とくべつ企画:「上京して驚いたこと」を確かめる 2016年7月21日

大分ではプールにかまぼこ板持って行くって本当か?

プールにかまぼこ板持って行く県
大分県の小学校では、プールはいるとき、名前を書いたかまぼこ板を持参しなければならない。という情報が寄せられた。

名前を書いたかまぼこ板? いったいなんのために?

※この記事はとくべつ企画、「『上京して驚いたこと』を確かめる」のなかの1本です。
読者の方からいただいた、上京して驚いたことの投稿をライターが現地へ行ってたしかめます。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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大分ではプールにかまぼこ板は必須?

プールにかまぼこ板。いったいなんのことかよくわからない。
どうやら、大分では、プールに行くとき、かまぼこ板に名前を書いた板を持っていかなければいけないらしいのだ。
大分では小学生のときプールに「名前を書いたかまぼこ板」を持って行かなければならなかった(現在もかは謎)。
血はみどり牛乳 さん
出身地大分で、結婚後、福岡に出ました。
子供の学校のプールが始まる頃に「かまぼこ板用意しよう」となんとなく思っていたのですが、小学校からそんな指令はきませんでした。
大分では学校プールに「かまぼこ板の名札」は必要だったのですが。
福岡は都会? さん
プールにかまぼこ板を持っていく。という投稿は2件あり、そのどちらもが大分県のことであった。

そんな風習、きいたことないし、みたこともないが、大分県から投稿が2件もくるということは、よほど大分ではふつうのことなのだろう。

「プールに持参するかまぼこ板」が、いったいどんなものかひとめみてみたい。

きっと、大分の小学校のプールサイドには、かまぼこ板が夏の日差しを受けてずらりと並んでいるはずだ。青い空。入道雲。鋭いホイッスルの音。はじける水しぶき。子供の歓声。夏である。

ポカリスエットのCMみたいなベタなポエムをつづっているばあいではない。

というわけで、ぼくは大分にむかった。

市役所に行って聞いてみた

大分駅でかい
プールのかまぼこ板を探すにあたり、まずは市役所に話を聞いてみることにした。

市役所の担当の課であれば、プールのかまぼこ板の件も把握しており、使っている小学校を教えてもらうこともできるのではないか。
土砂降りでした
担当の課をおしえてもらい、取材のお願いをすると取材はOKだったものの、写真はNGであったので、市役所にあったのびやかな銅像とともに一部始終をおおくりしたい。

体育の時間は使わなかった

――大分では、プールのときに、名前を書いたかまぼこ板を持参するときいたのですが、それはほんとうでしょうか?

「はい、ほんとうです。私もとなり町の別府出身ですが、使ってました。しかし、プールといいましても、体育の授業では使わないんです」
のびやかな彫刻その1「夏の日」木内岬(きのうちてる)
――え? いつ使うんですか?

「夏休み中に学校のプール開放日ってありますよね? そのときに各地域の子供会ごとに当番の父兄が子供を引率してプールに連れて行くんですが、そのときに使うんです」
夏の日
――その板は、どういうふうにつかうんでしょう?

「プールに入るときに、プールサイドに名札をおいておくんですね、で、プールからあがるときに各自じぶんの名札を持って帰る……名札が残っていると、プールからあがってないということがわかるので、人数の確認と事故防止のための目印代わりですね」
のびやかな彫刻その2「花の影」朝倉文夫
――なるほど

「父兄は、いくら地域の子供たちだといっても、なん人もいる子供のなまえを完全に把握しているわけじゃないですし、子供の管理は学校の先生みたいにプロではないですから、もし見落として事故にでもなったらたいへんなので、こういうやり方をしていたんですね」
のびやか~
――ということは、今の時期(7月中旬の夏休み前)だと実際に使ってるところは見られない?

「そうですね。さらにいうと、夏休みのプール開放日じたいも少なくなってきていて、最近は使わないケースの方が多いです」
ふぉー
――え? あ……え? 実際にはもう使ってるところはほぼない?

