特集 2013年1月8日

実家のカルピス濃度について語ろうか

カルピスの濃さへの記憶と思いを語ろう
子どものころのある日。自宅に来た業者さんの休憩に母がカルピスを出していった。

「うちのカルピス薄いものだから、お口にあわなかったらごめんなさいねぇ」

うちのカルピスって薄いのか。そのとき初めて知った。続けて業者さんがいった「僕は薄いほうがいいです」という言葉で、薄いカルピスが好きな人もいるのかということもついでに知った。

今回は、26人に子どもの頃に飲んだカルピスの濃さを教えてもらった。

みんな薄かった? それとも濃かった? 2ページ以降、カルピス名言も続々飛び出します。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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オフィシャルの目安は5倍、だが

さて、カルピスである。久しぶりに買ったら形態がペットボトルになっていた。ついこの間までは紙パックではなかったかと思うのだが、様子としては瓶のころに戻ったようでちょっとわくわくする。
丸テーブルに乗せて撮ったら変な風情に
表のパッケージには「5倍に薄めてコップ約15杯分」とあるが、裏の注意書には「好みに合わせて4~5倍に」ともあった。

以前はここ、ただ「5倍希釈」とだけ書いてあったように気がする。最近ではもっと濃くてもいいことになっているようだ。なんと!
4~5倍以前に、まずは「自分の好みに合わせて」である。なんだここは自由の国か
フォロワー製品はいまだ「5倍希釈」と。カルピスだって以前はこうだった
5倍といわず、4倍でもどうぞ。いつのまにか、まさかの贅沢が開放されていた。

濃いカルピスを思って目を閉じ薄いカルピスを飲む、そんな私が子どもの頃にはまだ残っていた日本の貧しさがいまや完全に失われた形である。完全なる戦後うまれの私だが思わぬところで「もはや戦後ではない」を感じてしまったではないか。

きっちり5倍のカルピスの味とは

とはいえ、表のパッケージには5倍での希釈が目安として書かれている。カルピス1:水4が基本的な飲み方であることには今のところまだかわりはない。

この5倍という濃度、厳密に測って飲んだことが今まであるだろうか。どれくらいの濃さなのだろう。
5倍希釈で200cc分作るとすると…
カルピス量はこれくらい
多いな! 原液!

みなさんはどう感じられただろうか、私はこの原液の量の多さに結構本格的に驚いた。

コップの底に2cm以上あるカルピスなんて正直初めて見た。これが普通のカルピスなのか。いかに自分の家のカルピスが薄かったかが分かる。

飲んでみると「若干濃いかな?」くらいの印象だ。原液の量からしてもっとべったり甘いのかなと思ったのに。すごく、おいしい。これがオフィシャル濃度、5倍か……! みんな今までこんなにおいしいカルピス飲んでいたの……。

いや違うんだ、今日は過去にくよくよするための企画をやっているのではない。

ここから今回の本題である。
子どもの頃飲んだカルピスはどれですか

実家のカルピス濃度をおしえてください

我が家では薄かったカルピス濃度、よそのお宅ではどうだったのか。

まずは濃度別に細かく分けた8種類のカルピスを2人に飲んでもらったあと、さらに3種類に絞った濃度で24人に飲み比べてもらった。

ちなみに薄い薄いと騒ぎ立てた我が家のカルピスであったが、飲み比べてみるとそれでもだいたい6倍くらいかなというところだった。

7倍まではいってない。なんとなく「ギリギリセーフかな」と思うものがあったが、みんなはどうか。
濃さでいきなり揉めたのは編集部の橋田と安藤
飲食持込み自由の会場で開催とおあつらえ向きの新年会では24名にカルピス濃度を聞いた

理想と現実、なんと一致!

いきなり結果を言おう。

私を含めた27名の平均的な実家カルピス濃度は4.93倍。まさかの推奨希釈率である5倍よりも若干ではあるが濃いという結果だった。思った以上にみんなちゃんとした濃度のカルピスを飲んで育っていたのだ。えーっ、である。

さらに今回は実家のカルピス濃度に加えて、理想のカルピス濃度も調査したのだが、こちらは4.83倍

ごくごく微妙にだけ、濃い方に理想は傾いているが、基本的には理想と現実が平均濃度の5倍で一致する結果であった。

意外や、意外である!
橋田「あーたの家のカルピス、薄いんですって?」
古賀「……っ!」 という絶妙な写真が撮れてた(実際はそんなことはいっていません!)

