なんくるないさのイメージ。石垣島にきた
心配させることをいえばいいのではないか
さてどうやってなんくるないさを聞くか。こちらがものすごく弱気なことを言って「なんとかなるよ」と言ってもらうのがいいのではないか。
午後8時半、石垣島空港に着く。今回の滞在はデイリーポータルZのイベントに参加するためで他の面々が集まってる家までタクシーに乗る。
まずはタクシーの運転手さんからなんくるないさを聞き出そう。
タクシーのおじさんにきいてみよう
タクシーのなんくるないさが聞きたくて
軽く雨が降っていたので天気についてきいた。
――雨降ってますよね、雨多いですか?
「この季節は降ったりやんだりですね」
――きっと滞在中、雨ばっかりなんだろうなあ……(なんくるないさ、言うだろうか?)
「心配しないで。大丈夫よ。石垣の天気予報は当たらない。ほんとよく外れますヨ~」
失敗した。「大丈夫よ」だった。
――いやでもきっとダメなんですよ。ぼくはずっと雨男で、雨ばっかりなんですよ(なんくるないさ出るかな?)
「……じゃあスキンヘッドにしたらいいねえ」
よくきいてみたら自分がてるてる坊主になればいいということだった。楽観を超えてユーモアの方が出てしまった。
その後石垣島の話になる。いわく、昔は大変だった。朝昼晩と毎日さつまいもでイヤだった。四六時中オナラをしていた。しかしフルーツだけは旨かった。その辺のパインを食べていた。事件が少ないからバレたら新聞に載るかもしれない。
パイン泥棒を告白する運転手。全体的に話の内容が濃い。石垣島の仕事事情について話がおよび、ここだと思って勝負をかけた
――ぼくは仕事ができなくて、ゆっくりした島でもきっとクビになってダメになると思うんですよ……なんとかなりますかね?(出るだろうか?)
「なんとかなりますね。餓死することはないですからね」
→→ なんくるないさではなく「なんとかなります」「大丈夫よ」
「なんとかなりますね」か…
イベントでお世話になる翁長さん宅で話をきく
石垣島ではなんくるないさは言わない
その後イベントでお世話になる翁長さんの家で話をきいた。なんでも石垣島は昔方言を標準語に近づけるような指導がなされたらしく、標準語にかなり近いと。
翁長さんのお父さんになんくるないさ的な状況でなんというかきくと「大丈夫じゃーん」とのこと。
大丈夫じゃーんか……
じゃーんはじゃんであり船が岸に乗り上げた瞬間の音でもあった。なんでもかんでも沖縄と一括りにしていた自分が甘かった。頓挫。
→→ 石垣島は標準語に近い
近くのバーに行って情報を集めようとしたら
近くのバーでのなんくるないさが聞きたくて
その後近情報を集めるかとホテル近くのバーに入った。もしかしたら言うかもしれないと思ってまた雨ばっかりでダメですよねと話をふってみた。
「あー、雨は多いかもね」
なんくるはあるようだ。その後、話をくわしくきいてみたら「なんくるないさ」は使わないことはないがちゃかした状況で、とのことだった。
その後常連のおっちゃんがやってきて、「離島に行け」「離島に行くべきだ」「この人をだれだと思ってるんだ」「竹富島のもとこといったら有名だ」と言っていた。
――離島に行ったら「なんくるないさ」聞けますかね?
常連「……聞けるかもしれないね」
その後竹富島のもとこはこの辺にあるおいしい店とまずい店を一店ずつ教えてくれた。
→→ なんくるある。「離島に行け」
翌朝、おいしい店という比嘉豆腐店へ。しかしこれが豆腐屋へ行く道なのか
あった。奥さん、ちょっとこれ最高のやつじゃないの?
