特集 2016年10月19日

「路線図」という路線図アプリが最高なので作った人に話をきいた

路線図製作者視点の話をきいてみた
スマートフォンで鉄道の路線図を確認したいときに便利なのが「路線図」アプリだ。

なかでも特に「路線図」というそのまんまの名前のアプリが最高すぎるので、作った人に話をきいてきた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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路線図好きが唸る路線図アプリ「路線図」

スマホ用アプリ「路線図」は、日本や海外の路線図、特に日本は、北海道から沖縄まで、鉄道という鉄道はほぼ全て網羅して路線図に落とし込んである。
「路線図」
路線図として、簡略化されているにもかかわらず、簡略化の度が過ぎず、適度に地図の面影が残っている。
しかも、細かい所を見ていくと、鉄道好きを思わずうならせる工夫も随所にある。しかも無料。

この路線図アプリを作ったのは、いったいどんなひとなのか?

路線図をただながめていいねえっていうだけの会」でご登場いただいたライターの井上さんと共に、話をききにいった。

もちろん、鉄道好きだけどちょっと違う?

路線図アプリ「路線図」を制作している株式会社TOKYO STUDIOの横山さんと中尾さんにお話を伺った。
右から、代表の横山さん、中尾さん
(路線図好きライター・西村)すみません、いきなりで申し訳ないんですが、横山さん、中尾さん、おふたりとも鉄道マニアなんでしょうか?
(TOKYOSTUDIO代表・横山さん)僕はいちおう鉄道マニアですけど、ただ、自分はちょっと毛色が違うなって、思春期に気づきまして、路線図好きですね。
(路線図好きライター・井上)われわれも、もちろん鉄道好きなんですけど、まったく詳しくないんです。ただただ路線図がかっこいいと思うだけという。
中学生のとき、鉄道路線図を手描きで描いて鉄道マニアの友人に見せたらちょっと引かれたんです。
え、手描きの路線図いいじゃないですか。なんで引くんだ(憤慨)。鉄道の趣味として「路線図好き」というのはどうなんだろう「乗り鉄」の範囲に含まれるのかな……。
大学生時代にはパソコンで描いてPDFにしてネットで公開してたんです。1998年ぐらいのことかな? 今はもうありませんが。
まだ、ネットの黎明期ですね……。路線図自体はそのころから作ってた。中尾さんも鉄道が好きなんですか?
(TOKYO STUDIO中尾さん)いえ、私はもうまったくわからないんです。ですから、逆にお二人にいろいろとお伺いしたいと思って。弊社のアプリはどこでお知りになったんですか?
ツイッターで話題になってたので、それで見てこれすごいってなって。日本全国の路線図が統一されたデザインで、しかも無料で見られるのは他にないんじゃないかな……。

「路線図」のすごいところ

ツイッターでみかけて、すぐツィートしましたもん。飯能のスイッチバックもちゃんとしてる! って。
飯能のスイッチバック
ぼくは、一畑電車の一畑口がちゃんとスイッチバックになってて、ほーってなりました。この線路の形、省略されてる路線図もあるんですけど、ちゃんとしてるわーって。
一畑口のスイッチバック
それから、米子空港の横の境線も空港の横がゆがんでるんですけど、これもその通りで、芸が細かい。
滑走路をよけて走る境線もちゃんと歪んでる
ぼくが感心したのは、上野東京ラインのところの表示。
実際の並び順どおりになってる
ここは実際の並び順どおりに並んでるんですよね。新幹線が一番右側で……。
そうですね。
これね、すごいんですよ。同じ上野東京ラインでも日暮里駅に停まる線と止まらない線があって、その書き分けがすごく面倒くさくて、JRのオフィシャルの路線図はもう言葉で説明してしまってるんです。
オフィシャル路線図は言葉で説明してしまっている
路線図はやはり見た目でわかるように描くのが本来なんですが、オフィシャルの方はデザインの変更が間に合わなかったんでしょうね。でも、この「路線図」は駅の上を通過するように描いて「停車しない」を表現してる。
通過するのがわかる
いやー、そこまで言っていただけるとうれしいですね……。
丸ノ内線の中野坂上駅のところもほーって思ったんです。
方南町に行く路線が中野坂上駅始発っぽく描いてある
方南町に行く支線が本線から枝分かれするんじゃなくて、中野坂上駅から出てる。これは「方南町支線に乗るには中野坂上駅で乗換えしないと行けないよ」ってのがなんとなくわかるんです。これはわざとそうしてるんですよね?
そうですね、中野富士見町行きの直通電車も実際はあるんですけど、本数はそんなに多くないですから。
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下調べがものすごく時間かかる

