当方、ゴルフの知識はありません
スポーツで一番好きなのは野球で、次はサッカー。ゴルフは正直、これまであまり注目してこなかった。選手も、すぐに思い浮かぶのはタイガーウッズと石川遼くらいだ。そんな自分が、いきなりのギャラリーデビュー。果たして楽しめるものなのだろうか?
結論から言うと、楽しかった。そして、感動して、ちょっとだけ泣いた。今回はその顛末をレポートしたいと思う。
一抹の不安を胸に、人生で初めてゴルフの大会のチケットを買った。じつは、それまで恥ずかしながらゴルフを観るのにチケットが必要なことも知らなかった。すみません(※これ以降もゴルフ素人ならではの発言が続きますが、どうかご容赦ください)
始発で会場入り
ウワサには聞いていたが、ゴルフの朝は早い。チケットに記載された開場予定時刻はなんと朝の6:30である。しかも、会場は都心から離れた場所にあることが多いので、かなり早起きする必要がある。ちょっと気合いの入った日帰り旅行くらいの感覚で臨むといいかもしれない。
誰もいない早朝のホーム
しかし、最寄り駅に到着したらゴルフコースに向かうバスに行列ができていた。
すべてギャラリーのみなさん。直行バスで会場へ向かう
隊列を乱すことなくバスを待つゴルフファンのみなさん。客層的には50~60代の方々が中心か。稀に子ども連れや若いカップルの姿も見られるが、おじさん同士のグループが最も多い。
バスにゆられること約15分。会場に到着
国内最高峰の大会です
やってきたのは国内メジャー最終戦となる「ゴルフ日本シリーズJTカップ」。メジャーとマイナーの違いもよく分かってない自分が説明するのも恐縮だが、厳しい出場条件をクリアしたツワモノたちが集う「年間最優秀選手決定戦」らしい。国内最高額となる4000万円(!)をかけ、30名のトッププロが争う国内最高峰の闘いである。なお、この日は最終日。優勝者が決定するということで、ギャラリーの数も特別多いようだ。
当日券もある
マナーが厳しい!
背筋が伸びる
観戦マナーについては、会場入口でしっかりと釘をさされる。他のどのスポーツよりも厳しい印象だ。さすが紳士のスポーツ。今一度、襟を正してまいろう
コース脇には屋台が並んでいる
味噌ラーメンがおいしかった
ちゃんと食事スペースもあります
コースの手前には屋台が並んでいた。他にも野菜の直売所、出場選手のグッズが当たる抽選会をやっている場所もあって、いたってのどか。コース上の緊張感とは対象的に、ここはお祭りっぽい雰囲気だった。
ちなみに、コース内は基本的に飲食禁止なので、食事はここで済ませておいたほうがいい。
他のプロスポーツ会場ではあまり見かけない野菜の直売
出場選手は30人。前日までの成績順に三人一組に分けられ、下位の組から順番にスタートする
現在どの組がどのホールをラウンド(※プレーヤーが各ホールを一巡すること)しているかは、コース前のボードで分かるようになっている
なお、僕が知っているゴルフのルールは主に以下の2点である。
・全部で18ホールを回る
・最終的に最も打数の少ない人が勝ち
以上。たぶんこの会場にいる誰よりもゴルフに疎い。こんなんで大丈夫なのか?
