特集 2014年3月19日

さようなら、思い出の「昭和」な温泉施設

2010年代の現在でも昭和感ビンビン!
大人気の施設は資金もあるからどんどんリニューアルして時代に乗っかっていくし、あまりに人気のないところはすぐに潰れちゃう。

しかし、絶妙な感じで一定数のお客さんをつかんでいる施設は、リニューアルするでもなく、潰れるでもなく、昔っからのレトロな雰囲気を残したままずーっと存在し続けていて、なんともイイ味を出していることが多いんですよね。

ボクはそういうスポットが大好きなんですが、そんなお気に入りの「昭和」な温泉施設が今月末で遂に閉鎖されてしまうこととなってしまったようで……。
1975年群馬生まれ。ライター&イラストレーター。
犯罪者からアイドルちゃんまで興味の幅は広範囲。仕事のジャンルも幅が広過ぎて、他人に何の仕事をしている人なのか説明するのが非常に苦痛です。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。(動画インタビュー)

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イイ味出してる「昭和」な町を歩く

普段、かなり変化球な珍奇観光地にばっかりいっているボクですが、意外と国内観光のド真ん中・温泉も好きだったりするのです。

家に居る時は、むしろ風呂に入るのなんてめんどくさい! 極力入りたくない! ……なーんて思っているのに、温泉に行ったらここぞとばかりに1日何回も入っちゃったり。その反動で、家に帰ったら入り貯めしてきたんだから1週間くらい入らなくってもいいだろうって……それはダメですな。

……とにかく「温泉好き」というのは日本人のDNAにすり込まれているもんなんじゃないの!? と、思うわけです。
まあ、温泉では酒飲みたくなるけど
温泉はイイ、ホント好きッ!

「ザ・秘湯」という趣の、周りにはなーんにもない、メチャクチャ僻地にあるハードコアな温泉も好きですし、商売っ気出しまくりの俗世の垢にまみれまくった温泉もイイ!

その中でも特に心を打たれるのが、昭和の頃はメチャクチャバブリーに流行ってたんだろうけど、最近はちょっとお客さんも減り気味。……それでも、それなりに人は来るから、当時の"昭和な"雰囲気を残したまんま、何とな~く続いている温泉地。コレがイイ。

……というワケで今回は、そんなイイ感じに"昭和感"がにじみ出ている温泉施設が取り壊されちゃうということで最後に行ってきました。
やって来たのは長野県にある「戸倉上山田温泉」。駅を出るとすぐにこのゲート!
駅側から見ると「いらっしゃいませ」、逆から見ると「ありがとうございました」
この温泉マークがズドーンと掲げられているのも昭和!
こんな感じで四方を山で囲まれた立地なんですが……
夜になると山がこんな感じでライトアップされて……サイコー!
駅からちょっと出ただけで、昭和の、まだ海外旅行なんて夢のまた夢、温泉地が旅行の花形だった時代(新婚旅行で熱海とかに行ってたような時代!)に作られたんだろうな……という物件がバンバン目に飛び込んでくる「戸倉上山田温泉」。

早くもノスタルジーのツボをグイグイ押されっぱなし!

目的の温泉施設に行く前に、この温泉地全体がもう昭和感あふれまくりなので、ちょっとご紹介したいと思います。
雑然としながらも妙に趣のある、昭和の温泉街って感じ!
「カラオケパブマイウェー」いいフォント!
潰れちゃったのかな?「パブダーリン」
「じゅうたんの館ナイトポエム」もはや何の店なのか分からなすぎる!
こんな外観ですが、営業してるっぽいのがスゴイ
「ぼ」他の文字が外れちゃったのか、そういう店名なのか……?
タモリや、鈴木雅之はもちろん、佐村河内(旧バージョン)も入店お断り!
「自動販売機でたばを24時間買える」というのが売りになっていた時代があるんでしょうか?
「lounge spes あさりちゃん」lounge spaceのことかな……? そして「あさりちゃん」って
「キーン」っていってそうな看板
イイ味出している「戸倉ショッピング」なる看板
残念ながら潰れちゃってますが、当時はこの辺の一大商業施設だったんでしょうねぇ
特に店の開いていない昼間に歩いていると……
ああ、むせびかえるほどの昭和臭!

