東京から9時間かかる吉浜駅
東京から新花巻まで新幹線で向かい、そこから釜石線で釜石まで向かい、さらに三陸鉄道南リアス線に乗り換えて……約9時間。
ちょっとした海外に行けるぐらいの時間をかけてやってきた。
ちょっとした海外に行けるぐらいの時間をかけてやってきた。
あまちゃんの列車だ!
南リアス線・吉浜駅
大船渡市の出張所も兼ね備えた吉浜駅。
ここで、出張所の事務員の方に、取材で来た旨を伝えると、マスコミ用の取材は夕方からということがわかった。
しばらく時間があるので、吉浜駅構内を見てみる。
ここで、出張所の事務員の方に、取材で来た旨を伝えると、マスコミ用の取材は夕方からということがわかった。
しばらく時間があるので、吉浜駅構内を見てみる。
吉浜駅構内には小正月飾りと……
志村けんの等身大パネル
志村箱……どんな要望が来るのだろう?
ちなみになぜ志村けんの等身大パネルがあるのかというと、志村けんがここ吉浜駅の「非常勤駅長」だからだ。
普段はバカ殿や変なおじさんなどの業務があって忙しいため、非常勤であるかわりに、等身大パネルを設置しているらしい。
普段はバカ殿や変なおじさんなどの業務があって忙しいため、非常勤であるかわりに、等身大パネルを設置しているらしい。
ダークなサンタクロース。スネカ。
午後5時。地域の集会所も兼ね備えた吉浜駅では、スネカが準備をし始めた。
駅にマスコミが続々集まり始めた
集会所ではスネカの準備が進む
以前より、スネカは地元の青年団などが各地区ごとに行っていたが、最近は後継者不足のため今では地元の中学生がその役割を担うようになっている。
準備が整ったスネカが駅の待合室に集合した。
マスコミ用のフォトセッションがあるというのはアイドルグループ並みの扱いである。
準備が整ったスネカが駅の待合室に集合した。
マスコミ用のフォトセッションがあるというのはアイドルグループ並みの扱いである。
AKB48みたい
駅にあった案内によると、スネカとは、囲炉裏のそばで怠けている者のスネにできる火斑を剥ぐ「スネカワタグリ」に由来するという。
由来を聞いただけでも痛そうこの上ない。
さらにこの容貌。
由来を聞いただけでも痛そうこの上ない。
さらにこの容貌。
ドラクエの中盤ぐらいに出てくる敵っぽい
こんばんは、森進一です、みたいなスネカ
目がイッてるスネカ
近所のおばちゃんっぽいスネカ
なまはげなどと違い、スネカの造形にはプリミティブなこわさがあり、さらにそれぞれのスネカに個性があって面白い。
子供をビビらすという目的においては十分すぎる面構えである。
年にいちど、プレゼントを家まで持ってきてくれるのがサンタクロースとすると、ただ、子供をビビらせに行くスネカはダークはサンタクロースといえるかもしれない。
出発式がおわったスネカは、各班に別れ、車にのって担当地域に散っていった。
子供をビビらすという目的においては十分すぎる面構えである。
年にいちど、プレゼントを家まで持ってきてくれるのがサンタクロースとすると、ただ、子供をビビらせに行くスネカはダークはサンタクロースといえるかもしれない。
出発式がおわったスネカは、各班に別れ、車にのって担当地域に散っていった。
いってきま~す♡
いったん広告です
一方、スネカを迎える家庭では……
さて、一方、スネカを迎える各家庭では微妙な緊張に包まれていた。
凱牙(かいが)くん3歳
今回取材させて頂いた白木沢さんのお宅には、3歳の凱牙(かいが)くんと、1歳の柚奈(ゆずな)ちゃん兄妹がいる。
マスコミの中で一番早くおじゃましたぼくは、凱牙くんにスネカについて質問をしてみた。
――凱牙くんはスネカって知ってる?
「うん……」
マスコミの中で一番早くおじゃましたぼくは、凱牙くんにスネカについて質問をしてみた。
――凱牙くんはスネカって知ってる?
