものです。