来年もう未来だ
まずはそのシューズ、Youtubeから動画でご覧いただこう。
シリーズ1作目、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の公開が1985年。2はその4年後の公開だが、作中での「現在」はひきつづき1985年である。
主人公のマーティーがタイムスリップしたのは、そこから30年後の未来。未来の世界ではみんなこんなシューズを履き、若者は宙に浮くスケボーみたいなやつに乗っている。車はジェット噴射で飛ぶ。そのテクノロジーは、今見ても十分に未来。
そんな2015年、気が付けばもう来年なのだ。
もはや我々には一刻の猶予も残されていない。ナイキより一足先に、僕が自動で靴ヒモが締まるシューズを作ってしまおう。
と思ったけど、
やっぱり難しそうなので靴ヒモを自動的にほどくことにしました。
これもカスタムと呼んでいいのか
愛用のスニーカーです
できれば靴のデザインから設計していきたいところだが、そうなると先にナイキの方のシューズが完成してしまいそうなので、今回は手持ちの靴をカスタムしていくことにした。
以前adidasのカスタムシューズが作れるサイトでライター北村さんが
都道府県カスタムシューズを作っていた。あれは確かにカスタムだったが、「ヒモを自動でほどく」もカスタムの範疇に入れていいのだろうか。
これが今回の心臓部
モーターである。ギアードモーターといって、モーターの横に小さなギアボックスが内蔵されている。これによって、普通のモーターより回転が遅くなり、パワーが強くなる。
これを側面につけて
こんな感じで巻いて引っ張り、ほどく
いきなりほぼ完成しているように見えるが、上のアニメーションはただのコマ撮りである。実際には手で巻きつけている。これを自動化したい。
ちなみに、なぜ靴ヒモをほどくのか、とか、ほどいても意味がない、とか言うのは無粋である。僕は以前から
醤油をかけすぎる機械とか
メガネに指紋をつける機械などを製作しており、ずっと人類のビターな未来について夢想しているのだ。
(というか無粋であるということにしておかないと話が進まないので、そういうことにしておいてほしい)
木がいい
人類のビターな未来のために我々がまずやるべきことは、モーターの回転軸の加工だ。今のままだと短いし細いしで、ヒモを巻き取るのが難しい。これを延長して、太く長くしたい。
こんなに小っちゃいのだ
ところでギアードモーターってふつう4~5000円する高価な部品なのだが、上の写真のモーターは秋葉原のパーツ屋で210円で見つけたものだ。カゴに大量に入って投げ売り状態であった。そのかわり説明書も何もついておらず、不明点が多い。
この軸はなんだ
回転軸が謎の俵型をしており、どの部品と噛み合うのかよくわからない。そもそも規格品ではないのかもしれない。仕方がないので自分で合う部品を削り出すことにした。
角材を短く切って
穴開けて
リューターで俵型に広げていく
餅につけて食べたい感じの木屑が出てくる
こういう機械の工作、どこが大変かって言われると、部品をうまく動かすところが大変なんじゃないかと思うだろう。
でも実際やってみると、モーターみたいな動く部品は売ってるものを買ってくればいいからそんなに苦労しない。そうじゃなくて、それを支えたり、接続したり、延長したりするための「動かない部品」。これはたいてい自分でちょうどいい形のを作らなきゃいけなくて、むしろそっちが大変なのだ。
削れた
でも最近、木で作ると楽なことに気づいた。削りやすいし、柔らかいのでちょっと形が変でも無理やりねじ込めば変形してはまる。
無理やりねじ込んだ
削ったり叩いたり無理やりねじ込んだり。一見手先の作業と思われる工作だが、やってみるとけっこう暴力である。
よく回る
これでうまく靴ヒモをほどくことができるか、シューズにあてて動かしてみよう。
スムーズ!
記事的にはこの辺でひと波乱があり、試行錯誤に突入するといいのだが、見事に成功してしまった。まだ角材一個つけただけなのに、これ、もうほぼ完成じゃないか。本記事は3~4ページの枠なので、ここであわてて改ページします。
ほぼできたのでは
いきなり機械部分はほぼ完成、あとは見た目を取り繕うだけという状況である。
そこで新シューズ登場
モーターや電池ボックスをガンガン取り付けていく段になり、急に愛用の靴を使うのがもったいなくなった。ここでさらに一段階、薄汚れた代打登場。
履き古しですみません
ここに針金を使って、各パーツを縫い付けて(というかくくり付けて)いく。
なんでも針金で止める雑な人生です
接着完了
映画に出てきた未来的な外観とは打って変わって、夏休みの工作的な外観である。特に木の部分。
しかしここで自分の生活に目を向けてみると、未来は放っておいても勝手にやってくるが、夏休みは頑張って有給を申請したり仕事を前倒ししたりしないとやってこない。
そんな苦労なしに夏休み気分を感じられるなら、未来的な外観よりむしろオトクなのではないか。(詭弁)
電気系統を接続
あとは電源をつなぐ
スイッチとケーブルをはんだ付け
押しボタンになってます
これを靴底にセット(固定が雑)
これで、靴に足を入れるとモーターが回る仕組みが完成した。
スイッチがついた
ヒモホルダー
最後にもう一つ。靴ヒモを巻き取るためには、軸に巻きはじめを固定しなきゃいけない。
輪っか付きの木ねじ(戸棚の戸を止める部品)
ねじ込む
ここに、あらかじめヒモの先をさしておくことによって、回転した時に自動で巻きとられるという寸法だ。
完成しました
下足箱で幅をとりそうなデザイン
一瞬でシュバッ!とひもが締まる本家に比べて、この鈍重な動き!
そしてそもそもの話、靴を履いた後にヒモをほどくという100%ピュア嫌がらせな製品仕様。こんな未来ならやってこない方がよかった。マーティーもさぞかしがっかりであろう。
このがっかりをさらに噛みしめるべく、履いて外に出てみよう。
両足作った
片足だけだと外出はできない。勢い余って、もう片足も作ってしまった。
片足だと夏休みの工作のようだったが、こうして両足揃って左右対称になってみると、何となくハイテクシューズっぽい雰囲気が出てないだろうか。
出てないですか。変なこと言ってすみません。
意外に違和感はない
スイッチをかかとのかなり奥の方につけたため、履く際にグッと踏み込めば動作するが、普通に歩くくらいではモーターは回らない。便利。
ただ、意識するのを忘れたころに、うっかり踏み込んでしまい靴ひもがほどけてくる。日常に申し分ないイライラを与えてくれるシューズだ。
"靴ひもの端がダリのひげみたいに跳ねるのもかっこいい。
このシューズを使って、映画のあの名シーンを再現してみた。
先ほども触れたように動作がとても遅いため、映像の間が持たない。あと靴とは関係ないけど途中に出てくる英語のセリフが何て言ってるかわからなかったので、代わりに「さざれ石!」と言っている。その2点以外は、けっこう再現できているのではと思う。
いま原稿書いてて気づいたのだが、上の動画のタイトルに「Power-lacing」って書いてある。「さざれ石」のセリフ、たぶんこれだな。
ヒモを締める靴もできたのでは
冒頭、「難しそうなので靴ヒモを自動的にほどくことにしました」と書いたけど、これ蝶結びにしないでヒモの端をそのまま引っ張るようにすれば、同じ仕組みで普通にヒモを締めることもできたような気がする。
でもナイキが作るって言ってるからそっちはいいか…。