実家のカルピスが薄い=都市伝説?

これは一体どういうことなのか。

「実家のカルピスが薄い」というのは、ちょっとした都市伝説的、笑いのネタのお約束的な部分は確かにある。

しかし、伝説を地で行くのは本当に私の実家だけなのか。

話を聞いていくと、それぞれの家そしてそれぞれの人に違ったカルピス事情があることが分かってきた。

順番に語ってもらおうじゃないか。
ちなみにカルピスウォーターってどれくらいの濃さなのかなと飲み比べてみたのだが、これがびっくりするほどカルピスとは別の物だった。濃さもちょっと判定が難しいくらい
原材料も結構違う。カルピスウォーターが「清涼飲料水」でも、カルピスは「カルピス」でしかないと今回改めて思った。希釈して飲むカルピスってすごくおいしい
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わけあって、濃い

濃いカルピス=贅沢=金持ち。

このイメージはもはや形骸化しながらもなお一般的なものだと思う。

今回は意外にも実家で濃いカルピスを飲んでいる人が多かったのだが、彼らには彼らなりに「金持ち」というのではない別の理由がきちんとあって濃いカルピスを飲んできたのだという、言い分があった。
現実の濃さ4倍、理想の濃さ3倍の編集部 橋田

濃くしたければすればいいと、母はいった

まず第一声が「金持ちだから濃いカルピスを飲んでいたわけではないのです」という橋田。

聞けば、カルピスの濃度についてはクールなお母さんとの衝突があったらしい。ある日もっとカルピスを濃くしてくれという橋田少女にお母さんはこういったそうだ。

「カルピスは薄めれば薄めるほど長く飲める。濃くすればそれだけすぐになくなる。それでも良いなら濃くすればいい

その言葉にカチンときた橋田少女、「なくなったっていい、私は好きな濃さで飲む!」と、以降4倍、下手すると3倍の濃さのカルピスを飲み続けていたという。

カルピスの供給関係としての子離れ、親離れが早かったのである。そんな家庭もあるのか。

橋田家と同様に、しかし橋田家のような衝突なくしてカルピス濃度の自由が許されていた家がある。
ビール片手にカルピスを語る、ライター榎並さんは現実の濃さ3倍(!)理想の濃さは4倍

濃さについての権限を1人1人が持っていた

子どものころ、3倍のカルピスというとんでもなく濃いカルピスを飲んでいた榎並さん。なぜそんなことができたのか。

「うちではカルピスの濃さを決める権限を家族それぞれが持っていたんです。セルフカルピスだったんですよ」

それぞれがそれぞれに好きな濃さのカルピスを責任を持って飲む。榎並さんは埼玉育ちだが、実はアメリカはニューヨークのマンハッタン出身という経歴の持ち主である。

今回、意外なところでニューヨークらしさが出た。

一方、濃いカルピスに苦々しい思いを抱いている人もいた。
ライター伊藤さんは現実の濃さ3.5倍、理想の濃さ5倍と“普通のカルピス”に憧れていた

母が心配性すぎた

「母が心配性なんです。多めに原液を入れないとまずくなるのではといつも不安がっていて、それで濃いカルピスを」

心配するあまりにカルピスが濃くなる。カルピスの味がいかに母の味かということを象徴する話である。

「スポーツドリンクも粉から作ってくれたのですが、濃かった。じょりじょりいってました。スポーツドリンクなのにごくごく飲めないんですよ」

それでも理想の濃さは5倍と反動で極端な薄さを望まないあたりが大人である。
べつやくさんは理想も現実も4倍。理想的なカルピスライフを送っているといえる

家の味がとにかく濃い

親の濃い味に素直に喜び、そのまま育った人もいる。

「うちはカルピスだけじゃなくて味付けが全部濃いんですよ。砂糖も塩も濃い。“甘さひかえめ”の世の中を憎むようなところがある家なんです。私自身も今も濃い味派ですね」というのがべつやくさん。

