特集 2017年3月22日

27年前に見たウルトラマン製造工場は幻だったのか

子どもの頃、ふしぎなものは見たことはありませんか。

幽霊を見たとか、人が壁をすり抜けたとか、成長して大人になればなるほど納得できない現象を。「そんなものは子どもの見間違いだ」と片付けられがちだけど、もしかするとそうでもないかもしれない。少なくとも、そう思えるだけのなにかを見たのだと思います。

つい最近まで、理屈に合わなすぎてずっと幻だと思っていた27年前に見たものが、記憶の糸を辿ったところ、実在しました。だから断言したい、記憶は幻ではない。事の顛末を、いっしょに体験してほしい。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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27年前に見たウルトラマン製造工場は幻だったのか

小学生の頃に、学研の雑誌を定期購読していた。「●年の科学」というもので、科学に絡めた読み物が豊富な子ども向け雑誌。「まだかなまだかな~学研のおばちゃんまだかな~…あっ、おばちゃんだ!」というCMを覚えている同世代(33歳です)の人も多いだろう。朝よくやっていた気がする。

小学1年の頃だったと思う。その号では、上半身だけのウルトラマンを製造している写真が載っていたのだ。小1男子なんてものはほとんど全員特撮ヒーロー大熱狂時代である、「ウルトラマンが!ロボット!?」…それを裏付けるように、ページをめくるとそんなウルトラマンがバルタン星人と戦っている写真があった。
ウルトラマン製造中、記憶を頼りに書いたスケッチ。
衝・撃・だった!!

ウルトラマンは、本当に、あのビルより高いサイズのロボットが戦っていたんだ。当時、怪獣は実在せずフィクションの世界ということは理解していたが、人間が入って演じているという想像までは及ばなかった。考えれば分かることだが考えなかった、ギリギリのタイミングの年頃だったのだ。

突然だが、ベトナムには「ホビロン」というアヒルの卵料理がある。料理というか食材みたいなものだけど、卵ではない。どういうことかというと、孵化直前の卵で、黄身も鶏肉も同時に楽しめるという食べ物なのだ。味は親子丼に似ているが、おそらくご想像されている通り、見た目はグロい。
モザイクなしで見たい方はほそいさんの記事「ホビロン(孵りかけのアヒルの卵)を食べる」をご覧ください。
なんでここでホビロンの話をしたかというと、そんな卵ともヒナともつかないタイミングがごとく、ウルトラマンに対して曖昧な理解であった年頃の私に、「怪獣はいないけどウルトラマンはあれ、本当にあのサイズなんですよ!」という情報が写真付きで入ってきた日にゃ、そりゃ事実としてスルリと入り込んでしまうよと。
ホビロンはお近くのこんなお店でお買い求めください。
すぐ翌日に同級生のH田くんにことの共有をすると、「そんな訳ないやろ~!あほちゃうんん~!?」と、俺のこと嫌いなの?と聞きたいくらいバカにされた。「見たもん!ほんまに戦ってたもん!見せたるわ!」と返答したものの、授業に関係ないものは学校に持ってこれなかったので、悔しい思いをしたがそれもいつしか忘れてしまった。

今思うと学校の外で見せれば良いだけなのだが、彼とはそんなに仲良くなかったのでそうならなかったんだろう。ってことは俺、誰でもいいから話したかったんだなぁ。

どうでもいいが、いっしょに思い出したことがあるのでもののついでに聞いてほしい。同じ頃に2つ上の兄が「ドラクエ4の五章の中ボス戦前まで進んでる」という自慢を同級生にしたくて、「中ボスといつでも戦える状態なんだぞ」というディティールを伝えたいものの、語彙が追いつかず…。

私「お兄ちゃん、今中ボスと戦ってるとこやからな!」
友「え、お前の兄ちゃん今ドラクエしてんの?学校サボってるやんけ!」
私「いや…ちゃう…でも、戦ってる途中やねん!」
友「うわー!こいつの兄ちゃんサボってるー!!」
私「ちゃうわ!あ…でも…戦ってるとこやねん!」
友「サボってるぅー!!」

