充填という唐突さを改めて味わいたい
みなさんはどうだろう、私はずっと豆腐の「木綿」、「絹」に次ぐ「充填」という呼び分けに驚き続けている。
まず絹と木綿である。ご存じのとおり、本来は布の名前だ。そこへきて急に「充填」なのだ。
これが充填豆腐。型に入れてから固めて作られる。木綿や絹とは確かに様子の違う豆腐だが、だからって「充填」って
木綿、絹、充填。……充填?! と、私は頭の中で常々二度聞きしてしまう。
同じ豆腐なのだから全て布の名前で統一せよとは言わない。しかし「充填」って言ったら辞書的には”(スル)”って書いてあるやつである。サ変動詞だとあった。名詞ですらないのだ。
言葉としては「木綿を充填する」「絹を充填する」といった使い方もできるわけである。危険すぎるだろう。
モノで見てみよう。木綿(左)、綿(右)そして並べるにしてもそしてどうしていいか分からず、瓶に水を充填したものを用意した、充填(奥)
写真を見てわかるとおり、一部唐突に脈略のない3品が、豆腐界では同じ豆腐であるとされている。どうだろうこの軽やかなるルール無視は。
充填豆腐って絹こし豆腐じゃないの
ここまで読んで、あれ、充填豆腐って絹ごし豆腐と同じじゃないのかいと思われた方もいるかもしれない(そもそもそんなことあまり考えずに食べますかね)。
確かに食べてしまえば口当たりは絹と充填ではほとんど同じだという商品は多い。充填豆腐は名称を「充填絹ごし豆腐」ともすることもある。
このように
充填豆腐は売り方としても、私は絹ごし豆腐ですよという顔をして売っていることはよくあることだ。
スーパーなどではよく「絹」と「木綿」が同ブランドで展開されていることが多いが、そのうちの「絹」が実は「充填」である、というパターンも多い。
味や食感さえ絹ごし豆腐と同じならば、本来は充填豆腐でも絹ごしと名乗ってもたいした問題ではない。消費者としても同感である。
ややこしさに大興奮
一方、充填豆腐と絹豆腐をブランド内で分けるパターンも見受けられた。こちらはなんだかややこしいことになっている。
同一ブランドでも充填豆腐は「絹とうふ」、絹ごし豆腐を「手造りにがり絹」と表現
充填豆腐を「充填豆腐」として売ればいいだけの話なのに、それをぎりぎりで避けるからこんなややこしいことに! もうっ!
と、豆腐好きとしてはこのややこしさにも大興奮なのである。
充填豆腐の自由度の高さ
さて、充填豆腐が木綿豆腐や絹ごし豆腐と違う最大のポイントは「型に流してから過熱して固める」というところだ。
去年話題になったザク豆腐のような、形に特徴のある豆腐は充填豆腐だからこそできたわけだ。
最初に型に入れるということで自由度が上がっているのか、形はもちろん充填豆腐の世界はかなり自由なことになっているようだ。
ゆず豆腐や枝豆豆腐といったフレーバー付きの充填豆腐もたくさんみかける。
ごま豆腐といえば片栗粉などで作るいわゆる豆腐とは違う食べ物だが、豆乳を使って豆腐の製法で作られたごま豆腐も登場しておりもうやりたい放題である。
ついにはこんな商品も飛び出した。
京都ふわふわスイート。何だろうと思うだろう、豆腐なのである
スイーツのようでそのまんま豆腐
さきほど栗風味の豆腐をご紹介したが、こちらは豆腐である。ババロアのようなゼリーのような形をしているうえに「スイート」とある。が、甘くはない。ただただ、豆腐なのだ。
パッケージには従来の冷奴のように薬味を乗せるだけではなく、ジャムや黒蜜などをかけて食べてみるよう提案されている。そう来たか。
シロップをかけてみた。豆腐とは言わせない風情
豆腐好きの間で豆腐をデザートとして食べる文化は以前からあったと思う(そうなんですよ)。しかしそれが商品化される日が来ようとは。結構マニアックな味だぞ。
このように充填豆腐は自由を謳歌しすぎる一面もあるのだ。
自由な豆腐といえばトリッキーなネーミングの商品を次々市場に投入する「男前豆腐」(スイーツ系の豆腐も充実)だが、いかんせん商品が多くて今回は追わず
素材や用途で押す
充填豆腐という誇りを捨てて「絹とうふ」や「おぼろ豆腐」「寄せ豆腐」を名乗ったり、かと思えばスイーツですよと言ってみるなどおおらかといえば聞こえはよいが豆腐界の邪道、汚れ役を一手に背負うともいえる充填豆腐。
そんななか、なんとか正攻法でいこうという頑張りが見える商品もあった。
なるほどの豆押し。
さらにストレートに素材を打ち出さず、「用途」を立てて脇からスッと商品棚に入り込むというやり方も充填豆腐界ではよくあることのようだ。
「絹ごし」、「木綿」にあって「充填」という言葉にないもの、それはもう風情の一言につきる。
そこを「鍋とうふ」、「湯豆腐」である。急に風情が出た。充填豆腐の生きる未来としてこれは限りなく正解に近いのではないか。
「変な名前」という生き方も
と、一応のアンサーは出たように思うのだが、そこに収まることなくわが道を行く商品名もあった。
とうふ家族
家族。
4連であることからの発想だと思うのだが、ここまでの流れからの展開としては心地よい意外さである。
別のスーパーでもうひと家族見つけた
そして平安時代へ
いろいろと充填豆腐を見てみたが、どれだけ店を回っても新しい商品が見つかる。無限豆腐だ。どのあたりで引き上げようかと引っ込みがつかなくなっていたときに見つけたのがこの豆腐だった。
これを見て、ああ、これで終わりにしようと思えた。
平安京600
平安京600。ネーミングセンスとしてはスーパーカミオカンデ以来のかっこよさである。
豆腐が文化として定着したのが平安時代後期だそうで、そんな京都のメーカーが作った600グラムの豆腐。だから「平安京600」と、言ってしまえば普通のネーミングかもしれないが、それだけじゃないパンチだ。
600って。新幹線か。
ただぼんやりと木綿豆腐、絹ごし豆腐を名乗ってはいられない充填豆腐の本気を見させていただいたのだった。ありがとうございます。
おまけ・ホットケーキには充填豆腐がおすすめ
さて、パッケージの研究ばかりで完全にスルーしてきた肝心の食べ方であるが、充填豆腐はつぶしてなめらかにするのが楽なのでホットケーキやお好み焼きに混ぜるのにすごく向いているのでひとつおすすめしたい。
特にホットケーキは粉に粉の倍の重さの豆腐と卵を合わせて(混ぜすぎないように注意)焼くとかなり高さが出ます。牛乳は使わなくて大丈夫。
単純に生地がかたくてだれずに焼けるので高さが出るだけかも
ふわふわです
さらに種にマヨネーズを少量入れるときめ細やかに!(焦げてますが!)
次の「携帯」はお前だ「充填」
充填豆腐というとここ10年くらいでぐいっときたように思っていたが、60年代後半にはすでに出始めていたらしい。紙パックやソーセージのようなチューブに入っていたのは以前みたことがあった。
歴史もあることだし充填豆腐もそろそろ「充填」という呼び方を前に出して売ってもいいのではないか。
携帯といえばいまや電話のことである。充填よ、狙うのは携帯のような立ち居地である。充填といわれたらみんなが豆腐を連想する。そんな言葉になってくれ!