特集 2013年11月19日

博物館の人にどこがおもしろいのかきいてみる

アンモナイト博物館でアンモナイトどこがおもしろいんですか?ときいてみる
伊豆にはいろいろな博物館がある。たとえばアンモナイト博物館。

アンモナイト、おもしろいのだろうか。もちろんそれはおもしろいにちがいないだろうけど……地味じゃないか。それだけで博物館にしていいのだろうか。

どこがおもしろいんですかアンモナイト? 失礼を承知で博物館の人にきいた。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

伊豆高原らしいしゃれた家といった趣だが、よく見れば置き石がアンモナイトだったりする

伊豆高原にアンモナイト

これこれこうでと説明すると、どうぞどうぞこちらへと吉池館長の奥さんの悦子さんが案内してくれた。

名刺をみると伊東温泉おもてな師マイスターと書いてある。よくわからないが、さすがだ。
来るのはほとんどファミリーらしい。一家でアンモナイトか。渋い。
うわ~、大体巻いてる~
いい場所に恐竜の頭がある。アンモナイト、やっぱり地味なのかな……

家族でアンモナイトを見に来る

「ほんとは近くでアンモナイトが採れると一番いいんですけどね」

たまたま家があったことと、他に個人の美術館などが多いこともあってこの伊豆でアンモナイト博物館をやっているらしい。

客層はファミリーがほとんどで、マニアの人は一割くらい。「こんなにアンモナイト見るのははじめてだわ、といわれる方がほとんどなんですね」だそうだ。

そうか、もしかしたらこういう博物館の人って「どこがおもしろいの?」の相手ばかりしているのかもしれない。
これがアンモナイト。しかし体は想像でしかないらしい。

アンモナイトとは?

「アンモナイトって名前は有名ですが、ぐるぐるうずまきくらいの知識で止まってる方が多いですよね。あとは高校の地学の教科書で見たかな、くらいの」

ここから悦子さんによる「アンモナイトとは?」案内をしてもらった。ふだんもこれをするのだろう。以下はわかったことの箇条書き。

・アンモナイトは4億年前に出てきて6500万年前くらいにいなくなった。恐竜とほぼ同じ。人類との接点はない。
・アンモナイトは大繁栄して1万から2万種くらいある
・化石に残るのは硬いところだけなので、アンモナイトの殻が残る
・アンモナイトの体がどうなってるかはだれも知らない
・アンモナイトはイカとかタコの仲間、今だとオウムガイが近い
・なぜかというとイカと同じくちばしが出てきてるから
・アンモナイトは必ずしも渦巻きではない

化石に残るものって硬いところだけとかそのレベルから驚いてはいたけど、こういう話はたしかにおもしろい。しかしまだ概論。好きになるかはまだ早い。
アンモナイトは大体恐竜と同じくらいにいなくなった。大繁栄して1万から2万くらいの種類がある。

1.種類の多さ

この入門の話で一つ、趣味としてアンモナイトのおもしろさが出てきた。それが種類の多さ。1~2万種(※)もあればマニアが飽きることもないだろう。

しかもアイデンティティと思われていたうずまきでさえもなくなるとのこと。変化の多さとダイナミックさ。広く深い世界がこのぐるぐるにやっぱりあった。

※自動車とかよりも多いんじゃないの!?とおもったが、自動車はガリバーのサイトに載ってるだけで7万7千種あった。自動車対アンモナイトは自動車の勝ち。
これもアンモナイト。自由な形をした細長いものを(……うんこみたい)と思ってしまう我々の脳の愚かさよ!
洗濯機から汚れた水をどんどん排出してくれそうなアンモナイトたち