というやりとりがあったことをここに書き記しておきます。あのときは兄の名誉を守りたいけど自慢はしたい、という矛盾を抱えた感情に翻弄された。悔しい感情だけは25年以上経った今も生々しく思い出せるってすごい。きっとあのまま突然アーチェリーの矢でも頭に突き刺さって死んだら、兄のセーブデータを自慢する地縛霊になっていたことだろう。ちなみに、そこで語彙が足らなかった思い出が私がライターになった理由です。というのは嘘です。

かなり脱線してしまったが、本題に戻りたい。
そう、ウルトラマン製造工場の話だ。

国会図書館ならあるかもしれない

あの日の記憶が幻かどうかを確かめたい。編集・古賀さんにそう相談したところ、「国会図書館ならあるんじゃないでしょうか?」と来た。あぁ、確かにその通りだ。
6年前に仕事を辞めて物見遊山で来た以来だな。
結論から言うと、なかった。
写真は落胆して出てくるイメージ(合成)です。
ま、まぁ、ここで見つけても、図書館内は撮影禁止なのでどうしようかと思っていたからちょうどいい…のか?うーん、でも国会図書館にも置いてないとなると、そこはやっぱり…学研さんに問い合わせてみるしかないか!
***
はじめまして。
私、ライターをしております水嶋と申します。
1990年4月~1992年3月の期間、月刊購読していた「1年の科学」または「2年の科学」の記事において、等身大(40メートル)のウルトラマンが工場内で製造されている写真を見た記憶があります。そこで、もし御社でバックナンバーなどを管理されておりましたら、真相を確かめるためにそちらを拝見することは可能でしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。
***
※中略しています。

その返事がこちら。
***
当時の担当に聞いてみましたが,心当たりのある者はおりませんでした。
また,ざっとその期間の本を見てみましたが,ウルトラマン関係は,「たまごをウルトラマンのようにペイントする」記事くらいで,当該記事は見当たりませんでした。
お役に立てず申し訳ありません。
当時の科学と学習は残っておりますので,弊社に来ていただいて,ご覧いただくことは可能です。
***
※中略しています。

おぉー!「たまごをウルトラマンのようにペイントする」、なんかそれ記憶にあるぞ!…じゃ、なかった。ななな、ないのかー。ここでもうほとんど諦めムードではあったのだが、来て見ることは可能だとおっしゃってくださっている。ないと言われているのに伺うのは失礼かと思ったが、ここである重大な見落としの可能性に気づき、それを明らかにするためにも自分の目で直接確かめようと考え、赴いた。

どこかな~どこかな~、あっ、学研だ!学研訪問!

学研は幼い頃の私にいろんな知識(乾燥状態のカブトエビは水さえ与えれば復活するとか)を与えてくれた、近所のインテリな兄ちゃん的存在と言ってもいい。その本丸に足を踏み入れる日が来るとは…。科学と学習には知的好奇心をバリッバリに刺激されたものだ。あの雑誌がなければライターをしていないと言っても過言ではない。
何の先入観もなく目的地に向かったら、すごい立派なビルディングだった!
一階エントランスでメールに応対していただいた橋爪さんと会い、雑誌をつくっている編集部へ通してもらう。
橋爪さん「こちらが書庫です」私「うおっ」
うおー
橋爪さん「当時のものはだいたいあると思います。ただ最近配置換えをしたので、すべてが時系列で置いてあるかどうかは分からないのですが…」
私「ありがとうございます!探すものは二年分なので、それだけあればなんとかなるかと」
それにしても!
お宝だね…!!
よくみると1960年台のものまで置いてある。50年以上前の話だよ、親の世代ですか。いいのか、こんなところに部外者を通しちゃっていいのか。申し訳ございません。
とっても中身は気になるが、目的とは違うのと、ただでさえ貴重な物なので開く勇気はありませんでした。
黙々とウルトラマンを探す。
まずは、1990年度の一年の科学と、1991年度の二年の科学だ。布張りのバインダーごとガバッと開いて中身を見ると、次々と思い出がよみがえってきた。ねこまんまのポチとか…モアイくんとか…あったなぁ。漫画読んでたなぁ。本来なら探し物じゃないものも撮っておくべきだったんだけど、はよ見つけな!という思いが焦って撮らず。で、肝心のウルトラマンも見つからず…。