「うん……」
「うん……」
うなずくと、だんだん顔がこわばってくる凱牙くん。
しまった、どうやら去年きたやつのことを覚えていたらしい。
これ以上スネカについて質問すると、泣いてしまいそうだったので、質問を変えてみた。
タンスに仮面ライダーの絵がたくさん貼ってあったので、仮面ライダーについて聞いてみた。
――凱牙くんは仮面ライダー好きなの?
「うん……」
――なにが好きなの? ドライブ?
「うん……」
――そうなんだ、トッキュウージャーもみてる?
「うん……」
――そうか……。
「……」
――凱牙くんは名前が仮面ライダーみたいでかっこいいね、「仮面ライダー凱牙」とかありそうだよね。
「……」(おかあさんにはちょっとウケた)
しまった、どうやら去年きたやつのことを覚えていたらしい。
これ以上スネカについて質問すると、泣いてしまいそうだったので、質問を変えてみた。
タンスに仮面ライダーの絵がたくさん貼ってあったので、仮面ライダーについて聞いてみた。
――凱牙くんは仮面ライダー好きなの?
「うん……」
――なにが好きなの? ドライブ?
「うん……」
――そうなんだ、トッキュウージャーもみてる?
「うん……」
――そうか……。
「……」
――凱牙くんは名前が仮面ライダーみたいでかっこいいね、「仮面ライダー凱牙」とかありそうだよね。
「……」(おかあさんにはちょっとウケた)
そうか
これで凱牙くんとの意思疎通はバッチリである。
続々集まるマスコミに緊張する子供
そうこうするうちに、白木沢さん宅にマスコミが続々集まり始めた。
さすがマスコミ、家の人の名前と年齢をちゃんと聞いている
例年以上にマスコミが集まった
普段見なれない大人の集団に、はにかみつつも興味がつきない凱牙くん。しかし、その時は刻一刻と迫ってきているのだ。
スネカ現る
おじいちゃんと、おかあさんと共にコタツでスタンバイ
そして、しばらくすると「ドンドンドンドン」という乱暴に戸を叩く音。
子供ふたりに一挙に緊張が走る。
子供ふたりに一挙に緊張が走る。
「!」という顔の子供ふたり
「悪い子はイネーがーぁ!」
うが~!
柚奈ちゃんは、スネカが入ってくるなりいきなり「もうしません!」と、降参状態だったものの、おじいちゃんにだっこされた凱牙くんは、表情が固まっている。
台所からもスネカが侵入してきた
玄関から入ってきたスネカとは別に、勝手口からもスネカが侵入してきて、挟み撃ちにされ、柚奈ちゃんは完全に撃沈。おかあさんに抱きついたまま離れない。
しかし、凱牙くんはまだ必死に耐えている! すごい。さすがお兄ちゃんだ。
ところが、スネカはなかなか帰ってくれない。なぜか凱牙くんにカラみつづける。しばらく耐えていた凱牙くんも、しつこいスネカに根負けし、ついに泣き出してしまった。
しかし、凱牙くんはまだ必死に耐えている! すごい。さすがお兄ちゃんだ。
ところが、スネカはなかなか帰ってくれない。なぜか凱牙くんにカラみつづける。しばらく耐えていた凱牙くんも、しつこいスネカに根負けし、ついに泣き出してしまった。
あー、泣いちゃった!
いい子にするかー! します!
凱牙くんが陥落した瞬間、その悲壮な表情に、ぼくもうっかりもらい泣きしてしまった……あぁ、もう、勘弁してあげてっ! ゆるしてあげて!
