特集 2016年7月11日

3Dプリンタと地図データから街がよみがえる

空撮映像ではありません。地図のデータと3Dプリンタにより作られた旧国立競技場付近の模型です。
最近色々と話題の3Dプリンタ。立体を作る事の出来るこの機械は、3Dデータがあれば人でも物でも様々な形状を立体モデルとして出力出来ます。

今回は、街の3Dデータを持つ地図の会社と、3Dプリントを行う会社が手を組んだら街の精密模型が出来たという話。

失われた街の風景も、3Dデータが残っていたら3Dプリンタで精密模型として再現出来てしまう。そんな時代になりました。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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地図の会社と3Dプリントの会社のコラボ

今回訪問した会社がこちら。
株式会社アイジェット。2009年から3Dプリントを手掛ける会社です。
東京都港区。日の出桟橋から近いオフィスビルに入る株式会社アイジェットです。3Dプリントや3Dデータ作成などの事業を行うこちらの会社で製作されているのが、地図データからリアルに再現された3Dジオラマ「3D Print Maps」。
リアル3Dジオラマはオンラインショップで誰でも購入出来ます。
そして、その地図のデータを提供しているのが、国内最大手の地図情報会社、株式会社ゼンリンです。ゼンリンの持つカーナビ用の街の3Dデータや、住宅地図の情報などから、3Dプリンタを使って出来たものがこちら。
額に入れられて飾られた街の模型。近づいてみるとこんな感じに。
大小のビルはもちろん、小さな民家、樹木まで細かく街の様子が再現されています。
ビルの屋上や側面の模様、色合いなどもかなりリアル。
坂や段差など地形の微妙な高低差も表現されていて、実際に空から眺めているかのような感覚になります。
左がアイジェットの西村さん。右がゼンリンの遠山さん。3Dプリント会社と地図の会社のコラボ企画。
3D Print Mapsについての詳しい話を株式会社アイジェット制作部の西村さんと株式会社ゼンリンの営業の遠山さんに聞きました。

そもそもこの3D Print Maps製作の話は遠山さんからアイジェットへもちかけられたもの。カーナビの持つ3Dの地図のデータを3Dプリンタで出力出来ないかという取り組みから始まりました。
アイジェットではフィギュアや立体模型など様々な物を製作しています。こんな物が事前に作ってありました。ありがとうございます。
西村さんは、面白い企画だと早速制作にとりかかったそうです。しかし、3Dのデータといってもカーナビの地図のデータと、3Dプリンタで加工に使うデータは全く別物。そのままでは使えず、様々な修正、加工が必要でした。
西新宿の高層ビルに座り下界を眺めるZ君。ちなみに、模型の色は3Dプリンタから出力された段階でついています。その辺は後程。
ランドマークとなるような建物は大きさや高さ、側面の色や形状などのデータはあるものの、カーナビの画面上ではCG処理され詳細な3Dのデータがありません。

その為、目立つ大きな建物は、細かい情報を追加、加工して色や形をよりリアルにデータ化しなくてはなりません。
こういう地形模型では高さ方向の尺度が大きくされて分かりやすくなっている物が多いそうです。3D Print Mapsはそのままの尺度で作られている。
逆に、信号機などの小さい物構造物のデータまでリアルに再現してしまうと、細かい粒のような物が並んでしまい変になります。そういった物はデータから1つ1つ削除していきます。
この帽子も3Dプリンタで作ったもの。3Dプリンタの性能は飛躍的に上がっています。
また、カーナビの3Dのデータは交通量の多い幹線道路、交差点などしかなく、細かい住宅地のデータはありません。その部分にはゼンリンの持つ住宅地図のデータを使います。

住宅地図では、建物の大きさや形、何階建てか、どんな用途の建物かといった情報も持っています。これらを元に建物のデータを1軒ずつ加えて行きます。
3Dスキャンして立体魚拓を作るなんて事も出来る。
こうしたデータの様々な修正加工が行われ、ようやく3Dプリンタで出力できる3Dデータになります。かなり大変な作業です。

しかし、ゼロからデータを作れば1年以上かかるところを、1ヶ月ほどで形になる物が完成。試行錯誤の末、今は採算に見合うレベルでデータの修正が出来るようになったそうです。