2.形のおもしろさ

そしてアンモナイト最大の強み。それはそもそもおもしろい形をしてるということ。

「造形として好きになる方はすごく多いです。デザイナーの方ですとか画家の方ですとか。

うずまきは安定感があって好まれる形だと思うんですね。時代文化とわず世界共通で。永遠につづくとか成長のシンボルとかいわれていますね」

デザイナーにアンモナイトファンが多いというのも"あるある"ならぬ"ありそう"度が高い。「へんな髪型した数学の先生はサイドカー乗ってそう」級の"ありそう"度だ。
アンモナイト断面図。体が入ってるのは入り口のとこだけで、あとは空気の部屋なんだそうだ。ぐるぐるは浮き輪だったのか。
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3.模様のきれいさ

形もおもしろければ模様も美しい。

「アンモナイトって磨くと模様が出てくるのが特徴なんですけども。縫合線と呼ばれています。よく見ますと菊の葉っぱのように見えると思うんですけども、昔の人は菊石と呼んでいたんですね」

たしかにおもしろい。複雑なのに幾何学的だ。じっと見てると、洗濯機が回る様子を見てるときのようなヒマつぶしになる。

もし私が幽閉されることになったら、壁にアンモナイトが埋まってるといいなと思う。
たしかにじっと見てると2時間くらいつぶれるおもしろさがある。そういう意味では文庫本代わりに電車の中にアンモナイト持ち込むという手があるかもしれない。

4.手に入れやすさ

そして趣味として成立させるにはコレクションできないといけない。売っているということも重要だ。

「海外はマーケットがしっかりしてるので集めやすいですね。見本市とかありますので。

マダガスカルとかモロッコは一大産地で世界中に輸出されるんです。それこそ産業のように」

そもそも海外ではアンモナイトがもっと身近で人気もあるらしい。

「ヨーロッパは伝統的にこういうものを研究してきた歴史がありまして、むこうだと化石がもっと身近な存在なんですね。イギリスだと遠足に化石をとりにいこうとかあるようです」

アンモナイトの本場、イギリス。魚とポテトを揚げたもの片手に、潮干狩り感覚でアンモナイト手に入れているようだ(想像)。そら勝てないわ。勝負などしていないがそういう気持ちにさせられる。
「三葉虫もたくさん採れるというのもあって欧米では人気なんですね。 三大化石と呼ばれてるのはアンモナイト、三葉虫、鮫の歯。三代古代生物だと、アンモナイト、三葉虫、恐竜ですね」 アンモナイトも三葉虫もそのレベルなのか。恐竜と並んでるぞ。

5.「ネアンデルタール人もあつめてた」歴史の深さ

海外人気もそうだが、そもそも人とアンモナイトは歴史も文化的側面も深い。同時代にいなかったのに。

「大昔の人は不思議な石としてお守りにしたり、イギリスなんかですと魔女がヘビを石にしたものだと考えてたり。

ネアンデルタール人も集めてたという記録もあるようです。日本でも北海道ですかね、弥生時代のアンモナイトのペンダントが出土しているとか。

時代とか問わずそういうものを集めたい人はいるようですね」

あの、である。あのネアンデルタール人もか。「秀吉も愛した茶器」レベルではない。「ネアンデルタール人も愛したアンモナイト」なのだ。
「鮫の歯って人気あるんですよ。これも種類たくさんあって。昔の人は天狗の爪じゃないかといったりしますよね」 鮫の歯と三葉虫とアンモナイト、なんかアンバランスじゃないか。一つだけ歯だ。

6.自分で掘れるおもしろさ

そして日本のアンモナイトのおもしろさの一つに「自分で掘れる」というのがある。収集にはない行動的なおもしろさだ。

吉池館長はなぜアンモナイトを好きになったかを語る。

「ぼくね、もともと化石が好きだったんです。アンモナイトが好きになったのは、日本で採れるんですよ。北海道とかね。ほんとは恐竜とかがいいんですけどね。恐竜とかは大学の研究チームとかでないとできないですしね。

一人で集められるってところがいいところというか、集めやすいところですね」

ほんとは恐竜というのも正直でびっくりしたが、たしかに自分の手で発掘できるおもしろさは格別だろう。
化石から石をとりのぞくクリーニング体験が人気。「毎年夏休みになるといらっしゃるとか、意外とここはリピーターが多い施設なんです」そうなのか!

