特集 2013年3月26日

本当に吹いた景色を記録する装置

これが笑える景色を捕獲するツール
2月にヤフー株式会社が主催するOpenHackDayというイベントに参加した。24時間でウェブサービスを作る合宿のようなイベントだ。

サービスを作る側として参加して、さらに審査員としても参加した。自分たちが作ったものは微妙で会場の失笑をかい、それでいて人に賞をあげるという説得力ゼロな状況になった。しかしそこで天才を発見したのでデイリーポータルZ賞をあげた。

賞品はデイリーポータルZでステマする権だったのだが、うーむと唸る作品だったのでステマじゃなくて正面から紹介したい。
1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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> 個人サイト webやぎの目

笑った景色を保存する

作品名は「吹至多三十六景(ふいたさんじゅうろっけい)」。実際に吹いたものを記録する装置である。ネットで「吹いた」という表現はよく見かけるが、書いている人は真顔である可能性がある。そのズレを解消する装置がこれである。
これが装置の全景
口元にプロペラがついている。なにかを見て吹き出したときにこのプロペラが回る。
プロペラが回ったタイミングでヘルメットについているカメラが映像を記録する。
アニメーションGIFで記録されて数秒間の動きが記録されるのだ。

これが記録された映像。
笑ったシーンがたまってゆく。
これがあればおもしろサイトがいくらでもできてしまうのではないか、そういう下心もあってのデイリーポータルZ賞である。

作った人たち

作ったのはユニット名「飛んで火に入るかぶとむし」の5名。
全員ヤフーの社員である。爲房新太朗さん、中山亮介さん、堀江亮介さん、川崎結花さん、浦添詩織さん。全員入社2年目の同期。若い。
なんだかさわやかじゃないですか
――― ふだんの仕事はこういうのではないんですよね。
「はい(即答)」
たしかにヤフーのサービスを見ていても頭にプロペラがついた人は出てこない。

このチームが前回のOpneHackDayに出したのはfacebookで友達をふやす装置。これもどうかしていた。
見たからにおかしい
ルーレットに書いてある条件にあてはまる人を友達の友達から探してきて、勝手に友達申請してしまうのだ。

「フレンドパークみたいにルーレットをまわして自動的に申請してしまおうと思って」
あの「パージェーロ パージェーロ」のノリで友達が増える。なんでフレンドパークなのか分からないけどおもしろそうなことは確かだ。

ただ、facebookもさるもの、自動で友達申請ができないよう、画面をクリックしないと申請ができない仕様になっているのだ。
「友達になる」というボタンをクリックしないといけない
「クリックを越えなければならないので、物理的に越えました」
パタンと棒が降りてきてクリック
もういちど
パタン・パタンと上から二本の棒が降りてきてボタンを押すのだ。

「Facebookがちょっとデザイン変えたらおしまいです。」
実際にこれを動かしてCEOに友達申請したそうだ(承認されたとのこと)。
打ち合わせデスク上でのルーレットの存在感
「シャイで友達申請できない人が申請する、というコンセプトです。」
とのこと。なんとなく申請していいのかどうか迷う、というFacebookの機能のすきを埋める装置(棒)である。

ちなみにこの作品はもう動くかたちで残っていない。次の吹至多三十六景の部品になっているからだ。電子工作の部品は自腹のため前回の作品をばらして使い回している(つつましい!)

どうやって作るのか

作品は2週間ぐらい前から集まってブレストをして決めて、やっぱりと白紙に戻したり、また決めたりを繰り返しながら作っていくという。その感覚は大いに分かる。

もの作りの最大の敵は作ってる最中の「これもしかして面白くないんじゃない?」というささやきである。振り向いたら石にされるぐらいの声だと思う。
装着にちょっと時間がかかる
「OpenHackDayはどう考えてもサービスにならないものを作ろうと思ってます。ブレストのときにまともなのが出ると、どうしよう、役に立っちゃうみたいなことを言ってました。役に立つのやめよう、というつもりで」

そう、ふざけた企画を考えていても気づくとまじめなことを言っているときがある。まじめの引力と呼んでいるがいったいあれはなんなのだろう。人間はほっとくとまじめなことを言ってしまう動物なのではないか。

実践投入

吹至多三十六景を持ち出して本当に面白いものを探してみよう。と思ったがAC電源がないと動かないらしい。そ、そうか。

そこで急遽カルチャーカルチャーで審査員をしてもらうことになった。
こういうことに
ちょうど3月9日にGIFアニメーションアワードの公開審査会・表彰式があったためチームを代表して爲房さんに特別審査員として参加してもらったのだ。
一定の笑いを越えると頭上のランプが光るようにバージョンアップされていた
視線はスクリーン固定
吹至多三十六景があれば審査員がどの作品で吹いたのかが一目瞭然である。審査のメモを取る必要がないのだ。

そのため爲房さんはひとりだけスクリーンを向いたままの姿勢で審査に臨んだ。途中でよそ見することも許されない。夢の発明のわりに制限が多い気がするが気のせいである。
笑いのピークがわかるグラフも新装備
客席に背を向けたままコメントする
コメントでシリアスなことを言っても笑ったグラフが表示されて、身体は正直じゃのう状態になっていた。そして爲房さんが選んだのはこの作品。
作者:おぎすさん 作品名 「あれ、これ白米だよな」
この吹至多三十六景があればオンエアバトルもボールを転がさなくていい。ネットに繋げたらいちばん吹き出されているテレビ番組がわかってしまう。

視聴率のかわりに吹き出し率なんてのもとれてしまう。ただし画面をじっと見てないといけないのけど。

ヘッドマウントすると木訥になる

吹至多三十六景のいいところはヘルメットにいろんな装置をつけているところである。この見た目のこんもりした感じ。朴訥である。

テクノロジーと朴訥さを両立させるのはヘルメットにいろいろつけることだと思う。
ただ単にバラエティ番組でジェットコースターに載せられる芸人っぽいからかもしれない。
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