こんなランプシェードも3Dプリンタで作れる。凄いね。
西村さんは「3Dプリントは量産向きじゃないが色の表現などが精巧に出来ます。データさえリアルに作ればサイズが大きくても小さくても問題無い。」と言います。
アイジェットが開発した人のリアルなフィギュアを作る為の3Dスキャナ。台の上に乗ると自動的に回りスキャンする。
3D Print Mapsでは1辺が10cm、15cm、20cm、30cmの物が用意されていて、データ自体は同じ。値段の違いは材料費による部分が大きいそうです。

10cm角の物で1万円前後。30㎝角だと17~18万。値段だけみるとちょっと高いと思いますが、これだけの精巧な模型を実際に作るとなるとこんな値段では到底無理な話。3Dプリンタだからこその精度と価格と言えます。
スキャンしたデータでこんなフィギュアが最短2日で出来上がる。飼っているペットの物とか欲しい人がいそうだ。
続いて出来上がったデータから実際に3Dジオラマが出来上がる様子などについて聞いてみました。粉の中から街が現れました。
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0.1mmずつ粉を重ねていく

西村さんの話によれば、3D Print Mapsで使われている3Dプリンタは石膏粉末造形タイプの物。
よく見ると建物の側面に重ねられた層の跡が見える。
0.1mm程の薄さで均一に敷き詰めた石膏の粉末に、インクジェットプリンタの要領でカラーの液を吹きかけ1層ずつ地図を描いていきます。

液が吹き付けられた部分だけ固まり、それを何層も重ねていけば模型ができあがります。動画で見るとこんな感じです。
この方式だとフルカラーでの3Dプリントが可能であるため、出来上がった物は既に細かく彩色されています。石膏が固まったものなので、触ると思ったよりもゴツゴツと固い。
西新宿エリアの物にニフティの入る新宿フロントタワーがあるかと思ったら、端だったので削られていた。残念。
全てのプリントが終わると余計な石膏粉末を吸引して除去。取り出した物についた細かい粉を取り除いて洗浄すれば完成です。
プリントには大きさにもよりますが、10時間ほどかかるそうです。出来上がった物を考えれば、妥当な時間かもしれません。いや、むしろ早いぐらいかもしれない。
見ていて飽きない。これ見ながら酒飲めるな。
住んでいる家の周囲とか、昔通っていた学校周辺の物など有れば欲しいと真剣に思いました。しかし、現状そうもいかないようです。

現状、全ての地域の3Dデータが有るわけではない

3Dの地図データが有るのは今のところ東京23区や大阪など政令指定都市周辺、主要な交差点、城などの名所、旧跡などに限られるそうです。3D Print Mapsも東京タワーや新宿都庁、神宮球場周辺。広島原爆ドーム周辺、熊本城周辺などしかありません。

この場所が欲しいと思っても、データ作りから始まるので、アッという間に作れるという訳にはいかないのです。
熊本城周辺の物に関しては、売上で得られる利益の全額が熊本地震の義援金、支援金として寄付されています。失われた街も3Dプリンタでよみがえります。

しかし、株式会社アイジェットと株式会社ゼンリンでは、現在「ONEHUNDRED TOKYO」というプロジェクトを進めているそうです。

今は地域を限定して制作販売しているものを、東京23区の広域で100区分に分割して制作。100区画を全て揃えれば東京23区広域の3Dジオラマが完成するという、恐らく地図マニアにはたまらない商品。実際、8月ごろからクラウドファンディングを利用して予約販売していくとのこと。
東京のこのエリアを10㎝角で100分割。1区画約1万円。100万円で1m角の大きな3Dジオラマが出来ます。
理論上3Dのデータさえ揃えば、ネットで地図の中心を指定して何km周辺のジオラマ模型を注文。1週間ほどしたらそれが手元に届くといった事もそれほど遠くない未来には可能になるかもしれません。

それ欲しいです。23区広域だけでなく、日本全国の物が出来る日を期待します。

失われた景色が3Dプリンタでよみがえるかもしれない

少し前まで3Dプリンタで出力された物は白くてバリがある、割と単純な形状の組み合わせといったイメージがありました。素材も限られていましたが、今では金属も扱えるようになりつつあるようです。

3Dデータがあれば何度でも作ることが出来るので、今回の3Dジオラマならば古いデータが蓄積されていけば、あの頃のあの街を精密に模型で簡単に再現できるようになるかもしれません。

そのうち模型はなく現物が再現できるようになるかもしれない。凄い未来だ。
新宿中央公園に座るZ君。ウルトラマンとか巨大ヒーローが街中で休憩するとこうなるのだろう。
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