日本の化石ファンがアンモナイトに流れる

「日本で化石好きな人はアンモナイトいく人多いですよ。日本で採れますからね。北海道は世界的にアンモナイトの産地なんですよ、とくに異常巻きの」

なるほど、恐竜ファンは多いがそこから化石好きに、そしてアンモナイトに流れていくのか。

だんだんわかってきた。アンモナイトファン、それは多いわ。そりゃアンモナイトで博物館作るわ。
異常巻きの王様、ニッポニテス。北海道で採れるマニア一番人気の品。たしかに異常だが、これが王様か~。

最近の子供はいきなりアンモナイト

途中、子供が声をあげて入ってきた。「アンモナイト~!」「アンモナイトここにもある~!」と男の子と女の子がかけていく。

「ちょっとそれ見るだけにしとこうかな~!」と博物館側も大あわてだ。これが対ファミリーの大変さ。

しかしこの子たちはアンモナイトと「ハイチーズ!」とやってて渋い。きみたち、菊石と呼ばれてるんだぞこれは。

「最近はこどもチャレンジとか知育雑誌でアンモナイトの特集をくんだりすることもあるらしくて」 ときく。恐竜をとおらずに直にアンモナイトにいくらしい。

いきなりアンモナイト。安い深夜番組のタイトルのようだ。
女の子がなにか泣いてるなと思ったら「買えないのなら来ないほうがよかった」と泣いて訴えたらしい。その後ちゃんとアンモナイトを買ってもらっていた。女子はすごい。アンモナイトでさえものにする。

ヘラクレスオオカブトはどれですか?

――子どもたちにもキャッチーなものってどれですか? ヘラクレスオオカブトとかティラノサウルスみたいなエース格は?

「さっき見せたニッポニテスというのは花形といえば花形なんですけど、マニアの間でですよね。

そういわれたら考えたことなかったですよね……館長!」

館長「なにかな~。何をみるのかな。ペリスフィンクテスとかを見るのかなあ」

あのマダガスカルでたくさん採れるやつが、エース格なのか。
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これがヘラクレスオオカブトやティラノサウルスのようなエース。ペリスフィンクテス

これがザ・アンモナイト

「これですね。よくホワイトアンモナイトなんていわれてるんですけど、磨いたりとか加工してないんですけど、すごくきれいですよね。

いわゆるザ・アンモナイトですね。資料提供求められたときもこれを出してます。

これはほんと好きで。素朴だけどきれい、というところが私はとても好きですし、標本というのはあんまり磨かないほうがいいですね。磨くときれいにはなるんですけども」

これがティラノサウルスのようなエース。たしかに独特の色をしている。磨いてピカピカにしたものは他にもたくさんあるが、本来の魅力ではないのか。

これがエース、じっと見ているとアンモナイトの世界の扉が開きそうではある。素朴? 素朴か、素朴かも。うん、いい……かもしれない。
石がついたものがいいという

博物館の人のおすすめをきく

――みなさんはどれが好きなんですか?

「夫はやっぱりニッポニテスが好きだと思いますけど……私はどちらかというと石についてるものが好きです」

――石についたものですか?

「これなんか好きですよね。素朴ですよね。石も形も好きですよね。自然の状態であるっていうのが好きです」

悦子さんのおすすめは石にまだ埋まってる状態のアンモナイト。さあ、わからなくなってきました。
奥さんの悦子さんは結婚してからアンモナイトを知ったので「マニアではない」という。好きなアンモナイトは石つきのもの

「型がいい」らしい

その後も悦子さんは止まらない。

「あと個人的にほんとに好きなんですけど、本体が雄型、とれたものが雌型っていうんですけども、セットになってるものが、これがですね、私はとても好きです。型が好きなんですね。型が好きです(笑)

両方きれいな状態でこれが出るのは少ないんですね。たいていどちらか割れてしまうんですね。とれた雌型も化石なんです」
悦子さんは雄型と雌型がセットになったものがいいらしい

