特集 2012年12月3日

新宿から2駅の、沖縄タウンへ

「あのさー、杉並区……って言っても京王線の代田橋にさ、沖縄タウンがあるらしいんだけど、行ってみない?」
と友人・Tさんを誘ったら、
「……なんでそんな場所、知ってるの?」
ときかれた。
えーと、なんでだっけ? テレビか雑誌で、見たんだっけ?

なんでも、杉並区は、23区内で沖縄関係の在住が多く、沖縄料理の店も都心では一番多いらしい。
そこで、商店街おこしで、沖縄をテーマにしたのだとか。和泉明店街=沖縄タウンは、平成17年にオープン。わりと最近ですね。
埼玉生まれ。電子書籍『初恋と座間のヒマワリ』(リイド社刊)発売中。最近、ほぼ毎日ブログを更新していますので、良かったら読んでください。

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というわけで11月某日、水曜日。
Tさんは仕事で遅れるというので、とりあえずひとりで行ってみた。
代田橋は新宿から2駅。大都会から、ほんとに近い。でも降りたことがない駅だ。
駅前、こんな感じ。本屋さんとか飲み屋さんとかあって、ごくフツーです。
でもよく見ると、お弁当販売のところに、タコライスがあったりして。
自動販売機に、沖縄の、さんぴん茶があったりして。
駅近の商店街なんだから、地図詳しくチェックしなくても大丈夫だろ、と思ってやって来たのだが…。
商店街、駅に隣接してるのかと思ったら、ちょっと離れていた。
看板にそって歩く。
横断歩道で、甲州街道をわたる。
甲州街道の上を通り、走る車をながめながら、
「甲州街道越えるのって、距離的にはそんなに遠くないけど、精神的には遠いな~」と思った。

大きい道路を越えて、また、矢印にそって歩く。
え、ここ?
まじでここですか?
ここ……なのか?
という場所に、沖縄タウンの入り口があった。
華やかさがない。細い道。え、間違ってないよね? ここだよね? と思いながら、道を歩く。
あっ、酒屋さんが、泡盛をたくさん売っている!
沖縄そば屋さんがある!(閉まってるけど)
普通の中華料理屋さんがあったけど、沖縄に歩み寄ったメニューがある!
沖縄の物産屋さんがある!
沖縄の物産を売っている、ちいさな商店に入った。
おばさま二人で、店番していた。
沖縄のブルーシールアイスクリームも、スクープで売っていたけど、あまりに寒い日なので、やめておいた。
端が赤く塗られている沖縄の箸、じゅーしぃの素、沖縄そばのカップめんを買おうとして、レジに持っていったら、
「あ、このカップラーメンと同じで、賞味期限が近いものが、割安になってるんです。そこに並んでるんですけど、もし、すぐに食べられるのでしたら、そっちになさったほうが、いいですよ。」
と、おっしゃるのだった。
商売っけ無し!
っていうか沖縄っぽさのない、完璧な東京おくさま言葉!
と思いながら、すすめられるがままに、安いほうを買った。