実はスネカがなかなか帰らなかったのは、われわれ取材に来ていた人たちのせいでもある。さまざまなパターンの写真を撮るために、ちょっとだけ長めにスネカがいたのだ。
実はスネカがなかなか帰らなかったのは、われわれ取材に来ていた人たちのせいでもある。さまざまなパターンの写真を撮るために、ちょっとだけ長めにスネカがいたのだ。
仕事とはいえ、無慈悲な大人たち。でも、記者のひとたちの思いはひとつです「凱牙くんごめん!」
凱牙くんから「いい子にします!」の言質を取りつけたスネカは、マスコミの撮影がおわったことを確認し、やっと帰っていった。
マスコミ対応も完璧なスネカ
うつろな目でスネカを見送る凱牙くん
うっかりもらい泣きしたおっさん
そして平穏が訪れた
スネカがやってきて帰るまで10分ほど。これで各家庭におけるスネカの行事は終わりである。
3ヶ月ぐらいはいうこと聞く
もう機嫌が直った子供ふたり
凱牙くんのおかあさんによると、自分自身が子供の頃はもちろんスネカが大嫌いで、小学校や中学校にあがったときも、ほんとうはスネカの行事に参加しなければいけないところ、サボって参加しなかったこともしばしばあったそうだ。
――お子さんに、いい子にしないとスネカが来るよ、みたいなことはいいます?
「あぁ、たまに……でも、効果があるのは3ヶ月ぐらいですね」
スネカ。子供への戒め効果は3ヶ月しか持たないらしい。アースノーマットといい勝負である。
――おじいちゃんは、スネカの行事どうですか?
「楽しいです!」
こわいとか嫌いとか、そういうネガティブな感情はもう一切なく、一点のくもりもなく「楽しいです」と言い切れるおじいちゃん。
凱牙くんがこの境地に達するにはあと80年近い時間が必要なんだろう。
――お子さんに、いい子にしないとスネカが来るよ、みたいなことはいいます?
「あぁ、たまに……でも、効果があるのは3ヶ月ぐらいですね」
スネカ。子供への戒め効果は3ヶ月しか持たないらしい。アースノーマットといい勝負である。
――おじいちゃんは、スネカの行事どうですか?
「楽しいです!」
こわいとか嫌いとか、そういうネガティブな感情はもう一切なく、一点のくもりもなく「楽しいです」と言い切れるおじいちゃん。
凱牙くんがこの境地に達するにはあと80年近い時間が必要なんだろう。
あわびの刺身をごちそうになった
こわい感情を揺さぶる行事
こういった異形の「来訪神」のことを民俗学の泰斗、折口信夫は「まれびと」とよんだ。
まれびとは、その恐ろしい姿に似合わず、どの行事や風習でも、縁起の良いものとされていることが多い。もちろんスネカもそうで、スネカは各家庭に祝福をもたらすだけでなく、五穀豊穣や豊漁をもたらす存在であるのだ。
そんな神さまが「こわい」というのは一体どういうことなのだろうか?
できれば「こわい」思いはせずに過ごしたい。
しかし、人は生きていく上で「こわい」思いを必ずどこかですることがある。「こわい」という感情もまた生きていく上で必要な感情なのだ。
こわさを一切感じることなく生きていると、そのうち、こわい思いをしている他人のきもちが理解できなくなってしまうことを、むかしのひとたちは感じ取っていたのかもしれない。
年にいちど、「こわい」という感情をゆさぶってくれるスネカは、とても貴重な存在だと思う。
まれびとは、その恐ろしい姿に似合わず、どの行事や風習でも、縁起の良いものとされていることが多い。もちろんスネカもそうで、スネカは各家庭に祝福をもたらすだけでなく、五穀豊穣や豊漁をもたらす存在であるのだ。
そんな神さまが「こわい」というのは一体どういうことなのだろうか?
できれば「こわい」思いはせずに過ごしたい。
しかし、人は生きていく上で「こわい」思いを必ずどこかですることがある。「こわい」という感情もまた生きていく上で必要な感情なのだ。
こわさを一切感じることなく生きていると、そのうち、こわい思いをしている他人のきもちが理解できなくなってしまうことを、むかしのひとたちは感じ取っていたのかもしれない。
年にいちど、「こわい」という感情をゆさぶってくれるスネカは、とても貴重な存在だと思う。
お小遣いを貰いにくる小学生のスネカはこわくなくてかわいい