マニアではないというが

ずっと丁寧にせつめいしてくれていた悦子さんだったが、このときばかりはせきを切ったようにドドーッと思いが吹き出した。

「型っておもしろくないですか?お菓子の木型とかも好きなんですけど、おもしろくないですか?反対側もこんなにきれいなんだって。しかもマニアの型は見向きもしないっていうのが。私は絶対あったほうが、唯一無二というか、お互い唯一無二ですし、揃ってるとうれしいですよね。すいません(笑)」

勢いあまってあやまられてしまったが、型のよさに共感できるかどうかはおいておいてとにかく圧倒された。この何かみょうにいいこときいた感じはなんだろう。
ずっと丁寧に説明してくれてた悦子さんがあわてたように

館長のおすすめ

悦子さんが「あっちはマニア」という館長にもきいてみる。

「ぼくはこれ好きですよね、自分で見つけたやつ」そう言う館長が指さすのは入り口に一番近いキャライコセラス。特大のやつだ。
館長おすすめは一番見やすい場所にあったもの
でかいアンモナイトだが、自分で見つけたものだそうだ

じわ~っとにじみでるよさ

「まわりは石がついていて、見つけたときは重たかったですね~。当時、北海道で林道を作ったんですね。そのときに崖でボコっと一部見えてまして

やっぱりこういうのは自分で見つけると愛着がわくというかプロセスがわかりますので。プロセスがおもしろいですよね、自分で見つけるっていう」

このとき館長の表情がうわーっと思うほどやわらかくなっていって、たぶん脳には"うれしくてしょうがない汁"みたいなものがじわじわにじみ出てきていたのだろう。

好きな人がかたる好きなものというのはこっちまでなんかうれしくなってくるというか、おっさんの顔をさしていうべきことではないが、ちょっといいものだなあと思う。
いや~、しあわせそうでこちらもいい気分です
「でも今はもうないですね。北海道でアンモナイト掘ってる歴史が100年くらいで長いっていうのと、今は公共工事が少ないんですね。トンネル工事のときが一番出たっていいますね。

だからこういう大きなものはもう、見つからないですね」

この先これ以上のことはないだろうと、館長の語り口は自慢のようでもあるしさびしそうでもあるし。いや、物自体の話はおいといて、今ここにはなんというか豊かな時間が流れている。
掘り出したときの写真を見せてくれた。うんうん、いいよいいよ~

打ち上げだ、これは打ち上げが必要だ

「でもやっぱり形がね~、やっぱりね~、自然が作る形のなかで普遍的なおもしろさがありますよね~」
「私はもう圧倒的に形ですね~」

やっぱりアンモナイトの形がいい。二人の声がコーラスのようにかさなっていって最終的にはアンモナイト最高みたいな、このあとちょっと打ち上げいこうみたいな空気さえただよった。

その後、もちろん打ち上げはなかった。
「やっぱり形がね~」「私はもう圧倒的に形ですね」アンモナイト愛がステレオになってあふれだします

取材協力

伊豆アンモナイト博物館
http://www.ammonite-museum.com/
静岡県伊東市大室高原10-303
TEL&FAX 0557-51-8570

博物館の人にどこがおもしろいのかきくといい顔することがわかった

マニアの人の顔が破れて笑いがこぼれてくる瞬間のさわやかさよ。どんな内向きなコレクターでもコーラのCMのようになる。

こういうのもアリではないか。

博物館にいって「これっておもしろいの? おもしろくないの?」と自分の中で答えを出すのではなくて、博物館の人に好きなことを語ってもらう、ただそれを楽しむだけという形もあるのではないかとちょっと思った。

これを読んで「これって良記事なの? 良記事じゃないの?」ということは置いておいてですね(ところで良記事って何?)、伊豆の博物館でアンモナイトのよさをきくの、よかったな~。
化石クリーニングの品を記念にいただいた。「ダメシテスですね~」ダメ……ここからはじめようと思った
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