テレビでよく出る、激辛商店街が気になっていた。
港区の、芝商店街。
オフィス街にかこまれて、ぽこっと残ってしまった、古い商店街だ。
そこが、町おこしで、「いろんな店で、辛いメニューを出す」というのをやっているという。
使っているのは、世界最強のとうがらし、ブットジョロキア(現地名、幽霊の唐辛子)。
一般的なタバスコソースは2,000~5,000スコヴィルだけど、ブットジョロキアは100万スコヴィルの辛さだとか。2000と100万じゃすごい違いですよ。すさまじい。
インドでは、畑を荒らす野良ゾウを撃退するために、ブット・ジョロキアをすり潰して柵に塗ったり、するらしい。ゾ、ゾウ避けですよ、ゾウって…。
そんなトウガラシを、レポーターやタレントが「わー、辛いですねー」と言って食べているのが…気になった。
実際、どのくらいのものなのか……興味深いじゃないですか。
私は、横浜中華街最強の辛さを誇る、『景徳鎮』のマーボー豆腐だって好きだ。
辛いものは比較的、平気なほうだから大丈夫……と思って行ったのだが。
店を通りかかると、こんなふうに、激辛メニューの紹介が貼ってある。
私と、同行してくれた友人Tさんは、まず中華料理屋の生駒軒へ。
こじんまりした、すてきな中華屋さん。
店頭にあるアナログなつぶやきがかわいい(このつぶやき、他店舗もやっていた。町おこしの一環?)
さて、頼むぞ。コップ1杯、生ビール100円っていうのが、いいね。
「ここは『キケン』の4、5辛を食べてみない?」と言う私に、
Tさんは、
「いや、『ヒーいたい』の3辛にしておきましょう」
と言うのだった。
ネタ的にそれは弱いんじゃないか? と思ったけれど、
次の店でもっと辛いの食べればいいか、と思い、3辛を頼んだ。
ゲキ辛タンメンだけ、個性的な書き文字。
つきだし。
タンメンを待つ間、おつまみセットを食べた。普通に美味しい! とくにチャーシュー絶品!
ああ、このまま、のんびり中華おつまみでビール飲んでいたいなあ、と思ったころ、激辛タンメンは来てしまった。
見た目が、ほとんど辛い感じがないのよね。
しかしもう、匂いが……!!
湯気吸い込むだけで,
カライ。
Tさんと取り分けて食べたのだが、Tさん、ぶぼぼぼぼっと吸い込んでから、目を見開いて、身体が停止。チーン。
え、すぐに撃沈!?
私もおそるおそる食べてみる。
麺を吸い込もうとしたら……ゲフゲフゲフッ。辛さで喉がやられた。
息を止めて、麺を口に入れる。
………わあああああ~。
うわあああああああ~。
あああああああああ~。
辛っ、っていうか痛い!
口の中すべてが熱を持って、ほんのり痛い。
粘膜が、口の粘膜が、あああああ…。
っていうか、口が閉じられない。口を開けて冷やしておきたい。
カルピスの原液でも口にふくんでウガイしないと、口がフォロー出来ない、カルピス原液が欲しい、と本気で思った。
それでも、食べ進めると…。
はなみずと涙と汗と……顔の穴という穴から液体が出る…。
ハンカチとティッシュでぬぐう。
そして、喉も、胴体もブワーっと熱くなってきた。胃というか、内臓全体というか。
これ、食べきったら痩せる気がする…。
完食しないのは失礼だろうと思ったのだが、どうしても食べられなかった。情けない。
店員さんは、
「食べきらなくても、ぜんぜんかまわないですよ~」とニコニコしていた。
普通のお客さんは、どのくらいの辛さを食べるんですか? ときいたら、
「美味しく食べたい方は、1辛か2辛くらいですね~。」とのこと。
ちなみに3辛とは、コーヒースプーン3杯のジョロキアが入っている辛さ、だそうだ。
え、コーヒースプーン単位で入れてるの。
通販では、10グラム500円とかで、売ってるスパイスなのに、ゴージャス。
でも、そりゃあ、辛いですよね。
2人して、あまりの激辛ショックに耐えられず、思わずドトールに飛び込み、ケーキを食らう。ケーキって甘くて最高。
「もしさ、凍え死にそうになったら、ジョロキアなめる?」「わからん。究極の選択だねえ…」と、しょうもない会話をする。
さて、小休止したあとは、
芝の鳥一代、という、有名サムゲタン屋さんへ。
ここにも激辛メニューがあり、テレビにもよく出る人気店らしい。
先日は韓流アイドルの罰ゲームに使用されたらしい。
激辛つくね。タンメンがあまりにも衝撃だったので、普通に食べられたが、それでも相当辛い。
そして、サムゲタンを食べることに。
しかし、Tさんと、緊急会議。
「5辛が最大だけど、ジョロキアがコーヒースプーン5杯入ってるんでしょ? きっと。」
「さっきみたいに、残しちゃったら、嫌だねえ。」
「食べ物に申し訳がないよねえ。」
「……。」
「……。」
「どうしようか。」
「どうしましょ。」
「5人くらいで来てたら挑戦出来たけど…。」
「わたしら2人じゃキツイよねえ。」
「……。」
「……。」
「……もう、無理するの、やめよう…。」
「美味しく食べよう。1辛、1辛で!」
腑抜けの私たちは、1辛をオーダー。
わー、これがジョロキア入りのサムゲタン!?
と思ったら、別盛りで出て来ました。
普通のサムゲタンを食べたら………。
すごい! 夢のように美味しい。
何て言うの? 方向性としては天下一品のスープみたいなんだけど、あんなにしつこくなくて、スッとしていて、でもうまみが凝縮されていて、いつまでも飲めるような、極旨スープ……絶品。
骨もやわらかい。噛むと全部ほろほろ崩れていく。すごい。
Tさんから、ジョロキア鍋入れ禁止令、発動。ダメ、ゼッタイ。
仕方なく、取り分けた小皿でジョロキア入れて食べてみましたが、やっぱり普通のサムゲタンのほうが美味しい…。
というわけで、雑炊にして、最後の一滴まで楽しみました。
店員さんに、「みなさん、激辛メニュー頼まれるんですか?」ときいてみたら、
「遠方から来るお客さんは、5辛を頼んでいきますね~。
完食された方もいますよ。
夕食時は時間制限がないので、無理して、長時間かけて食べるお客様もいますね…。
見てないうちに水を足してしまったりね。」
と、苦笑いされていた。
キッカケは、ジョロキアでもいい
帰宅してから、ジョロキアのことを詳しく調べると、みなさん、酢漬けにしたり、油漬けにしたり、味噌にしたり、「風味付け」に使っている感じだった。
粉をドバーっと入れるのは、辛いものマニアの方ばかり…。
ガスマスクしながら調理したり……もう、そりゃ、大変なのだ。
あれを普通に食べられる方は、特異体質というか、舌に才能がある方だけだと思う。
ああ、芝商店街。辛かった。
でも美味しい中華屋さんと、美味しいサムゲタン屋さんに出会えたんだから、結果オーライと思いました。
そしてテレビのレポーターさんやタレントさん、激辛メニューを本気で食べているとしたら、本当に偉いです…。
食べられなかったジョロキア、ティッシュに包んで持って帰ったんだけど……。どうしよう。ちょっとした武器だよね、これ。