これって全てひとりで作られてるんですか?
そうですね、全て一人で、作ってます。
どれぐらいの時間をかけて作るんでしょう?
日本の路線図は2年ぐらいかかってますね。
うわー、2年かかってるのかー。
日本の路線図はまだいいんです。日本の鉄道会社はまじめですから、ウェブサイトに行けば、路線図から運賃から情報がたくさんあるんです。問題は海外の路線図ですね。情報があったりなかったりで。
それにしても、各鉄道会社で路線図や運賃の情報の出し方ってバラバラじゃないですか。そこをひとつづつ見ていって、解釈して、ひとつのフォーマットに落とし込む作業ってめちゃめちゃ大変じゃないですか?
大変でした……。
駅をタップすると地図にリンクがでますけれどもその辺も?
そうですね、駅の位置データをかませてリンクできるようにしています。これも、駅をGooglemapで調べて、ひとつづつ座標をコピペしてデータベースにまとめてるんです。
気が遠くなる……。
そのへんは地味にアナログな作業なんです。
デジタルですけれど、作業自体はアナログっぽいですね。デザインに入れば早いんですが、それまでの下調べがものすごく時間かかるんですよ。

海外の「路線図」もすごい

海外の路線図も、なによりもまず、見慣れた日本の鉄道路線図のフォーマットで見られるのがうれしいんですよ。
駅が◯で表現されてるタイプですね。
見慣れてるから見やすい
ロンドン地下鉄の描きかただと、駅が線路の線と一体化しちゃってて見にくいことがあるんですよ。
今日は、一覧できるように大きめ紙にプリントアウトしてきたんですが。
これはすごい
うぉー、これはっ! やっぱり、一枚でみるとすごいですね。
一覧できるとやっぱりいいですねえー。台湾とか、改めて見ると真ん中がスカスカですね。
台湾は真ん中が山間部で東西貫通するような鉄道がないんですけど、でも、このへんすごくないですか。
ぐるぐるしてる。ループもほどがすぎるぞ!
ぐるぐるしてますねー、これすごいなー。
登山鉄道なんですね。スイッチバックとループ線で登ってる。
香港のこの黄色い路面電車、これも気になってきました。
香港軽鉄
香港島にある2階建ての路面電車は有名ですけれど、新界の方にもこんな細かい路面電車網があったんですね……。
路線図をながめてると「ここどうなってんだろう?」って気になる場所がボロボロ出てきますね。
海外版の路線図はまだ他にも出る予定はあるんですか?
海外は、現在ヨーロッパ、イギリスの路線図を製作中です。
本場ですから。
海外だと日本の鉄道としくみが違うから大変そうですよね。
イギリスは日本みたいな路線名を付けないんですよ。同じ線路の上を走ってても、違う会社の列車が走ってるんです。
上下分離方式ってやつですかね。
そうですね、線路の管理を行う「ナショナル・レール」ってのがあって、で「オペレーター」ってのが十何社かあって、そのオペレーターが、ナショナル・レールの線路に、自社の列車を走らす形になってるんです。ですから、高速鉄道、ローカル線で運行してる会社が違う。だからそのオペレーターごとに色分けしていくことになると思うんですけど。
線路から車両から全部自前で持たなきゃいけない日本の鉄道会社は大変なんですよね。だから台風で線路が壊れたらもうそこで鉄道が廃止になってしまう。
路線図づくりは、まず勉強からなんですよね。駅の読み方からわからないですから。
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おいもに見える

