レジのおばちゃんも興奮
パウチパック酒にときめいたのは私だけではない。
レジ担当の女性がパックを手に取るなり「えっ!?」と声をあげたのだ。以下は会計時の会話である。
レジ係「こんなの売ってるんですね~! お店にいるのに気がつかなかったわ! これ…ゼリーではないんですよね? すごいわね~」
私「ですよねぇ! おもしろいなーと思って」
レジ係「飲んだあと、ゴミが少なくて便利よね!」
私「そうそう、外で飲むのにもいいですよね~」
まさかレジのおばちゃんとこんなに会話が弾むとは思わなかった。
そう、パウチパックは外で飲むのに超便利。
日本酒はこれまでにもコップ酒に始まり、ストローパック等、いかにも「外で飲め!」と言わんばかりの容器で売られていたが、今回のパウチパックが過去最高に便利だと思う。
とにかく軽いし、飲みかけにフタも出来る。なにより場所をとらないのが素晴らしいじゃないか。
これ楽しい! 絶対日本酒だってバレてない!
カバンをパッと覗いても、まさか日本酒が入っているとは思うまい。
さらに、飲み干した後の処理も感動ものだ。なんたってこの薄さである。
4パックを潰したところ。この薄さ、すごいとしか言いようがない。
このパウチパック、容量が180mlなのでちょうど一合分なのだが、4パック(つまり四合分)飲んでもこのゴミの量なのだ。
もう資源ゴミの日に酒瓶をガチャガチャいわせながら捨てに行かなくてもいいなんて…。本当にありがたいことである。
あれこれ入れてみよう
この空になったパック、捨ててしまうにはあまりに惜しい。これで他の酒を飲んだらきっと楽しいはずだ、いや楽しいに違いない。
そんな思いから、空き容器に他の酒を入れてみることにした。
最初は、ちょっとどうかと思ったがビールで試してみたい。ふだん最もよく飲むお酒が果たしてどんなことになるのか、いささか興味がある。
●ビール
「ビールは喉ごし」とよく言うが、もしかしたら違う地平が広がる可能性もなくはない。
炭酸という弱点はあるが、果たしてどんなことになるのだろう。
分かり易いようにパッケージの前面に「ビ」と書いた紙を貼った。筆文字の「松竹梅」が隠れたせいか、若干「和」の雰囲気が消え、そして怪しさが増した。
そして飲む。…というか、吸う。
ああ…、なるほどね。
ゴクゴク飲めないことで、ビールの味が如実によく分かる。炭酸もなんだか微妙なことになっている。
まずい。これは明確にまずい。
それよりも問題は、ビールだというのに上を向いて飲めないことにあった。顎をあげて流し込めないビールにはなんの価値もない。こんなもの、ただの麦汁だ。
まあいい。しょせんこんなことだろうとは思ってたんだ。ビールのことは忘れて次にいこう、次。
●ワイン
これは合うだろう。合ってしまうだろう。
ポケットにチーズをしのばせて、パウチパックのワインと共に公園を散策…なんてこともきっと出来るに違いないぞ。
今度はちゃんと「ワイン」と書いて貼りました。
安心、である。ワインの会社はこれを売り出した方がいい。
なんの目新しさも意外性もないが、ビールの直後だったこともあり、ことさらおいしく感じる。いいぞ。いいけど面白くはないぞ。
●サングリア
これも鉄板中の鉄板だ。どう考えたっておいしくならないわけがない。
残ったワインに果物を投入。あとはシナモンとクローブと砂糖を適当に入れよう。
ここで思い出したいのがパウチパックの存在だ。
レジのおぱちゃんが「ゼリーじゃないのね?」と言ってたように、どうしてもドロリとしたものを連想してしまう、このパウチ容器。
ならば、ここらで本当にとろみを付けてやろうじゃないか。パウチの本領を思う存分発揮させてやろうぞ。
そう、「パウチのポテンシャルを最大限に引き出す」ってやつだ。
(もうすこし字をなんとかできなかったんだろうか…)
冷蔵庫で冷やし、さっそくチュルッといってみる。
味は保証されているだけに、どんな飲み口になるのか非常に楽しみだ。
これはいい。これはワインよりもいい。考えてみればパウチは酒よりゼリーとの付き合いの方が長いのだ。
「トロッとしたものなら私に任せてください」といわんばかりの安定感。さすがベテランの仕事はひと味ちがう。長い交際歴に基づいた信頼関係はだてじゃない。
パウチに「わたしらの本領が発揮できるのはやっぱりゼリーっすから」と言われた気がしたほどのマッチ具合に、ただただ唸った。すばらしい。
●ウォッカ
ここらで度数の強い酒もいってみよう。
ウォッカは凍らない。冷凍庫に入れてもトロッとするだけで、すぐサラサラに戻ってしまう。