さすがに潰れちゃってるお店もちょこちょこあるものの、大半は昭和感丸出しのまま、今でもちゃーんと営業しているというのがスゴイ。

やっぱり「温泉」という強力な観光資源があるから、ドーンと建て替えたりリニューアルしたりするほどは儲からないけど、常にある一定数のお客さんは見込めるということなんでしょうか?

ホント、ヘタな世界遺産なんかよりよっぽど価値がある町並みだと思いますよ。いつまでもイイ感じの雰囲気をキーポンしてもらいたいものです。
で、本題の温泉施設にやって来ました
こちらは「戸倉メリーランド白鳥園」という、なんともいえないネーミングの日帰り温泉施設。

もともとは温泉付きのホテルだったものを、市が引き継いで日帰り温泉として運営している施設。

子どもの頃に来たことがあるのと、大人になってからも何度か訪れているお気に入りのスポットなんですが、残念ながらこの3月末で取り壊しが決まってしまったということなんです。
この看板のロゴからして、古き良き昭和の時代を感じさせてくれます
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思い出の温泉施設がスカスカに……

こちらが「戸倉メリーランド白鳥園」
周囲の、まあ庶民的ともいうべきひなびた温泉街と比べ、やたらと規模のデカイ&ゴージャス(だった)感のただようこの温泉施設。

それもそのハズで、「ホテル白鳥園」という宿泊施設が営業していた頃には昭和天皇・皇后両陛下が泊まりに来たこともあるという超一流のスポットだったらしいんですよ。
まあ、今となっては立派なレトロスポットですが
でも、庭にシレッと岡本太郎作品が置かれているあたりは一流の証!
「歓迎」「ようこそ」と書かれていますが、こちらの宿泊施設は閉鎖していて入れません
白鳥型の看板もイイし、なぜか置かれている丸ポストもイイ! そしてバックにあるチューリップのイラストもイイ!
なんとも味わい深い「芸能ニュース」なる掲示板。かつては芸能ニュースを貼り出してワイドショー的な役割を担っていたんでしょうか?
今は「芸能ニュース」ではなく「ここが閉鎖するよ」という悲しいニュースが貼り出されていますが……
ま、中に入ってみましょう
館内は……公民館かよ!? という雰囲気
いきなり、謎すぎるオブジェたちが飾られています
この感じを見て「なんだか古くさくてユルイ施設」と切って捨ててしまうのは簡単ですが、「天皇陛下が泊まった!」というこの上ないステイタスがある以上、「温泉旅行がブームだった頃は、こんな感じのが一流だったんだろうな」と受け取るべきでしょう。

今、設備が豪華でスゴイとされているスーパー銭湯とかだって、数十年経ったら単に珍妙でデカイ風呂と思われるでしょうからねぇ。
天皇陛下も、このグニョーンと歪んでうつる面白鏡を見たんでしょうか!?
で、この手の施設のお約束といえばゲームコーナー
これまた懐かし~い感じのゲーム機が並んでいます
おお、ガンダムF91のゲーム!
ガンダムの各パーツがグルグル回って……
ちゃんとした形になったら当たり、メチャクチャなボディになっちゃったらハズレというシュールな内容でした
気になったのは、やたらとゲームコーナーがガラーンとしていること。ビデオゲームなんて1台しかないし
その1台も故障中!(しかも「ダイナマイト刑事2」という渋いゲーム)
数年前に来た時には、こんな感じでもっといっぱいゲーム機があったんですけどね
明らかにファミコン用と思われる「スーパーマリオ3」がアーケード機の中に入っていたのが謎ですが
まあ、当時から故障した筐体がその辺に転がっていましたが
数年前に訪れた時も、昭和感ただようさびれた雰囲気はあったんですが、それにしても今回は全体的に館内がスカスカしている感じが。

やっぱり、閉鎖に向けて色々と撤去しつつあるんでしょうか? そう考えるとちょっと切なくなる……。
うーん、密度が低い!
数年前には絵と、よく分からないオブジェが並べられていた棚も
こんな感じに……なぜ中途半端に残すのか!?
「オカン御用達」という感じのスゴイ柄の服がミッシリ並んでいた売店も
妙にサッパリしています……相変わらず柄はスゴイけど
その代わり、備品らしき食器たちが
ヤケクソのような値段で売られていましたが
そういえばこんなコーナーも「昭和39年5月昭和天皇・皇后陛下御宿泊時の食器類(予備品)」の展示
「さすが皇室!」という感じの金ピカなお椀
このコーナーにも、今は色んな貼り紙が貼られちゃってました。……そこは見せて行こうよ!
はい、温泉場の定番・卓球場は……
こんな感じ
球が階段の方に落ちていかないように、板が立てられていました
一応、通常営業はしているものの、館内全体が閉鎖に向けてゆるやか~に片付けはじめてる感じがなんともダウナー。