コース内は撮影禁止なので、今回観戦中の写真はいっさいありません
お目当ての選手のラウンドについていく
コースに出たら、お目当ての選手がいる組のラウンドについていくのが基本的な観戦スタイルのようだ。だから、テレビ中継されるような人気選手や上位を争う最終組のラウンドには、ぞろぞろギャラリーがくっついているわけだ。
一部のホールには観覧席が設けられているが、基本的にはコース脇の側道からプレーを見ることになる。一打ごとに移動しながら、その都度見やすい場所を確保するのはけっこう大変だ。
また、選手が移動するコース上は歩きやすく整備されているが、側道は起伏に富んでいたり、悪路だったりして、けっこう体力を消耗する。トータルの運動量はギャラリーの方が選手より多いのではないかと思う。
気を抜くとキケンな道もある。3回こけました
ただ、ゴルフ場は丘あり谷あり、景観的にも変化に富んでいるので、ハイキングだと思えばそれはそれで楽しい。じっさい、18ホールを回ると、かなりの達成感と心地よい疲れが味わえる。
ちょっとハードなハイキングをイメージしてもらえればと思います
もちろんプレーを観るのも楽しい。一流選手がドライバーをフルスウィングする迫力はしびれるものがあるし、群衆が固唾を飲むパッティングの緊張感と、それを見事に沈めた時の興奮は、現場でしか味わえないものだと思う。
また、18ホールを共に回ると、ホールを重ねるごとに選手への思いが高まっていく。各ホールで選手が味わう苦渋と喜び、その全てを共有することでどんどん感情移入し、心の底から応援したくなってしまうのだ。18ホールのストーリーをギャラリー全体で共有できるのがゴルフ観戦の一番の魅力なのではないかと、初心者ながらに思った。
白熱の優勝争いに密着
さて、僕が帯同したのは優勝を争う最終組のラウンドである。首位は宮里優作選手、3打差で谷原秀人選手、山下和宏選手が追いかける展開だ。なお、宮里選手はあの宮里藍選手のお兄さん。入場時に配布された手元の資料には、「アマチュア時代に数々のタイトルを獲得し、03年にプロデビュー。優勝は時間の問題と言われ続けながら11年が過ぎた未完の大器」と書かれていた。今回の大会も「30番目の男」としてギリギリ出場を決めたらしい。それがここまで見事に首位に立ち、初優勝に手をかけているのだ。なんとも応援したくなるではないか。
果たして優作選手は優勝できたのか? ここからは、ゴルフ中継風にお届けします。
2打差に詰め寄られて迎えた7ホール。谷原選手、山下選手ともにパーで終えるなか、優作選手は見事ワンパットで沈めてバーディー。3打差に突き放す
いきなりゴルフ用語全開ですみません。ゴルフにはホールごとに基準の打数があって、その打数で終えることを「パー」、パーを下回る打数でカップインすることを「バーディー」と呼ぶそう。
「呼ぶそう」って、そんなことも知らなかったギャラリーはたぶん僕だけだ。でも、無知だからこそスポンジのようにゴルフの知識を吸収できて楽しい。
ちなみに、ギャラリーの反応から察するに、こういうことらしい。
-2(イーグル)…超すごい
-1(バーディー)…すごい
+-0(パー)…ふつう
+1(ボギー)…残念
+2(ダブルボギー)…超残念
つまり、ゴルフでは数字が小さいほど偉いのである。へー。というわけで、(ゴルフを知らない方は)上記をふまえて続きをどうぞ。
いつのまにかスコアをつけながら回っていた。もう完全にハマっている
しかし優作、8番、9番、10番と3連続ボギーで2打差に詰め寄られる苦しい展開。迎えた11ホール。谷原選手がパー、山下選手がボギーをたたくなか、決めれば3打差となるバーディートライを見事に沈め、この日初めて小さくガッツポーズ
ギャラリーに溶け込むスーパースター
「ナイスバーディ!!」。心はもうすっかり優作選手の虜である。その時、ふと横を見ると、なんと宮里藍選手がそこにいた。おお、妹!
ゴルフ界のスーパースターが、一般のギャラリーと同じように測道を歩いて観戦しているのだ。宮里藍なのに! スターだろうと身内だろうと、コース内は選手以外立ち入ることができない聖域というわけか。
素晴らしいなと感じたのは、そんな藍選手にサインを求めたり、話しかけたりするギャラリーがほとんどいなかった点だ。ギャラリーにもギャラリーとしての誇り、プロ意識みたいなものがあるのかもしれない。もちろん写真を撮る人もいないし、選手が打つ時はピタっと動きを止めて静かに見守る。ギャラリーのマナーの良さも、日本最高峰の大会だったと思う。
迎えた最終ホール。この時、別組の呉選手が2打差で追いあげていたが、優作選手はここをボギー以上で終えれば優勝が決定。グリーン手前からの2打目がオーバーし、ピンチに陥るも、3打目をグリーン外から見事に沈めてパー。見事初優勝を決めた
優勝の瞬間、泣き崩れる優作選手。万雷の拍手で讃えるギャラリー。僕も思わずうるっときてしまった。
初めての観戦でこんなに感動的なシーンに立ち会えたのは相当ラッキーかもしれない。
その時、空にはいわし雲が。明日は宮里家の涙雨が降るかもしれませんね
最高でした
正直、これまではゴルフなんて地味なスポーツを観て、何が楽しいんだろうと思っていた。しかし、それは大きな間違いだった。
確かにゴルフは「静」のスポーツで、野球やサッカーのようにダイナミックなアクションはない。大声で選手を応援することも許されない。
だが、マナーという約束事を共有し、選手が集中してプレーできる環境をみんなで守る。そこには声をからして応援する連帯感とはまた別の、目に見えない素晴らしい団結があった。
そして勝者が生まれる瞬間、一気に喜びを開放するあの興奮は現場でしか味わえない。ゴルフこそ、ぜひ生で観戦するべきスポーツだと思います。