確かに、濃いカルピスを飲む家は料理の味も濃いのだろうなと思う。

「唯一、ポカリスウェットだけは薄いほうが好きです。濃いとあれ、カーッとなるから」

というが、濃いポカリを飲んでカーッとなった経験があるというのがまずすごい。ポカリこそがばがば薄められてなんの味もしなかった覚えしかない(そしていよいよ我が家の薄味志向もどうかと思う)。

一概に、濃いカルピスを飲むからといって極端なお金持ちというわけではなく、それぞれの家庭にそれぞれのカルピスストーリーがあることが分かった。

のだが、そんななかでいわゆる“一周回って”という形で金持ちを主張する人々もいた。
ライターきだてさんは現実が4倍、理想が5倍。「薄いほうがいいな」と思っていたタイプ。隣の編集部 安藤の視線が厳しい

申し訳ないが金持ちなんです

「家が金持ちなんですよ、ちょっとしたぼんぼんなんです。だからカルピス濃いんです! カルピスって甘い飲み物だよなぁって思っていました!」

周囲は控えめながら、ざわざわである。

きだてさんは話を聞く前から「もうカルピスの話題は申し訳ないからどうか勘弁しておくれやす」という雰囲気を出していた。

カルピスが濃い家の人は、こういう空気にさらされて今までを生きてきたのだと思うと感慨深い。

そんな空気を、逆切れでぶち破るという人も現れた。
デイリーポータルと共同でコラボ案件を企画するNHNの谷口さん(左)は理想も現実も4倍。5倍のカルピスで生きてきた雑魚雑魚の平野さん(右)とにらみ合う

「4倍より薄いのはみんな貧乏」の世界へようこそ!

「滋賀県出身、谷口です。実家のカルピス、4倍でした。理想のカルピスも4倍です。うまいカルピスといえば4倍です。4倍より薄いのはみんな貧乏ですね」

颯爽とあらわれてこの物言いである。時代が時代なら一触即発、いや、気の早い者がいたらちょっとした小競り合いになるところだろう。

「いや、4倍は濃い。濃すぎてうまくないでしょう」温厚な様子で平野さんが軽くいなしてその場はすんだのだったが、わざとふりきったような谷口さんのコメントに、きだてさんに続き濃いカルピスを飲んできた人たちの悲しみのようなものに触れた気がしたのだ。
さあ、もっとカルピスの話を聞かせておくれ

薄さをポジティブにとらえる人たち

カルピスが濃い家で育った人々にたくさんのストーリーがあることは分かった。逆に、私を含め薄い派の家で育った人に特にこれといった話が出てこなかったのも印象的だ。

意外だったのは、普通のカルピスで育った人の中から薄さを求める声が多かったことである。

どうして薄いほうがいいのか。聞いてみた。
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薄いカルピスこそうまい

薄いカルピスというと悲しみでしかないように思い込んでいたが、世の中そうではないらしい。

薄いカルピスこそ望んでいた飲み物と主張する人たちの意見を聞いてみよう。
ライター藤原さん(右)は現実5倍、で理想はぐっと薄い7倍! 濃い派のべつやくさん(左)がぽかーんとしている

濃いカルピスはお節だ

好物はキャベツと豆腐、薄味派も極めつけというライター藤原さんはなんと理想のカルピスを7倍という。

7倍といえば、今回の飲み比べて「これはさすがにない」「カルピスの瓶を洗ったときの水をよく飲んだがこの味だった」「たまにこういうのが出てくると『今日のはひどい』と思う」などさんざんに言われた薄さ。それを所望とは。

