一生懸命、魂込めて、感謝の気持ちで
スタンダードなのは、ストレートかつシンプルな「営業中」という看板。
こちらのタイプである
喫茶店などに多いプラスチック版
金網でガードされているものも
ところが、最近やけに見かけるのが「営業中」の頭に真心を押し出した惹句を付け加えたタイプ。
一生懸命
魂込めて
感謝の気持ちで
只今元気に
何となく余計なのではと思ってしまうが、集客効果があるから流行っているのだろう。そこで気になるのが、このブームの始まりについて。いつ頃、誰が始めたのか。
情報を求めて「かっぱ橋道具街」へ
取材班(一人です)が向かったのは、こうしたアイテムを扱っている店がありそうな「かっぱ橋道具街」。
大通りを挟む両側に飲食関連の問屋が約800m立ち並ぶ
食品サンプルにも興味はあるが、またこんど
おお、これこれ
営業しまくっている
こんなアイテムも
ありますね、こういうの
「岡山の会社が考えたアイデアじゃなかったかな」
さらに歩くこと数分。あった。
これだ!
感謝の気持ちと心を込めて
お店の人によれば、「ウチで扱い出したのは去年ぐらい。メーカーから仕入れているだけなので、細かいことはわかりませんね」とのこと。
この2つの価格はそれぞれ9800円。しかし、高いものは1万円以上するという。
右の大きいものは1万4000円
謎を追って、再び歩く。すると、「かっぱ橋装飾」という店で有力な情報を得た。
すべて売り物だ
「そういう看板なら、ウチには3年ぐらい前から入るようになったね。たしか、岡山の『のぼり屋工房』っていう会社が考えたアイデアじゃなかったかな」
大感謝!
「ちなみに、こんなのも知ってる?」といって見せてくれたのが、「春夏冬中」という看板。「秋がない」=「商い」で「商い中」という意味だそうだ。
「これは、かなり古くからある」とのこと
というわけで、「のぼり屋工房」に電話をしてみた。対応してくれたのは、営業企画部の中司さん。
――あの、「一生懸命」や「魂込めて」が付いている「営業中」看板は、そちらが始めたという話を聞いたんですが。
たしかに、既製品としては弊社が最初かもしれません。
――いつ頃からですか?
7、8年前でしょうか。
――きっかけは?
誰かはわかりませんが、店主の方から「こういうのを作ってほしい」というご要望があって、それを商品化したということだと思います。
「四方赤良(よものあから)」と書いたメモをくれた
なるほど。発祥は岡山だった。満足して帰宅の途につく。すると、気になる「営業中」看板を掲げるバーが目に入った。
厚紙に手書きなのだ
“真心押し”系とは対極にあるその味わいに惹かれて入店。初老のマスターに手書きにした理由を尋ねると、「めんどくさいから」という力強いお答え。
「取材? 受けないよ」とのことなので写真は撮れなかったが、おもにジャズと文学の話を傾聴しながらハイボールを4杯飲んだ。
帰り際に「こんな人も知っているか?」と言いながら、紙に「四方赤良(よものあから)」と書いたメモをくれた。
江戸時代の狂歌師らしい
なぜ、このメモをくれたのかはわからないが、「営業中」看板をめぐる旅の終わりとしては、何となく相応しい気がした。
江戸時代の狂歌と「営業中」看板
帰宅して調べてみると、四方赤良さんには「世の中は色と酒とが敵(かたき)なり どふぞ敵(かたき)にめぐりあいたい」という代表作があった。色と酒。今宵も「営業中」の扉を開ければ、この2つが待っている。そういうメッセージだったのかもしれない(たぶん、違う)。