ただ、妙な違和感があった。雑誌の内容が自分の記憶とちょっと違う気がする。いや、厳密には同じなんだけど、なんかこう、読み足りないような…。科学と学習ってこんなアッサリしてたっけ?もっと深い角度で知的好奇心を煽られたような気がする…。その違和感こそ、前述の「重大な見落としの可能性」の存在を裏付けるものだった。

私「うん、そうか…なら…もうあれしかないよな」

真相に近づいている感覚が気分を徐々に上気させる。滅多に言わない独り言をつぶやきながら、「1990年度の三年の科学」を開く。そう、私には2つ上の兄がいる!ドラクエ4の五章の中ボスと戦っていたあの兄が!確かにそっちの雑誌も読んでいた!もしかしたらあのウルトラマンが載っていたのは、兄の雑誌の方だったんじゃ!?

私「…!!」
デゥイイイィィィンシュワシュワシュワ!!(衝撃を変身風に)
私「はあっ!はっ、はー!はー!!」

鼓動が、鼓動が止まらない。間違いない、あれは幻じゃなかった。27年前、確かに!確かに俺はこれを…!!
あったああぁぁぁーーーーーーー!!!!!
戦ってる戦ってる戦ってるーーー!!!!!
私「あった!あった、あった…あった、あったよ…」

小声でうわ言のように繰り返し、ヒザを震わせながら、内線を借りて別階の職場に戻った橋爪さんに電話する。

橋爪「はい、橋爪です」
私「私です、水嶋です、ありました!」
橋爪「えっ、本当ですか!今向かいます!」

真相解明~ウルトラマン製造工場と記憶した理由~

改めて紹介しよう。
巨大ウルトラマンロボットである。
バルタン星人との戦闘シーンも再現されている。
ただし、記憶とは異なる点も多い。そもそも、大きいっちゃ大きいが、とても等身大(40メートル)じゃない。これは戦闘シーンを見て、ビルの模型を実物大と思い込んだための勘違いだろう。そして、工場の中で製造されていたと勘違いした点についても説明がつく。
小さな写真がまさにそんな構図だったのだ。
こっちはバルタン星人だが、これをウルトラマンに変えさえすればほぼ記憶の中の写真そのものだった。その左の写真には腰から上のウルトラマン、上の写真には工員が写っている。

つまり、寝そべるウルトラマン、ビルの中で戦うウルトラマン、上半身だけのウルトラマン、工場で寝そべるバルタン星人、工員の男性が写った写真、これら5枚の写真の記憶が混ざり合って、27年間に渡って抱き続けた「工場で上半身だけのウルトラマンが工員に製造されている写真」の記憶が出来上がっていたのだ。すべての勘違いにはそう思わせる十分な理由が存在した。とは言え、ここまでピタリとジグソーパズルのように当てはまるとは…。

で、ウルトラマンロボット自体の正体は何なのか。

記憶の真相は掴めたが、この記事はもうちょっとだけ続く。喜びも束の間、浮かび上がる疑問。結局、このウルトラマンロボットは何の目的でつくられたものなのか?そこまで追っていって終わりにしよう。
ページの隅っこに、円谷プロは当然として、「三井グリーンランド」という言葉が載っていた。これは…?
ページの隅にあった三井グリーンランドについて調べると実態はあっさり判明。これは熊本にある遊園地で、今は「グリーンランド」に改名して運営をつづけている。このウルトラマンは、当時開催されていたイベントで使用されたものらしい。より詳細が知りたいと橋爪さんに確認してもらったが、円谷プロとやりとりしていた学研の担当者はすでに定年退職されたとのことだった。27年前のことと考えれば当然か。

ダメ元で円谷プロにも確認してみたが、答えられないとのこと。私は高校生の頃にヒーローショーのスーツアクターのアルバイトをしていたので、ヒーローの裏側を語ることはかなりデリケートゾーンな話だと分かる、これは予想通りでもあった(だったら聞くなよ、という話だけど)。グリーンランドにも連絡してみたがこちらは未回答。ウルトラマンは円谷の管轄領域だし、当然か。そもそもどちらに至っても当時を知る方は退職されていると考える方が自然だ。

が、当時を知る…元・少年がいた!!