さびしいような、切ないような、センチメンタルな気持ちになってしまいます。

ところでこの館内、宿泊施設の部分が閉鎖されているため、立ち入りできない、通行止めとなっている場所がいっぱいあって、構造がややこしいことになってるんですよね。

お客さんもあまりいない、物も少ない複雑&広大な迷路っぽい建物の中をウロウロしていると、ちょっとした 不思議感覚。どんよりとした夢を見ているような気持ちに……。
人気がないと特に「迷い込んだ感」ありますよね
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ちょっとセツナイ温泉

ま、せっかく来たんだし、温泉に入りますか
「マンモス大浴場」……
この「マンモス大浴場」というネーミングがまた昭和! イイデスネー。

なんでも「300人が一度に入浴できる!」というのがウリのお風呂らしいんですが、ここまでほとんど他のお客さんを見かけてないし、やっぱり風呂場もガラッガラなんだろうなぁ……と思いきや!
さすがに「300人が入浴できる」は大げさだと思いますが
えーっ、「ボクの他にはほとんどお客さん来てないのかな……?」と思いきや、みんな温泉に入ってたんですねぇ。やって来てすぐに温泉に入って、出たらすぐ帰っちゃう……という感じなんでしょうか?

まあ、温泉施設なんだから間違っちゃいないんですけど、もっとこう、施設内をウロウロ探検したりしないの!?
休憩所&大宴会場をのぞいてみると……
やっぱり人口密度低い!
この大宴会場も、数年前に来た時はおっちゃん、おばちゃんたちがカラオケ歌いまくりでザ・カオスな状態になっていたんですが、今は静かなもんで……(一応、平日の時間限定でカラオケタイムをやっているようですが)。
カラオケに新曲も入らなくなっているようです……サビシイ
ドドーンとヤカンが並んだ給湯コーナー。勝手にお茶をいれて勝手に飲めシステム
勝手に……といっても「ひとつのヤカンの中にお茶(ティーバッグ)二つまで」という鉄のおきてが
ヤカンに直でティーバッグを投入してお茶を作るのも懐かしい感じですよねぇ
食堂でカレーを頼んだら、食券がコレ! うーん、イイ!
出てきたカレーも「ザ・普通」それが正しい昭和の温泉施設です
わりと何度も訪れたことがある、思い出深い温泉施設が閉鎖してしまう……それだけで結構おセンチな気分になってしまうし、館内がじょじょに片付けられていってる感じもなんともサビシイ……。

しかし、そういう状況だからこそ、なんとなーく残ってしまっている昭和感を、「ま、もうすぐ閉鎖するし」という感じで、なんとなーくそのままに通常営業されており、こっちも「せっかく温泉に来たんだから思いっきり満喫しなければ!」みたいな気合いを入れることもなくグダグダ~ッと過ごせて、妙に居心地はよかったです(大宴会場で小一時間ダラーッと寝てしまいましたよ)。

できれば、この「ザ・昭和&脱力」な雰囲気のままあと10年くらいやってくれると嬉しいんですけどね。
帰ろうと外に出ると、白鳥看板がビミョーにライトアップされていました

白鳥園は不死鳥のように蘇る!?

「最後だっていうから、ちょいと見てこようか」くらいの軽い気持ちで行ったものの、妙にセツナイ気持ちになってしまった今回の温泉。

しかし、従業員さんに聞いたところ、この建物はいったん取り壊されてしまうものの、その跡地に「新白鳥園」を作るという計画が一応動いているらしいです。おおっ!

できることならば、変に近代的な施設にしないで、この「ザ・昭和」な雰囲気をちょっとでも残してくれると嬉しいなぁ……。
●戸倉メリーランド白鳥園
長野県千曲市大字戸倉2254番地
【電話番号】026-275-0400
【営業時間】9:30~20:00
【定休日】第2・第4火曜日

今の形態での営業は3月31日まで! 急げばギリギリ間に合う!?
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