ならばサングリアの時と同じように、ゼラチンを溶かし込んでみたらどうだろう。これなら飲む量が調整できるし、ちびちび飲むのがちょうどいいウォッカには最適なのではないか。
というわけで小瓶を買ってきました。
しかしゼラチンを溶かすためにはウォッカを温める必要がある。ホットウォッカか…。どこぞの風邪の民間療法にありそうな飲み物だよな。
…と、鍋にウォッカを入れて火をつけた。むせかえるような匂いだな、と思うまもなく大炎上。
完成。きつい酒を飲む前の心情がモロに顔に出た。
どうなんだろう。ゼラチンでウォッカのキツさをコーティングしたことで、少しは飲みやすくなっているんだろうか。
出た。「これぞ飲むゼリー」と言いたくなる完璧なとろみ具合。
液体のときよりもかなり飲みやすい。勝手にツツーっと滑り落ちていかない分、喉元にカーッとくるような感覚もない。まさに食べるウォッカである。
これはいい。ロシアあたりで商品化していてもおかしくないほど違和感がない。
しかし、ウォッカであることに変わりはなかった。これ、調子にのってチューチューしてたらあっというまにベロベロになる気がする。
「飲み易さは危険と隣合わせだぞ!」と思わず姿勢を正さずにはいられないほどの好相性であった。
●ウイスキー
常温のウォッカをストレートで飲むことはあまりないが、ウイスキーならよくある。
連続ドラマで話題になった方のものを買ってきた。
もう何も手は出すまい。いいウイスキーは加工などせず、そのままパウチパックに入れてしまおう。
薫りを楽しむことには不向きだが、ちびちびと舐めるように飲むことにかけては、これ以上うってつけの容れ物はないだろう。しかも携帯しやすいときた。
そういえばこのパウチパック、携帯ウイスキー容器のスキットルにそっくりじゃないか!
ほら、西部劇やなんかによく出てきますでしょ、こういうやつ。尻のポケットから出して飲むアレ。
これは成功の予感しかしない。
ついては、これまでのヘタクソな書き文字ラベルはやめておこう。もっとこう、重厚感のあるラベルにしてウイスキーを迎え撃ちたいが、さりとて自作できる自信はない。どうしたものか。
そこで、ボトルに貼られたラベルを加工して流用できないかと剥がしてみることに。
ありがたいことに、このラベルが非常に綺麗にむけてくれた。
さて、どういう具合に貼ろうかな…とパウチパックと並べてみたところ、なんとそれぞれのサイズがほぼ同じなことが判明。
大きさどころか「黒×金」の色合いもどこか似ている。
すごい。偶然とはいえ、ここまでピッタリだとラベルを切り抜くなどとても出来ない。
これはこのまま貼るしかないだろう。
か、かっこいい…。
なんだ、このやけに格調の高いパウチパックは。店頭に並んでいても、なんら不思議ではないぞ。
しかもこのウイスキーの小瓶、パウチと同じ180mlときた。容量もぴったり一緒! というわけで、瓶の中身全部入りました。どーん!
あまりに素晴らしすぎて「うわー、うわー」と声がでまくった。
どうだろう。これはウイスキーの神様からの「そうだね、パウチに合うね、ピッタリだね」というメッセージではないのか。
もう私にはそうとしか思えない。
つい印籠のように見せびらかしたくなるパッケージ。
西部劇なら、たき火でも見ながらしみじみ飲むところだが、悲しいかなここは自宅のベランダである。しかも真っ昼間ときた。
できることといえば、遠くの景色を眺めながら「西部か…ここからなら八王子とか奥多摩あたりかな」とぼんやり思うことくらいだ。
チュウ…
…カーッ! たまらん!
本当にたまらん。というかうまい。すごくうまい。
パウチパックにはワインやサングリアのような飲み易い酒が合うとばかり思っていたが、ウイスキーが一番のような気がしてきた。
まったく違和感がない。それどころかパウチで飲むのが自然なことのようにさえ思える。
このままポケットに突っ込んで旅にでも出たいくらいだ。
可能性無限大
まさかここまでウイスキーに合ってしまうとは思わなかった。こうなったら呼び名もパウチパックではなく「簡易スキットル」でどうだろう。
もちろんウイスキー以外のお酒でもいける(ただしビール以外)。梅酒なんかも絶対合いそうだ。冷凍庫に入れてもいいし、温めてもいい。ああ、考えれば考えるほどに便利すぎる。
今年の花見は終わってしまったが、来年は是非パウチパックに酒をしこたま詰め込んで出掛けてみようと思う。
後日、別のスーパーで「飲みきりサイズ」としてパウチパックワインが売られているのを発見。なんだ、もうあったのか。