もうここまでか、それでもよくやった方だろう、そう思って編集・古賀さんに取材終了の報告でも入れようか…そう思ったところ!なんと友人から、「当時、そのウルトラマンロボットを現場で見たことがある」という連絡が!
facebookで聞いてみると、まさかの当時の来場者から反応が!確かにいてもおかしくはない!
友人から聞いた思い出をまとめた。

・友人は、ウルトラマンが大好きな男三人兄弟の長男。
・三井グリーンランドは九州北部では「城島高原遊園地」「かしいかえん」と並ぶ存在で、CMもよく流れていた。自宅からは遠いけど、憧れの遊園地。
・当時、「巨大ウルトラマンがやってくる!」「グッズもいっぱい!」的な触れ込みの情報を入手(おそらく出元はCMと思われる)、家族5人で出掛けた。
・ソフビ(ソフトビニール)人形の彩色工場やグッズ売場が併設していて、その脇に巨大な舞台が。
・巨大ウルトラマンの第一印象は、「マジでけぇ」。
・動きはけっこうカクカクしてたけど、しなやかに見せようとしていたためクオリティは割りと高かった印象。
・それはそれですごく印象的だったのだが、それ以上に記憶に残ってるのは、同時開催で「アメリカから来日!」といった感じで展示されていた実寸のスーパーカーが変形(と言うかほぼ直立するだけ)するロボット。マシンロボでもトランスフォーマーでもない、後にも先にもここでしか見たことがないデザイン。で、こいつが超うるさい。変型後にジェットエンジン的な「キィィィィ…ン!!!」という音を出すんだけど、自衛隊の富士火力演習の戦車の砲音よりもエグい。耳を塞いでも辛くて辛くて「アメリカマジやべぇ」と思った。トラウマに近い耳をつんざく音だった。F1よりうるさい、というか出てきて変形して特に動かず、音鳴ってなんか煙が出て終わり、ただただ混沌としてたね。煙出ていたかすら怪しいレベルでとにかく「はよ終われ」と思ってた。
最終的に名も無き変形ロボのディスりに落ち着いたが、当時を知る人の証言は貴重だった。ここで、さらにさらに、なんとYou Tubeに当時の映像が残っていた!えー!?幻のバーゲンセールだよ!!?
動画の中盤では、中型のウルトラマンロボットが出てきますが、本番は2分55秒からズムムム…と黄色い煙の中から立ち上がってくるやつです。カク、カクカク!という動き、その肘と腰の曲がり具合は江頭2:50さんを思い浮かべますが、子どもが生で見たらその巨大っぷりに驚愕することは間違いありません。「マジでけぇ」も頷ける。それにしても、ホームビデオらしい映像を観ていると、自分も現場にいた気がしてくるから不思議だ。

つい数ヶ月前まで実在するかも分からなかった幻の存在が、タンクに穴が空いたように真相がとめどなくダブダブと出てきてもう笑っちゃう。もちろん、いろんな人様のお陰に違いないのだが…まさかこうして動く映像まで拝めるとは…インターネットってほんとすごい。いや、そんな昔の映像をアップしている人がすごいと言うべきか。わざわざホームビデオを編集してるよね、どなたか存じ上げませんが誠にありがとうございます。

記憶の旅はこれにて終わり、感慨深いものだった…。

大人の理屈で考えるより、子どもの記憶を信じたい。

ここで冒頭に書いたことを繰り返したい。幽霊を見たとか、人が壁をすり抜けたとか、そんな記憶がある人は、もしかしたらそのものではなかったかもしれないが、そう思えるだけのなにかを見たのだ。大人の理屈で考えて幻と断じてしまうと、きっと私は死ぬまで今回の真相は掴めなかったことだろう。子どもの記憶は大事にしたい。この取材で、私は、27年前の自分の肩を叩いて「間違いなんかじゃない!」と肯定してあげられた気がする。学研さんにはもちろんのことですが、ライターという立場を一旦忘れて、この機会を与えてくれたデイリーポータルには感謝したい。

最後に、余談だが、学研には過去の付録が保管された部屋があって鼻血が出るかと思った。今度取材させてもらえるということなので、これ俺が絶対やる絶対やりたい。
後に橋爪さんから聞いたところ、このとき私は「あ~変な声出る」と言ってたらしい。覚えてない。
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