「薄いのが良いというか、濃いのが違うなと思うんです。4倍以上だとお節の甘さですよね。砂糖が貴重だったころの田舎のもてなし料理というか」

個人的に4倍はおいしいばかりで甘ったるさも感じなかったのだが、これが好みというものなのだろう。

いわゆる草食系といわれる人はカルピスすら薄め。本気を見た思いである。
ウェブマスター林も6倍で育ちながらもっと薄い7倍が理想と

町内会のおっさんのカルピス

薄味で育っても反動で濃い味を求めず、もっと薄くというのがウェブマスターの林。

「家で出されたカルピスはもっと薄くして欲しいと思ってた。子どものころ、町内会のおっさんが薄いお茶を飲んでて、薄いのいいなーって」

子どものころの憧れが「おっさんの飲むお茶の薄さ」とは。そういう憧れの種類もあるのだ。
7倍、8倍にもなると色も薄くなってくる

ただ、カルピスをいっぱいのみたいと願う

試飲しても試飲しても、実家の濃さが思い出せなかった人もいた。ライター小野さんだ。
唯一無回答だったライター小野さん
「分からないんですよ。どれもおいしいように感じる。7倍でもいいような。でも濃いほうがやっぱりうまいか…」

ちなみに小野さんはお酒は飲みつけない方なので、酔って味が分からないというのではない。本当に分からないようなのだ。

「ただ、いっぱい飲みたいという気持ちは強いから、薄くてもいいのかな。でもなぁ」

結局、アンケートは無回答となった。

実はこの小野さんの迷いに、ほとんどアンサーといってもいい回答があった。
実家は5倍、理想は6倍と一応の答えを出したものの、釈然としない表情の編集部 安藤

出されたらそれがカルピス

出されたら、それがカルピスだと思うんですよ」

8種類の濃さを飲み比べてもらって出た言葉だった。2倍もカルピス、8倍でもカルピスである。確かに間違ってはいない。

カルピスって、子どものころは“出される飲み物”だった。どの濃さも出されたらそれがカルピスだったのだ。

大人になった今もなんとなくその気持ちが変わらないというところ、あるのではないか。
飲食持ち込みの雑多な宴会場になじむ試飲カルピス

カルピスを“出されなかった”人は

実は今回、27名のサンプル中6人という高確率で実家でカルピスを飲んだ覚えがあまりないという人がいた。

カルピスを“出されなかった”人たち、である。

そういった人には理想の濃さだけを聞いたのだが、意見が真っ二つに割れた2名がいる。
ニフティで当サイトの面倒を見る鶴久課長は7倍を希望
一方ライター小堺さんは4倍を(そして変なポーズ)
なくなる悲しさはできるだけ先延ばしにしたい。だから飲むなら7倍に薄める」というのは弊社鶴久。

「せっかくだからおいしく飲みたい。早くなくなってもおいしさは譲れない。4倍で飲みたい」と真っ向からの意見をぶつけるのはライター小堺さんだ。

カルピスを“出された”経験があまりないからこその、自分でカルピスを注ぐ目線でのコメントである。

さあ、そろそろ書いていてこんなにカルピスカルピス言って私は大丈夫かと不安になる頃合だが、もう一押ししておきたい。
ライター地主さんは実家が6倍、理想は4倍。でも自分で作るなら7倍

東京ではじめて飲んだ3倍カルピス

最後に紹介するのはライター地主さんからのコメントだ。地主さんは実家と理想の濃度に加え、自分で作るならという部分をかなり強めに主張していた。

「友達の家で4倍のカルピスが出たらうわーって思いましたよね。うらやましくて。3倍までいくと東京に出てきて初めて飲んだくらいの濃さだと思います」

濃いカルピスへの憧れの強さはマンガ並みで、私としてはシンパシーを感じまくりである。

「でも自分で作るなら7倍なんですよね。経済的なほうがいいです。自分で作って自分で飲むなら7倍です」

大人になってもなお、カルピスの理想と現実は遠いのだ。なんとなく、そうこなくっちゃ、カルピスは! と思った。
あまったカルピスを別のペットボトルに詰めたらあまりおいしくなさそうな感じになってしまった

カルピスの濃さは自由だ

かつて「カルピスの濃さは自由だ」といった人がいる。当サイトのライターだった宮崎晋平さんだ。残念ながら若くして亡くなった宮崎さんだが、そのなんとも含蓄のない名言は忘れられない。

もう大人である。カルピスの濃さは自由だ。あと、意味もなくカルピスの濃さについてやいのやいの言って楽しむのも自由だなーと感じたのだった。

久しぶりにしみじみ飲んだカルピス、おいしかったです。
カルピスは比重が水よりも重いので、希釈するとき重さで測ると薄くなるとライター馬場さんにおそわって気づく
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