私は、鉄道のことはあまりよくわからないんですが、時刻表の最初の方に載っている路線図ありますよね。あれ、おいもみたいにみえるなーって思ってて……。
おいも!
それ前も聞いたんだけど、おいもにみえるかなあ。黄色いからかなあ。
横に歪んでるからですかね、西村さんメチャメチャ笑ってるじゃないですか。
おいもって!
おいも!
路線図は形が歪んでますが、ユーザーさんは、路線図の正確性はどういう部分を求めてるのかが知りたくて……。
正確な地図の上に正確な線路の形をそのまま引くと逆に見づらくてイメージしにくいんです、でも、横山さんの路線図は、そこを縦横斜め直線で見やすくしつつも、実際の地理に近づけてるのがすごい、と思うんですよ。
ちょっと前までは、もうすこし簡略化されてたんですよ。JRも緑一色で、ラインカラーとか全然意識して無くて、そうすると外国の人からツッコまれたりするんですよね、実際の案内と違うと。
たしかに実際にJRは現地で見ると黄色だったり青だったり色ついてますからね。
その頃はもうちょっと余裕があって、山手線も正円だったんです。線路の形とかもあんまり考慮してなくて、まっすぐにできるところはまっすぐにしてた。でも、三田線なんかは実際の線路の形に近づけたんです。
実際の形に近づいた三田線
関東なんかは、どうしても北関東や房総半島あたりの形がかなり歪んでしまうんですが、中心部はなるべく歪まないように作ってます。
真ん中ほど実際の形に正確
まあ、実際に真っすぐな場所はできることなら曲げたくないですし、中央線とか。
実際とはかなり違っちゃってるなあという場所はありますか。
皇居をもっと広くとりたかったなーとは思いますね。
メトロの路線図なんかは皇居があって、川がないんですが、これは川がありますよね。川との闘いがあったんじゃないですか?
川もどこまで載せて、どこから省略するかの判断も難しいです。専門じゃないんで。川には遠慮してもらってますね、鉄道路線図なんで。
皇居はないけれど、隅田川はかいてある
あとは、島ですね。特に広島は路面電車を入れるために江田島と宮島が離れてしまったんです。そこが心残りですね。
宮島と江田島(能美島)は本当はもっと近い
いやでも、島の描写がすごく細かいですよ、長崎とか。島の名前も主要なのはちゃんとかいてありますし。
鉄道路線図に必要か? と思うぐらい島がかきこまれている
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「鉄道」とはなにか?

よくみると、リフト? やロープウェイもかいてありますね。こういうのも一応、法的には鉄道に含める場合もあるんですよね?
友達に乗り鉄マニアがいて、いちおう日本の鉄道全部乗ったってことになってるんですけど、彼の解釈ではリフトとケーブルカーは乗ってないっていうんです。あれは鉄道に含めるという説もあるらしいけど、自分的には含めたくないって。
スキー場に全部乗りに行かなきゃいけなくなっちゃうから。
これ、大室山のリフトかな……。
ギザギザの線がいわゆる「索道」になる
熱海城のロープウェイですね……。
細かい……。空港もちゃんとかいてあるし、かなりしっかりしてますよね。
六甲山はケーブルカーやらロープウェイが多いですね。
イガイガ線だらけ
多いです。ただここは制作上の都合でロープウェイが新幹線の下を通ってるように描いてありますが、実際は逆で新幹線の方が下ですね。
新幹線が3回もロープウェイの下をくぐってると思うとおもしろいですねー。
実際と違うというのはいくつかあって、例えば、香川県の宇多津と坂出のこの部分。
本当はデルタ線になっている
瀬戸大橋と宇多津と坂出のところ本当はデルタ線(線路が三角形につながってるところ)なんですけど、そう表現してない。
これは児島方面と坂出方面の短絡線は宇多津駅の構内扱いなんです。だから、時刻表でも宇多津駅は「‖(通らない)」じゃなく「レ(通過)」になってる。で、表現上の制約がいろいろあって、最終的に表現を省略しました。
例外をどうあつかうかはなやみますよね……。
この部分は製作中に結論に至るまで数日間ひとり会議をして悩んだんです。苦渋の決断でしたね。

廃止路線はデータとしてはいちおう残してある

あ、三江線だ。これ廃止になっちゃうんですよね。
青い部分が三江線。2018年廃止予定
そうなんです、残念ですよね。
これ、廃止されたらもちろん路線図からも消えるんですね。
そうですね、配信しているアプリからは消えますね。ただ、データ自体は残してありますけど。
「東京時層地図」(幕末から平成初期ぐらいまでの古地図を見比べることができるアプリ)みたいに、昔の路線図をさかのぼって見比べることができるとうれしいですね。
例えば、昭和40年ぐらいの北海道の路線図と、今の路線図をスライダーで移動させながら見比べたいです。最新バージョンは無料、さかのぼり機能1000円ぐらいであればためらわず買いますね。
完全にマニア向けですね……いやしかし、感慨深いものはありますよね、北海道あれだけ鉄道が走ってたのがいまやね。
路線図は生き物ですからねえ……。

話が尽きない

路線図好きが、路線図アプリのいいところをただ「いいですねえー」というだけの流れになってしまった。

ふたりでもって、若旦那をもちあげる太鼓持ちのようなことになってしまったが、路線図がすきなのだからしかたがない。

路線図を確認するだけのアプリだが、作るのに2年かかっている。2年かかっているだけあって、そのぶん見ごたえもじゅうぶんあるのだ。

「ふだん、事務所で黙々と作業している横山が、饒舌に喋る姿をはじめてみました」と、中尾さんがおっしゃっていた。

横山さんが喜んでいただければ、太鼓持ちとして本望である。太鼓持ちじゃないけれど。
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