まつたけ、ちゃんと食べてみたいなあ。
そう思っていたら、長野県上田市、まつたけの産地に、
秋の間だけ、「まつたけ小屋」というのが開店する、というのを知った。
まつたけ小屋……!
まつたけ! 小屋……!
海の家みたいな、簡易的な施設で、地元・国産まつたけ料理を出すんだとか。
上田に、11軒だけあって、事前予約しないと、入れないという人気スポットなんだとか。
私は人気の小屋に、一ヶ月前から予約を入れた。どの週末も混んでいて、昼12時頃は満席だったので、とある土曜日の14時になんとか席をとった。
都内から、車で4時間。
私と、同行してくれた友人Tさんのテンションはマックスであった。
まーつたけ!
まーつたけ!
まつたけを食べに行くためだけに出かける! なんて贅沢なんだろう。
さて、まつたけ小屋、
ものすごい山の中にあるのかな? と漠然と思っていたのだが、そんなに奥地ではなかった。
この山の中にまつたけが生えるのか……と思うと、ときめいたりもしたが。
本当に海の家っぽいつくり。
コース料理で注文する。
私たちは一番安い松コースと、2番目に安い茸コースを注文。高額コースと違うところは、「焼きまつたけ」が、あるかないか。
おかわり自由! なんとゆたかな気持ちになる言葉。
予約の時間より早めに着いてしまったので、ぼやーっと待っていたのだが、
待ち合いスペースの隣で、まつたけの販売をしていた。
まつたけ、無造作に置いてある。
俺のまつたけ……。
ああ、長野産まつたけ。新宿伊勢丹で買ったら、おいくらくらいになるのかしら。見当もつかないわ。
ちなみに値段をきくと、8千円で3本とか、そういう感じであった。
デパートで買うよりは安いけれど、そんな激安ではないような。
席があいて、中に通された。うーん、本当に海の家みたい。
でも海の家と違うところは、波の音がしないこと。
波の音がしないと、間が持たない。
遠くでラジオの音が聴こえる。
お客さんは、「行楽!」という感じでもなく、ボンヤリとしていて、口数が少なかった。
混み過ぎていて、料理が出て来るのが遅く、
コース料理なのに、料理と次の料理のタイミングが、スムーズではなかった。
全席が、若干、「うーむ」と思っているようであった。
しかし、「まつたけを食べる」という一大イベントを、
楽しい思い出にしたい一心で、なんとかこらえている感じ、というか……。
「ねえ、『おいしいー!』という声が聴こえてこないね…。」と、小さい声でTさんが言った。
く、口に出して言わないで。
まつたけごはんは1000えんでテイクアウト可能。
いろんなメニューがございます。
隣席の老夫婦が「姿焼き」をオーダーしていた。
店員さんに「手で割いて焼いてください」と言われていた。
「おまえ、ちゃっちゃと適当に割きなさい」と、旦那さんが奥さんに指示していた。
焼きまつたけという、最初から切ってあるメニューは、別にあって、姿焼きより、2000円ほど安い。
それなのに。
「まつたけ丸焼きドリーム」は、果たされていなかった。
うーむ……。
土瓶蒸しがきた。
固形燃料で、土瓶蒸しをあたためる。
「間が持たないよ…。」と、Tさんはノンアルコールビールをガブ飲みし出す(運転手だから)。
あったまった土瓶蒸しは、大変に美味しかった。
香りが胃にしみた。
うん、これは、いいよね、これはいいよ。これはすごく美味しかった。
次に出て来たのは、まつたけの鍋、なぜかすきやき風。
「まつたけを食べるのに、なぜに、すきやき風なんだろう……。」とTさん。
確かに、香りを生かした調理法じゃないのね……。
なにしろ「小屋」なわけだから、高度な技術を期待してはいけないし、
「雑に食う」ところがポイントなのだろうが、
やはり、無造作に乗っけられたまつたけを目の前にすると、「なんかほかの味付け法はないのだろうか…」と考えてしまうのだった。
こんなにまつたけ乗ってるのに!!!!!!!! まつたけだけタッパーに入れて持って帰りたい!
これ、卵につけて食べるの、なんかもったいないの……。
しかしこの鍋、味は普通に美味しかった。とくに鶏肉! 地鶏でも使っているのだろうか?
まつたけをかじる時、「まつたけの味って、どんななのか?」と、一生懸命、舌に集中した。
けれど、香り以外は、くせのないキノコ……。
シイタケの軸にちょっと似てるかも……と思ってしまった。
に、似てません?
うどんも出て来た。とにかくお客をおなかいっぱいにさせる、というのがコンセプトなのかもしれない。
ああ、こんな、まつたけのでっかい天ぷら、人生でもう食べないんだろうな。
うん、まつたけの茶碗むし、おいしいね。
まつたけの茶碗蒸しに、シイタケが入っていた。
かじってみて、驚いた。
シイタケ、味濃くて美味しいーーー!
って、え、この期に及んで、シイタケが美味しく感じる、って、なんかくやしいー!
大変に、複雑な気持ちに。
最後のシメは、まつたけごはんと、まつたけのお吸い物で。
帰りの車中。
反省会開催。
「食べてみて、どうだった?」
「うーん、まつたけへの幻想がなくなったというだけでも、良い経験だったと思う!」
「どれが美味しかった?」
「土瓶蒸しかなー。
あれだね、まつたけは、秋に、料理屋さんで、ちょっぴり贅沢して、土瓶蒸しだけ頼んで、ああ季節の香りだねーって楽しむのがいいと思う。」
「確かになー。」
「最初、実家の親に、まつたけ配送しようと思ってたけど、途中で買う気なくなっちゃった。」
「レジの人が、金のネックレスしてたよね。あれは演出として良くないんじゃないかと思うんだけど。」
「演出として、ね……。」
「あとさあ、永谷園のお吸い物、いいセンいってるよね。」
「本物は、あれよりサッパリしてて、後味がスッとしてるけど、いい再現率だよね。」
「永谷園再評価、ということで。」
「永谷園バンザイ!」
後悔はしていない。誰かを非難するつもりもない。
しかし、国産まつたけ1本半ぶんくらい食べたら、見えて来る風景があったのは確かだーー。