銀座から日本酒文化を発信したい
銀座で田植えを体験できるイベント。主催は1743(寛保3)年創業の老舗日本酒メーカー、白鶴酒造。本社は神戸だが、ここ銀座にも東京支社を構えており、そのビル屋上に「白鶴銀座天空農園」がある。
6月7日(日)、スタートは午前10時。さっそく、農園長の小田朝水(あさみ)さんにご挨拶をした。
「やー、よく来たねー」
この農園で田植えを行うのは、今年で8回目。小田さんによれば、「銀座から日本酒文化を発信したい。じゃあ、主原料である酒米を作ろう」という経緯で2007年に始まったプロジェクトだそうだ。
農園からの眺め。奥に歌舞伎座が見える
屋上に田んぼを作る。そんな前例はないため、すべてが手探りの状態で始まった。
「大学の先生にも『ネオン街で稲は育たない』なんて言われたけど、1年目でちゃんと収穫できたんだよ」
最初はプランターから。2年目から現在の田んぼへと移行した。
「このぐらいの量をつかんで植えてください」
当日はあいにくの小雨模様だったが、田植え気分はむしろ盛り上がる。
忸怩たる思いのてるてる坊主たち
ここで作られているのは、同社が独自に開発した「白鶴錦」という酒米。収穫後の米は“銀座生まれの日本酒”の原料となる。
誰かが「この苗、やわらかいなあ」とつぶやくのが聞こえた。苗に硬さの違いがあるのか。世の中、まだまだ知らないことだらけだ。
こちら、「白鶴錦」の苗になります
現場には前出のクラブ「稲葉」のママ、白坂亜紀さんもいた。昨年、取材で知り合って以降、銀座界隈の情報をメルマガで届けてくれる。
彼女は数年前から銀座緑化運動に取り組んでおり、2010年にはGSK(銀座社交料飲協会)の銀座緑化部長の任に就いた。この田植えには5、6年前から参加しているそうだ。
趣味はシャンソンを歌うこと、三味線を弾くことです
やさしくズブリと沈み、あたたかい泥が足全体を包む
さて、田植えが始まった。岐阜の田舎に生まれた割には、初体験である。
まずは、形から入る
プランターから始まったプロジェクトも、今では近隣の小学生の体験学習の場になっており、海外からも注目を集めているという。
屋上meets田植え、の風景
等間隔に植えるために、水の上に印の付いたひもを張る。土の深さは10cm~12cm。通常の田んぼよりは浅いそうだ。
青いマークを目印に
「はーい、どうぞー」
入ってみてわかった。これ、気持ちいい。やさしくズブリと沈み、あたたかい泥が足全体を包む。
しばし、大いに癒される…
白坂ママも言っていた。「毎年、最初は躊躇している子供たちも、いったん入ると『出たくない』って言うのよ(笑)。日本人のDNAに染みこんでいる記憶が甦るんでしょうね」。
そして、植えた。
緊張の一瞬…
これが育ち、やがて収穫され、最後に日本酒となり、誰かを酔わせると思うと感慨深い。
造った日本酒は銀座三越や松屋銀座で販売する
昨年はもみ殻の状態で約65kgの収穫があったそうだ。これを玄米にすると約50kgになる。
小田さんは言う。「造った日本酒は銀座三越や松屋銀座で販売するんだよ。始めた当初は、まさか商品化まで行くとは思わなかったなあ」。
NHKの取材も入っていた
距離のある苗のやりとりはやさしく放って渡すシステムが導入されていた。
華麗に宙を舞う苗
田植えパックをほどこした女性参加者の足
これが「白鶴錦」の玄米だ(写真提供/白鶴酒造)
最終的に吟醸、大吟醸となる(写真提供/白鶴酒造)
日本酒は朝仕込むし、水が命。運命としか言いようがない
田植えが終わると、階下のセミナールームでの懇親会が待っていた。
健闘をたたえ合う田植え人たち
傘も苗に見えてくる田植え脳
まずは、小田さんと乾杯。やっぱり日本酒が好きなんですか?
「一番好きだねえ。楽しく酔えるから。今じゃしないけど、若い頃は銀座の街路樹に登ったりしてたよ(笑)」
じつは名前が運命的にすごい
ところで、「小田朝水」さんって何となく日本酒っぽい名前ですね。「小さい田んぼ」も、まさにあの屋上農園ですし。
「そうなんだよ。日本酒は朝仕込むし、水が命。運命としか言いようがないね(笑)」
鉄板担当は斉藤さん
「最近、担当になったんです。前任者は『ガーッと豪快にやればうまくできるから』と言い残して転勤していきました(笑)」
笑いが絶えない白鶴三銃士。左から、藤田さん、茂木さん、小中さん
ずっと気になっていたが、白鶴Tシャツがかっこいい。「どこかで買えるんですか?」聞くと、「2、3年前にユニクロとのコラボで作ったものだけど、今は品切れなんですよ」とのことだった。
販売課の大滝さん。趣味は飲み歩きというナイスガイだ
「若い人にも日本酒をどんどん飲んでほしいですね。ウチの飲み会は乾杯から日本酒。ビールとかを頼むと小田さんに怒られるんで(笑)」
あの泥の感覚が胸を離れない
田植え、すてきな体験だった。まず、屋上というだけでテンションが上がる。そして、あの泥の優しい感覚。秋にはこの米が日本酒となる。銀座へ買いに行かないと。また、その後の懇親会も非常に楽しかった。最後、どうしてもTシャツを着てみたかったので、大滝さんに頼んだら二つ返事でOKしてくれました。
田植えカップ終了後、ユニフォームを交換して記念撮影