「でしょうね」

――これから、実物をみたいなー、なんて思ってたんですが……。

「最近は、ほとんど使ってないでしょうね」
まじかー

ムダ足……?

プールのかまぼこ板。見られないらしい。せっかく大分までやってきたのに。困った。おおいに困ったが、ひとまず、市役所のひとに、プールのかまぼこ板はどんなものだったのかをきき、自作してみた。
かまぼこ板に住所や連絡先と名前などを書いただけのものらしい
大分駅内のスーパーの練り物コーナー。ちょっとかまぼこ多くない?
こんなものだろうか、電話番号が書いてあることもあるらしい
サクッとできた。おおむねこんなものであろう。

本来なら、こういった名札が、プールサイドにずらっと並んでいたはずなのだが、残念ながら、タイミングがわるかった。

しかし、このプールのかまぼこ板。なぜ、大分でこんな風習が発生したのか? その由来は何なのか? 気になるところである。

そこで、大分県立図書館のレファレンスサービスを利用し、プールでつかうかまぼこ板に関する情報はなにかないか、調べてもらった。
大分県立図書館にやってきた
しかし、大分県立図書館には、プールに持って行くかまぼこ板の公的な記録はまったくないという。

ゆいいつあったのが、2015年に出版された『大分あるある』(TOブックス)という書物の中に「夏休みのプール通いは、かまぼこ板で作られた名札を持参」という項目がある。というのみだった。

公的な記録がない。というのは、いかにも子供会の父兄が考えだしたシステムであり、あくまでも学校の授業では使わなかったということをうかがわせる。が、かまぼこ板の謎は深まるばかりである。

ネットでアンケートをとってみた

しかし、このプールのかまぼこ板のシステム。本当に大分だけなのかという疑念がふつふつとわいてきた。

なぜなら、ネットで検索すると、大分以外の県で使われていたという情報もポツポツでてくるのだ。

そこで、インターネットでアンケートをとってみることにした。
インターネットに頼る
まず、プールの時に「名前や住所を書いた板」を持参したことがあるかどうか? ある人、ない人、それぞれどこの地域だったのか? その板の名称。 使用したのはどんなときか。板の素材。などを聞いたところ、約700件ちかい回答が寄せられた。

ひとまず、次のページでは結果をひとつずつみていきたい。
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「プールでのかまぼこ板」経験があるのは14.7%

まずは、プールでかまぼこ板をつかったことがある人の数をまとめてみた。
使ったことある人は、2割もない
ちなみに、ぼくの質問がわるかったのか、どうやら「つかったことがある」と答えたひとのなかには、完全にビート板と勘違いしている方が何人がいたのだが、そういう方は「つかったことがない」の方にふりわけさせていただいた。

おもに瀬戸内地域で使われている?

さて、きになる「プールの時にかまぼこ板」が使われている地域だが、きた回答をすべて地図にマッピングしてみた。
ざっと見た感じ、西日本、特に瀬戸内海に面した地域と九州という広い範囲で使われていることがわかる。

寄せられた回答を県別にまとめるとこうなる。
なぜか岡山がダントツに多い
これはあくまで、たまたまアンケートを見て回答した人のデータだが、だいたいの分布はつかめるのではないかと思う。

岡山がやたら多いのだが、「つかったことない」というひともそこそこ存在しており、意見が割れる。

愛媛、大分はともに10前後のひとが「つかったことがある」と答えており、さらに「つかったことがない」のひとがいない。

これはつまり、愛媛、大分のひとたちは、意見が割れることなく、心がひとつであり「あるある度」が高いのだ。
プールにかまぼこ板を持参したことが「ある」ひとの数
プールにかまぼこ板を持参したことが「ない」ひとの数
以上のことから「プールのときに持参するかまぼこ板」のはなしは、愛媛や大分のひとにすると、確実に共感してくれる。ということがわかった。

いつ、つかったのか?