「すいません、1万円札しかないんですが……」
豆腐店のなんくるないさが聞きたくて
比嘉豆腐店のゆし豆腐はたしかにおいしかった。竹富島のもとこ情報はたしかなようだ。ゆし豆腐セット(大)450円の会計をするときに一万円札しかなかったので申し訳なさそうに出した。大丈夫ですよ的ななんくるないさがきけるかもしれない。
「大丈夫ですよ」
大丈夫なようだ。何も間違ってはいない。記事はまだまだ頓挫中。
→→ 大丈夫ですよ
別の企画でそば二杯を食べる状況になった
おそば屋さんのなんくるないさが聞きたくて
その後デイリーポータルZの他の企画でそばを食べることになった。それも同じ店で二杯も。二杯も食べるなんて、とそば屋のお母さんたちがちやほやしてくれた。この感じで三杯目なんとかなりますかね……
「なんとかなると思いますよ!」
もう「なんくるありますか?」と聞かないと出てこないのかもしれない。
→→ なんとかなると思います
その後離島に来た。隣の竹富島だが、東京から離れるとよりなんくるないのかもしれない。図のイメージだ。
甲子園のように星の砂を集める人々
星の砂を全員買う。なんくるはあるだろうか
離島のなんくるないさが聞きたくて
その後、バーの常連のおっちゃんが行けといっていたので離島に来た。といっても石垣島の隣の竹富島であるが…東京から離れれば離れるほどよりなんくるないのかもしれない。
星形の砂があるという浜まで観光客がバスでガンガン届けられている。これは厳しい。数少ないなんくるない住民を大勢の観光客でシェアするような状況だ。
浜の砂にまぎれる星の砂を小瓶につめたものを売る店で聞いてみた。がんばって星の砂を集めたらこの瓶みたいになんとかなりますかね?
星の砂売り「これは業者の方が持ってくるんですよ」
なんくるあるうえにききたくない。夢を大切にしてほしい。その後、これだけ人がいれば帰りのフェリーではあぶれてしまわないか、なんとか乗れるんかと島の売店でも聞いてみた。
売店「もう一艘来るんですよ」
→→ 砂は業者だし船はもう一艘来る
その辺の居酒屋は一品の量が多い。シェア前提で作るらしい。隣の席の人から分けてもらった。旅気分。
居酒屋のなんくるないさが聞きたくて
その日の夜はにぎわってそうな居酒屋に一人入った。ところがにぎわってたのはたまたまだったらしく、一人で切り盛りするご主人がパニックを起こしていた。注文しても大丈夫ですかね?
店の主人「大丈夫ですよ!」
もうあきらめていた。
その後嵐のような忙しさが終わったころ、話をきいた。なんくるないさは沖縄の言葉だから自分は言わないという。石垣島の人は沖縄本島の方を沖縄と呼ぶのでちがう文化だと認識しているのだろう。やはり石垣島でなんくるないさは聞けないのか。
店の主人「言う人はいますね。沖縄から移住してきた方が多くいるので、その一世、二世、三世とかね」
風がようやくふいた。これで船がまた海に出られる。
→→ 沖縄から来た人たちはなんくるない
やっぱりこういうことだった。石垣島に移住してきた人なら言うかもしれない
石垣島はサラダボウル
その後ホテルに戻る途中にまた市役所の翁長さんに会ってまた飲みにいくことになった。話をきいていると石垣島はどこの地区は宮古島、どこは沖縄、と移住者が集落ごとに集まってるのだという。NYの人種のサラダボウルみたいな話。
ホテルに戻って検索。沖縄から移住してきた人たちが星野という集落にいるらしい。
→→ 沖縄から来た人たちの集落がある
エロチックに光る交番
島の北東、星野という農村に来た。怖そうなTシャツを着てきてしまった
島の売店で話をきく
星野のなんくるないさが聞きたくて
翌日、なんくるないを求めてバスに乗り星野という集落に来た。バス停の前に売店があった。さあ、いよいよだ。空港まで歩いてなんとかなりますかね? と聞いてみたところ……
「なると思いますよ」
とのこと。なんくるないさもこの辺の人は使うということもないと思いますよとのこと。おつかれさまでした。いや、店番をしてた方は若いし他の人を当たってみよう。
→→ 星野でも「なると思いますよ」
編集部藤原は記念碑と写真を撮るのがうまい
ぶらぶら散策すると
浜に出た。こんな自然もりもりのところで移住はしんどい
移住はしんどそうだ
ふらふら散策してたら浜に出た。風がゴーゴー吹いてるし木がモリモリしてた。ここに移住しろといわれたら泣くな。