商店を過ぎ、歩くと、雰囲気はどんどん「昭和」っぽくなる。
そもそも、新宿から2駅の場所に、2階建ての、古い建築物が並んでいるのがおかしい。
こんな場所に、こんな雰囲気の場所あんのかー…、とビックリしながら歩く。
ネコに遭遇。さわらせてくれるネコだった。
ネコにさそわれ、市場的なところに入る。っていうか、入り口ここでいいのか!?
ここが大都市場か。沖縄料理屋さんがある。たぶんこの沖縄タウンで、メインの場所らしい。
あっ、乾物屋でランチョンミート売ってる。
乾物屋で、うわー、ここは沖縄の食品ちょっとしか置いてないけど、すっごく昭和の雰囲気の店構えで、お好きな人にはたまらないだろうなー………と思って品物をきょろきょろ見ていたら、
「あ、先ほどはどうも……」
と、さっき安いインスタント麺をすすめてくれた、おばさまがやって来た。アレ?
「私、当番の時間が終わったんです(本当は乾物屋がメインなんです)。」
と話出すおかみさん。
「どちらからいらっしゃったの? 近くから?」
え? ええ、まあ、ハイ、と答える。
……平日にウロウロしてるということは、遠方からの客じゃない、と思われたんだろう。それとも、近辺からの来客が、本当に多いのかもしれない。
沖縄タウン面白いですね、と話すと、
「でもなかなかねえ。食べ物屋さんはいいけど、物産はね、品物がまわっていかないから…。でも維持していかないと、ねえ。(商店街の)みんなで維持してるの。
数年前は、もっと、若い人とかいて、お店やってたりしたんですよ。でも入れ替わりがあったりしてね、なかなか、ねえ。」
と、こぼすおかみさん。
えーと、えーと、と思い、貼ってあるポスターを指差して訊く。
9月には、沖縄のお祭り、やってるんですね?
「そうですね、毎年。でも1日目は普通のカラオケ大会で、二日目が、沖縄の音楽ですね。」
ブルーシールアイス、300名様無料配布って書いてありますね。これ、すごいですね!
「それは、すごく列が出来たりして、大人気なんですよ。良かったら来年、いらしてね。」
ハイ! と答えながら、じゃあこのランチョンミート安いから買います、とレジに持っていく。
「ありがとうございます。ほら、うちは乾物屋だけど、やっぱり沖縄タウンだから、沖縄っぽいものも少しは置いておかないと、と思って、置いてるんですよーうふふ。」
なるほど。
ところで、そこで猫ちゃん見かけましたけど、商店街の猫なんですか? ときいたら、
「あれは花屋さんの猫ですね。でもウチにも4匹いるの。今、暖房の奥で寝てるけど……。」
とのことだった。猫4匹、会いたかった。
さ、飲みますか。
どっちの店にしようかな。
ここで、会社帰りのTさんと合流。
「なんか、変なところだねーココ、『孤独のグルメ』テレビ版で、ロケとかすりゃあいいのにねー」
と言っていた。
私もそう思う。

せっかくだから市場の中の店に入った。「てぃんさぐぬ花」という、キレイな店だった。
なぜか2階にコタツが完備してあった。
さて、こういうテーマパーク的な店のど真ん中で、それっぽい店に入ったわけだから、店には失礼だけれども、実はさほど期待していなかった。
しかし。
まず値段を見て、「都内の沖縄料理店としては、とても良心的価格!」ということに感激した。
そしてバイトの女の子が、なぜか全員可愛かった(偶然かもしれないが)。
突き出しが、沖縄直送野菜の蒸し野菜! あぶらみそなどを付けていただきます。
このシークワーサーサワー、うまー!!!
Tさんが生絞りシークワーサーサワーを飲みながら、
「この風味!! みかんのように甘みのある独特の香り!! これねー、本当に新鮮なシークワーサーじゃないと出ない味なんだよ!
昔、プロントでバイトしてた時にさあ、沖縄マニアの社員さんが、店舗リージョナルメニュー作るためにシークワーサーを取り寄せててさ、この味だったんだよねー。あの時、飲みまくった味と一緒だわー。」
と、勝手に青春を思い出していた。
私はたんに「飲んだことのない味、おいしー」と思った。
刺身も美味しかった。わさびが、ちゃんとすりおろしたわさびだったのも、丁寧でぐっときた。
どぅる天。
田芋(ターンム)を蒸かして、だし汁、椎茸などと練り上げた、「どぅる天」もすごく美味しかった。
地味~だけど、しみじみした味わい。はあ、かつおぶしとかしいたけとか、いろんな味がジワジワする…。

「ちょっと大塚さん! この店、久々の当たりなんじゃないの!?」とTさん。
そしてやおら、スマホを取り出し、食べ物屋評価サイトをチェックしはじめるTさん。
「ん、別に高得点じゃないね。なんでだよ!?」
……来にくい場所にあるからじゃないでしょうか。
スクガラスの揚げ物もおいしかったよ。
時間が深くなるにつれ、グループ、カップルで、席が埋まっていった。
平日なのに、駅から遠いのに、こんなにお客さんいるのは、普通に人気店なのでは…? と思った。

トイレから戻ってきたTさんが言った。
「大塚さん、どっちに入ろうか迷った隣の店、姉妹店みたい!」
え、そうなんだ。なんだそれ。
直送野菜のゴーヤチャンプルーは、ちゃんと苦くていい味。

私はこの沖縄タウン、

・昭和くさい絶滅危惧種な町並み
・ネコがころがってるところ
・なんとかやっている物産店
・乾物屋の丁寧なおかみさん
・うまい沖縄料理店

もう、これだけで、かなり好きになった。
住みたい。っていうか、あの商店街の空いてる店に、店を出したいくらいだ。
でも意外と家賃高いのかなあ…だって新宿から2駅なんだもん!

いつまであるんだろう、こう昭和ノリ。
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