それでは、このかまぼこ板。いつ、つかったのか? 学校の授業のプールのとき、夏休みのプール開放のとき、その他という選択肢で答えてもらったところ、やはりプール開放のときにつかったという意見がひじょうにおおかった。
プール開放のときの必須アイテムだったようだ
「ある」と答えた105件のうち、プールの授業のみでつかったというのはたった7件。
プールの授業 素材「発泡スチロール?」
大阪府吹田市の回答は、素材が「発泡スチロール」で、名称が「かまぼこ」なので、もしかしたらビート板と勘違いしているひとかもしれない。ただ、確証がもてないので、「ない」の方にはふりわけていない。

いずれにせよ「プールのときに持参するかまぼこ板」は、授業のプールではあまり使われなかったようだ。

名称は「命札」が多い

さて、このかまぼこ板。それぞれの地域でなんとよんでいたのか?
命札が若干おおい
「命札」がじゃっかん多い。

ただ、「命札」と「名札」を地図上に落とし込んでみると、「命札」は愛媛、広島、岡山といった中国・四国地方に多く、「名札」を使うのはほぼ九州に限られるということがわかる。
(黄色のマーカーが「命札」、緑色のマーカーが「名札」)
また、素材に関しては、圧倒的に「かまぼこ板」がおおかった。
22.4%のその他はなんなのか?
かまぼこ板以外の素材はなんなのか?
プラスチックの札がおおい
病院とかでよく貰うあのプラスチックの小判型のやつが多い。
ただ、このプラスチックの札を使うのは、東北地方など、ちょっとめずらしい場所での使用がおおいようだ。

いつごろから使われているのか?

さて、この「命札、名札システム」いったいいつごろからつかわれはじめているのだろうか?

「ある」と答えた人を年代別に並び替えてみると、アンケートに答えてくれた最高齢の50~59歳の人が岡山県に集中している。
50代の回答者、4人中3人が岡山県民だ。

これだけで、命札が岡山発祥かどうかは断定できないものの、40年以上まえにはすでにこのシステムが導入されていたことはたしかだ。

ルーツはなんなのか?

そんなわけで、集まったデータをいろいろと眺めてわかったことを並べてみる。

・「名前などを書いてプールに持参するかまぼこ板」は、瀬戸内海に面する県と九州などでおおく行われる風習。特に多いのは岡山、広島、愛媛、大分、佐賀、熊本。
・プールの授業ではなく、夏休みのプール開放日に使う。
・呼び方は九州地方だと「名札」がおおく、中国・四国地方だと「命札」などと呼ばれる。
・少なくとも岡山では40年以上前から使われていた可能性がある。

ということがわかった。

命札、名札システムのおおい県と、かまぼこの消費量がおおい県に相関関係があるかと思い「全国かまぼこ連合会」の、県庁所在地別かまぼこ消費量ランキングを調べてみた。
それによると、平成18年~20年平均で、1位が仙台、2位が長崎、3位富山、4位松江、5位松山、以下、山口、高知、福島、北九州と続く。
5位の松山がかろうじて関係ありそうかな? と思うものの、あまり関係はなさそうである。

また「海女の風習のなごりでは?」という意見もあったため、大分県立図書館で海女に関する書物をいろいろとひもといてみたものの、命札、名札のような道具は、つかっていないようであった。

なぜ、西日本だけで広がったのか

「命札、名札」のシステムは、大分だけの特殊な風習でないことはわかった。

ただ、なぜ瀬戸内海地域と九州地域だけでこのしくみがつかわれるようになったのかは、よくわからなかった。

誰がはじめて、何がきっかけで広がったのか? おそらく、地域の子供会のしくみとプールの設置率がカギかもしれない。

引き続き調査は続けたい。
ついでにきいた好きな魚肉練り製品。どれも実力伯仲で甲乙つけがたい
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