昭和25年沖縄の大宜味村という場所からたいへんな思いをして多くの人たちがやってきたらしい。
なんくるないさを探していたら、うっかり歴史郷土資料館のような地点に行き着いてしまった。
さっきの売店で次のバスまで時間つぶすところないかときいて教えてもらった珈琲屋
自家焙煎ならぬ自家栽培のコーヒーだそうだ。挽きたての栽培したてだ。栽培する様子の写真を見せてもらった
軒先では近所のおばちゃんが集まって何kgだ何kgだといってる。パパイヤの漬物を作るんだそうだ。きいたことがない
コーヒー屋のなんくるないさが聞きたくて
売店の方におすすめしてもらったコーヒー屋『人魚の里』には「自家焙煎」ではなく「自家栽培」と書いてある。豆から作っちゃったのか。
店の軒先に近所のお母さんたちが集まってきて何kgだ何kgだとやっている。あとできいてみたらパパイヤの漬物を作ってたんだそうだ。
この会話の中でなんくるないさが聞けないかとそっと耳をすましていると……
「そらもう塩もみしかできないでしょ」
「あついの入れたらこわいサーね」
「大丈夫よ!」
「いいよ、この切り方で」
「こんなにあったらちっちゃくなりそう、あれだと大きくなんない?」
「大丈夫よう!」
大丈夫か…
「空港まで? 歩いてなんとかなりますよー!」
なんくるないさは言います
やっぱりダメかと思って店のお母さんにもう一度きいてみる。空港まで歩いていけない距離ですよね
「歩けますよ、車で10分くらいの距離だから歩けますね」
でもぼくら足遅いんですよ、ムリじゃないかな…
「大丈夫ですよ。1時間も歩けばいけますよ」
やはりなんくるはあるのか。すいません、あのう、なんくるないさってやっぱりこっちでも言わないんですか?
「言いますね」
――言うんですか!?
「言いますね、お友達同士でも言います」
――それはこの辺りが沖縄からの人が多いからですか?
「私たちはそうだけど、なんくるないさはみんなが言うんじゃないですかねえ」
今までの調査を覆す答えだ。ちょうど店に帰ってきたお父さんもうなずく。
→→ なんくるないさは言う
コーヒーをつくりはじめた店のお父さん。何度もめげそうになったがなんくるないさと言い聞かせたそうだ
そしてやっと聞けた、本場のなんくるないさを
なんくるないさはやっぱり言われてるのか。ちょうど帰ってきた店のお父さんもなんくるないさを「言うよー」と断言した。
石垣島ではじめてコーヒーを自家栽培したのがこのお父さんなんだそうだ。それ以前に作ろうとした人もいるらしいが台風でみんなダメになったという。
周囲には「台風で3回も4回もやられて『何を植えてるかー』と笑われてね(笑)」それでも5年目でやっとできたそうだ。
主人「(なんくるないさ?)言うねー。相手にも言うし、自分にも言うというかなあ。コーヒーがダメになったとき、自分に言ってきかせるね。なんとかなるさあってね」
なんとかなるさあか……
釈然としないがコーヒーはうまい
取材協力「人魚の里」
石垣市星野165-1005
TEL:090-9781-8393
「なんとかなるさあ」でいいんだけれども
沖縄旅行についてしらべてるとき「沖縄 民宿」につづく検索候補が「沖縄 民宿 おばあ」であった。
分かる。旅で現地の人と喋るタイミングは意外と少ない。みんな宿でじっくりおばあに「なんくるないさあ」と言われたいのだ。
色々と聞きまわった結果、それがたとえ石垣島でも「なんくるないさ」は聞けた。「なんとかなるさあ」とか「大丈夫だと思いますよ」になっているかもしれないが、南の人の温かい心という意味では同じである。
だがそのためには万札使っていいか程度の設問では軽かった。ヒザとヒザを突き合わせて今後の人生を相談したり、人生の挫折体験をきいたりしないとなんくるは出てこない。なんくるのためには「沖縄 民宿 おばあ 人生相談」で検索が一番の近道なのだろう。
ところでなんくるないさ、なんくるないさ、と取材中なんどもこの言葉がかけめぐり、かけめぐりすぎて
(……もしかして沖縄の小学生の間では『なんくるナイチンゲール』というギャグが流行ってたりするのではないか)
というどうでもいい思案が頭から離れなかった。
翌日、旅先の花札ゲーム機がならぶ喫茶店でこれを書いている。いまだなんくるないさは聞けていない。